異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

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第6章 王都への帰還の前に

第五十六話 祝勝会の準備①

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 夕方になり、天高く登っていた太陽も傾いている。オレンジ色に色づいた空の下、町中の人達が騎士団本部の近くにある大きな広場に集まり、祝勝会の準備をしていた。
 ざわざわとたくさんの人が行き交い、慌ただしく動き回る。
 魔物が倒されたという情報は瞬く間に町民や避難していた村人達の耳に伝わった。
 家で待機しており、戦闘の様子や聖女の浄化の様子を見ていなかった者にもそれは伝わり、町中がその喜びを讃えようとしている。
 今まで以上の危機的状況から脱したのだ。その喜びは計り知れないものであっただろう。
 そして町を挙げての盛大な祝勝会が今、この辺境の町の中でも一番広い広場を中心に開かれようとしているのである。
 広場で何やら準備をしている男がかがめていた腰を元に戻した。
 その男に向かってくる村人が一人。
 腕には新鮮で色艷やかな野菜がこんもりともられた籠を抱えている。
「お~い、パン屋の旦那!村からありったけの野菜をとって来たぞ~!」
「バナッシュさん。……おぉ、こんなにたくさん!しかし、いいのかい?」
「いいんだよ。まだ蓄えならたんとある。これは今朝採れたてのもんだ。遠慮なく使ってくれ!」
「なら今夜の料理に回させてもらうよ。実はうちのかみさんが今回の宴会の料理全般を取り仕切ることになっちまってな~。町中の料理の上手い女達が集まって料理を準備してる所なんだ」
「なら丁度良かった‼まだまだ村のもんが食材を持ってくると思うぞ。何しろ宴なんだからな‼」
 二人は顔を見合わせてガハハと笑った。「いや~、困ったな~」と言っている割には気分のいい晴れやかな笑顔だ。嬉しそうでもある。
 二人は料理を担当するパン屋の奥さん達の元へ、賑やかに笑いながら向かった。
 至る所で笑い声が上がっている。
 それは、辺境騎士団本部の建物の中からでも聞こえてくるほどであった。
 客室でのんびりとくつろぎながら、諸々の疲れを取るために休んでいた結菜はふかふかのソファから立ち上がり、まだ眠たい目を擦りながら窓の外を見た。
「わぁ~!すごい人‼」
 窓からは広場の様子が一望することができるようだ。町の活気が溢れている。
『主。もう大丈夫なのか?』
「うん、もう平気だよ。さっきまで寝ちゃってたしさ」
『確かにそうだな』
「あれ?勇者さんと賢者さんと騎士さん達は?」
『む?主が眠ってしまった後、皆出ていったぞ?邪魔したらいけないからと言ってな』
 肩には誰かがかけてくれたであろう毛布があった。毛布で身を包み直しながら、結菜はソファに戻った。
 目の前には陶器製のポットとクッキーっぽいものが置かれている。
 結菜はずっと頭の上に鎮座しているロンを膝の上に下ろした。
「ロン、一緒に食べる?」
『むむっ⁉いいのか⁉』
「もちろん‼」
 二人してクッキーっぽいものをパリポリ咀嚼する。
 味はクッキーと同じだが、食感はお煎餅みたい。いや、クッキーよりももっとあっさりした味だろうか……?甘くはない。まぁ不思議な食感である。
 食文化があまり発達していないこの世界の中で唯一お菓子と言えそうなものであろう。
 地球だったらお菓子というよりも、携帯食みたいな感じだ。わかりやすく例えるなら、カロリーメイト×お煎餅。
 クッキーっぽいものをモクモク食べながら、ポットの中の紅茶も飲む。まだ暖かい。
 結構美味しく頂きました。はい。最後の一杯の紅茶をゆっくり味わう。
 結菜とロンはほぅと息を吐いた。
「美味しかった~」
『うむ。美味かったのだ』
「ていうか、ロン紅茶飲めれたの?何か一緒になって飲んじゃってたけど」
『我は雑食なのだ。肉も魚も野菜も食べられるぞ?まぁ、基本的には主の魔力を食べているから食べなくても生きていけるけどな』
「えっ⁉雑食だったの⁉」
 クランに居た時も城に居た時も、ロンが野菜などを食べている所は見たことがない。
 ホットミルクや肉しか食べている所を見ていなかったのだ。
 結菜が驚くのも無理もないことである。
(む~。それならそうと先に言ってくれたらよかったのに………。もう、ロンったら)
 もやもやしながらロンを撫でまくる。さらさらで柔らかい毛がもふもふを奏でている。
 もふ、もふもふ……もふもふ、もふもふもふもふ。誰もいないから堪能しまくれる。すりすりすると、太陽の匂いがした。
 ほら、布団を天日干しした直後のあのいい匂いである。
(あ~…………。ほっこりする~。もふもふさいこ~………)
 くすぐったそうに動くロン。そんなことはお構いなく、結菜はもっふもっふした。もう大満足である‼
「ふぃ~」
 結菜は爽やかに顔をあげた。もう眠気などは全くない。
 息も絶え絶えで呼吸を整えているロンの頭を優しく撫でる。
「ねぇ、ロン。これからどうする?」
『む?』
「何か私、結構回復してるんだよね。ずっとこの部屋にいると飽きちゃうかもな~って」
『……主。外に行きたいのか?』
「正解‼さっすがロン!よくわかったね」
『そんなことくらいすぐにわかるのだ。我は主が大好きなのだからな!』
 お座りの体勢でパタパタと尻尾を振っている。誇らしげに言うその姿は本当に愛らしい限りである。
「あ~。かわいいな~」
 すりすりタイム再開。しばらくすると、そこには満足そうな結菜とゼイゼイ言っているロンの姿があった。
「んじゃ、ロン!外に行こっか‼」
『うむ‼』
 ロンがまた頭の上にピョンと飛び乗って丸くなった。……定位置と化したようである。
 建物の中を左右左左右……。騎士達が話しかけて来てくれたりする中、ロンを頭の上に乗せながら、結菜は出口へと向かった。
 空が闇を迎える中、外は町明かりがキラキラと煌めいている。人がたくさんおり、楽しそうな笑顔でいっぱいだ。
 音楽も奏でられている。まさに祭りのようであった。
「うわぁ~‼」
 結菜はキョロキョロしながら、広場を見て回った。
 人の間をすり抜けていく。
 ぐるぐる見て回ること数分、ふわりといい匂いがするのを結菜は感じた。食べ物を料理しているみたいだ。
 どんな料理かなと興味がそそられて、一直線にそちらの方へ足を進める。
「あった!あそこだね‼」
 いい香りがするのは、どうやら広場に面している建物からみたい。
 飲食店のようである。そこには慌ただしく女の人達が出入りしていた。
 野菜や肉などを運ぶ村人の姿もある。
「パン屋の奥さん‼また食材が届いたよ‼」
「はいよ。そこに置いといてちょうだいな」
「奥さん、肉を持って来たよ。これもどうか遠慮なく使ってくれ!」
「ありがとね。じゃあ遠慮なく使わせてもらうよ」
 パン屋の奥さんは忙しそうに動き回っている。女の人達はかなりの人数いるのだが、やはり忙しそうである。
 猫の手も借りたいと言いたくなるレベルであった。
 人だかりが減ってきて、建物に料理をする人しかいなくなった時を見計らい、結菜はその女性に近づいて行った。
「あの、何か手伝いましょうか?」
「?あんた手伝ってくれるのかい?」
「はい。私、料理得意なので」
「そりゃ助かるよ。今てんてこ舞いでねぇ」
 届いた食材の入った箱をよいしょと持ち上げながら、パン屋の奥さんは結菜を調理場へと連れて行った。
 
  
 
 
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