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騎士になる夢
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ざらざら、ざらざらと鳴いていた蝉がいつの間にか静かになって秋が来た。
四季の巡りが感じられるスピネル王国では、今まさに稲刈りの時期で、農民たちが忙しなく畦道を農機具を手に動き回っている。
そんな風景に溶け込むように、アスファルトの農道を、体格の良い青年たちが列を作って走っていた。肌寒い気候の中、彼らは黒い半袖に長ズボン、足元は動きやすい運動靴を履いている。
列の先頭は青年たちよりもやや年上に見える男性が仕切っている。半袖から覗く鍛え上げられた筋肉が、鍛錬の時間の差を物語っていた。その男性が列の最後尾にまで届くような声で叫ぶ。
「あと半分、ペース落とすなよ!」
その声に青年たちは「はい!」と腹の底から声を出して返事をする。最後尾を走るカエデも、茶色い髪を揺らしながら、やっとの思いで「はい……」と応えた。
カエデはこの時間が一番苦手だ。大切な鍛錬とはいえ、長距離を走ることは体力の無い自分にとって地獄でしかない。
「おばあちゃん、あのお兄ちゃんたちは何をしているの?」
「ああ、あのお兄ちゃんたちはね、騎士になるためのお勉強をしているんだよ」
農作業を手伝っているのだろう、五歳くらいの少女とおそらくその祖母の会話が耳に入る。そう、これは「勉強」だ。騎士になるための……カエデは心を奮い立たせる。今年こそは、絶対に騎士になってやる、と。もう二十一歳の自分には時間が無い。早い者は十代後半で騎士の試験に合格しているというのに……いつの間にか、騎士見習い最年長者になってしまった。
大抵の者は、二十歳になっても騎士の試験に合格しない場合、自らその道を諦めて別の職業に就く。だが、カエデはどうしても騎士になるという夢を諦められずにいた。
——騎士になって、王子様を守るんだ。
どくん、とカエデの胸が鳴る。
カエデにとって、この国の王子の存在は特別なものだ。
四季の巡りが感じられるスピネル王国では、今まさに稲刈りの時期で、農民たちが忙しなく畦道を農機具を手に動き回っている。
そんな風景に溶け込むように、アスファルトの農道を、体格の良い青年たちが列を作って走っていた。肌寒い気候の中、彼らは黒い半袖に長ズボン、足元は動きやすい運動靴を履いている。
列の先頭は青年たちよりもやや年上に見える男性が仕切っている。半袖から覗く鍛え上げられた筋肉が、鍛錬の時間の差を物語っていた。その男性が列の最後尾にまで届くような声で叫ぶ。
「あと半分、ペース落とすなよ!」
その声に青年たちは「はい!」と腹の底から声を出して返事をする。最後尾を走るカエデも、茶色い髪を揺らしながら、やっとの思いで「はい……」と応えた。
カエデはこの時間が一番苦手だ。大切な鍛錬とはいえ、長距離を走ることは体力の無い自分にとって地獄でしかない。
「おばあちゃん、あのお兄ちゃんたちは何をしているの?」
「ああ、あのお兄ちゃんたちはね、騎士になるためのお勉強をしているんだよ」
農作業を手伝っているのだろう、五歳くらいの少女とおそらくその祖母の会話が耳に入る。そう、これは「勉強」だ。騎士になるための……カエデは心を奮い立たせる。今年こそは、絶対に騎士になってやる、と。もう二十一歳の自分には時間が無い。早い者は十代後半で騎士の試験に合格しているというのに……いつの間にか、騎士見習い最年長者になってしまった。
大抵の者は、二十歳になっても騎士の試験に合格しない場合、自らその道を諦めて別の職業に就く。だが、カエデはどうしても騎士になるという夢を諦められずにいた。
——騎士になって、王子様を守るんだ。
どくん、とカエデの胸が鳴る。
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