異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

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第5章 聖女として……

第五十五話 任務完了‼

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 瘴気による暗がりが一切なくなり、みるみるうちに隠れていた太陽が顔を出す。
 結菜は想像以上の結果に小躍りしたくなった。
 結菜は浄化魔法を発動する際に、いわゆるアニメや自分のゲームなどのイメージを採用して発動をしていた。もうレベルMAXに近いキャラクターが使うアレである。
 まぁ簡単に言うと、チートキャラの放つ魔法と同じレベルのものを想像してしまっていたのである。
 オンラインゲーム上ではそんなキャラは何人もいた。その環境に慣れている結菜が自重するという感覚を持っているのか自体が怪しい………。
 つまり、彼女の感覚とこの世界での感覚にはかなりズレている所があるのである。
 結菜が純粋に喜びの感情を抱く中、周りでその光景を見ていた者達が今どうしているのかは想像に難くない。
(おっと、まだ魔法は終わってなかったんだっけ……)
 上を向くと、魔法陣は瘴気を後少しで吸いきるところであった。
 風がピタリと止まった中で、残りの霧が魔法陣を取り囲んだ瞬間、

 シャァァァァァァン……………

 清涼な鈴の音のような音が響き渡る。光が魔法陣から吹き出して、役目を果たしたとばかりに光の粒となった。
 温かい光の波が辺りに広がる。
 そよ風がさらりと頬をなでた。
 結菜は静まり返った空気が徐々に元に戻っていくのを感じた。
 念のため身体にかけていた聖魔法を解く。
 あのピリッと肌を刺す感じはない。瘴気が一切なくなったのである。
(ねぇ、これ成功だよね?)

《はい。現在瘴気は大気中に残っていません。管理者の魔力が惜しげもなく使用されたため、広範囲の瘴気が浄化されました》

 これならしばらく魔物が発生することはないと鑑定さんが断言してくれた。
 ならもう一安心である。
 結菜はホッとため息を付きながら、天高く登る太陽を仰いだ。
 賢者達の元へ戻ると、皆興奮したように駆け寄ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま‼賢者さん」
「……よくやったな。凄かったぞ」
「うわっ⁉ゆ、勇者さん?」
「聖女様‼あの魔法どうやったんですか⁉」
「感動しました!姉さんと呼ばせてください‼」
 ロンから降りた結菜の頭をガシガシ撫でてくる勇者。それをにこやかに笑いながら、賢者が結菜に声をかける。
(ん?てか姉さん?なんで姉さん?)
 何か強烈な違和感を感じ、口々に声をかけてくる騎士の方向を見る。
(幻聴?…………じゃないね………)
 キラキラした目でこっちを見てくる騎士達。しっぽが見えそうである。例えるなら忠犬、かな?
「えっと~。なんで姉さん?」
 疑問解決が先である。結菜は乱れた髪を手櫛で直しながら、尋ねた。
「「「「かっこいいからです‼」」」」
「……………はい?」
「あんな魔法使えるなんて憧れですよ‼物語の中の人みたいです‼」
「それに、団長ぶっ飛ばしてくれたしな」
「えっ⁉あの団長を⁉」
「おう‼なぁ、聞いてくれよ。かくかくしかじかで…………」
 そのまるで自分の自慢をするように話す騎士に熱心に耳を傾ける周りの騎士達。
 結菜と賢者は勇者顔を見合わせた。
「……ねぇ、どうしたらいいの?これ」
『………………………』
「さぁ」
「安心しろ。すぐに収まる」
 それ、求めた回答じゃないです。結菜は遠くに目をやった。どうしてこうなったんだ?と頭がショートしそうになる。……自分が蒔いた種だとは気づかない結菜であった。
 今度は他の騎士が回復魔法のことを話し始めた。ワイワイ盛り上がる騎士達。
「おい、お前達。そろそろその辺にして置け。町に帰ってからでも出来るだろう」
 一番冷静であった副団長が興奮気味な彼らを見かねたようだ。
「さぁ戻るぞ」
「「「「はっ‼」」」」
 この時ばかりは本気で感謝の舞を踊りたくなった結菜であった。有り難い限りである。
 草が枯れきって、その枯れた草さえもない大地が広がっている。
 そんな中、町へと一行は戻り始めた。
 茶色い地面が覗く大地はまたすぐに元気を取り戻すだろう。
 青々としたその姿がまぶたの裏に思い浮かぶようだ。今度来た時、それが見れたらいいなと思う。
「ロン、そろそろ」
『うむ。わかっておるのだ。もうすぐ町中だからな』
 結菜の隣を歩いていたロンが了解したとばかりに頷く。
 ロンが元のミニマムサイズになって結菜の頭の上を占領した。
 満足気にあふっとあくびをして、丸くなる。
「………ロン。重い」
『筋トレなのだ。筋トレ』
 存外に退いて欲しいと頼む結菜の要請をあっさりロンは退ける。
 何処が筋トレだ。結菜は救いを求めて勇者を見た。
「似合ってるぞ」
 違ぁぁぁぁぁぁぁあう‼そうじゃない‼あまりの見当違いな回答であった。
 今度はバッと賢者を見つめる。何とかしてと。
「帽子みたいですね」
 さっぱりした笑顔で返された。手を貸すつもりはないらしい。
「姉さん!似合ってるッスよ‼」
 まだ姉さんと呼ぶ者が一名。
「いいですね‼その子、ロンって名前なんですよね?後でちょっとお借りしてもいいですか?」
 もふもふを堪能しようとする者が一名。
「素晴らしいファッションセンスですね!僕も真似したいです‼」
 ちょっとよくわからない者が一名。
 何だかロンを退けられそうにないらしい。
 ガックリと肩を落としながら、結菜はため息をついた。魔力を使いすぎて言い返す気力さえわかない。
 帰ったら侍女さんにあの美味しい紅茶を用意してもらおう。
 ふと、自分の今思ったことを振り返って、結菜は足を止めた。
「ん?……帰ったら、か」
 あぁ、自分の居場所なんだな、と実感する。
 皆が優しくて勇者さんとも賢者さんとも皆との生活が色鮮やかだ。もちろんロンも。
(そういえば、まだ二ヶ月もたってないんだっけ。この世界に来て)
 どうして自分がこの世界に迷い込んでしまったのかまだわからない。元の世界への思いが何もないわけではない。
 でも、今自分は充実している。何だかんだ言っても聖女になって良かったなと結菜はくすりと微笑んだ。
(人助けもできるし、何か楽しいし!)
 ただ、とりあえず自分の自由にこの世界を満喫しようと今は考える。だってわからないことも後でわかるはずだから。
 いきなり立ち止まって笑顔を浮かべた結菜を、賢者が不思議そうに見つめた。
「どうかしましたか?」
「行くぞ」
 またワシワシ頭を撫でられる。なんでだろうか。頭撫でるのが好きなんだろうか。
「ううん。なんでもないよ」
 考え事は後にまわすことにした。自分を待ってくれている皆の元へと歩を進める。
「姉さん!今日は広場で宴会があるかもですよ‼」
「おい。聖女様だ、聖女様。まぁでも今回は町中の皆で祝勝会でもあるかもな」
「そうだね~。もしかすると、この町も壊滅するかもだったんだし。あるでしょ」
「姉さん‼どうか参加なさってください‼」
「……姉さん。まぁいっか」
 なんだろう。「姉さん」が定着しそうである。まぁ彼らは親しみを込めて言ってくれているので何だか言いづらい。悪気は全くないようだし……。
 結菜は勇者と賢者を見つめた。
「いいですね、祝勝会。これから王都に向かうと中継の町につく前に途中で夜になりますし。今日はお世話になりましょう」
「そうだな。ユーナも疲れを癒やすべきだしな」
 決定したようである。
 避難していた村人達や町人達が無事な帰りを喜び、歓迎する中、一行は明るい雰囲気で一旦辺境騎士団本部へと戻って行った。



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