43 / 75
第5章 聖女として……
第四十一話 風の耳を使って
しおりを挟む
騎士団の建物内の窓から結菜は走り去って行く勇者達の姿を眺めた。その目には応援するかのような光が灯っている。
『主、いいのか?』
「ん?何が?」
質問の意図がわからず結菜は腕の中で丸まっているロンを見た。
『そなたは行きたかったのであろう?素直に納得してもよかったのか?』
確かにロンの言う通りだ。自分は聖女に選定された時も、今ただ一人ここに残されてもあまり抵抗なく素直に従っている。しかし、それはどうなってもいいとかいう投げやりになっているからではないのだ。
ただあの二人の真剣で必死な姿があったことと、意外にも心に拒絶が浮かばなかっただけ。あの二人が自分のことを蔑ろにしないと、あれでも自分の気持ちを尊重してくれているということは初めから何となくわかっていたのだ。だから……。
「いいのいいの‼それにいざとなったらロンを連れて私も行くって約束もなんとか取り付けられたんだしさ」
まだ救いを求める誰かを今すぐ助けたい気持ちはある。だが、それは今じゃないことは結菜にはわかっていた。今自分が行けば足手まといにしかならないのは確実。ならばせめて、最悪でも魔物達が勇者達によって弱らせられてから行くことにしようと結菜は考えていたのだ。
「それに、魔物って元はと言えば瘴気の塊なんでしょ?なら怪我した所を私の聖で浄化できるかもしれないじゃない」
その意外と前向きな(戦場に行こうとしている)結菜の姿を見た団長は、慌てて彼女をとりあえず落ち着かせようとする。
「聖女様、 勇者様方もああ言っていたのですしこちらの椅子にでも座って待っていた方がいいのではないでしょうかね。ささっ、こちらの椅子にでも」
近くにある椅子を引いて、猫なで声で結菜に座るように進める。団長は室内に残っている人達のうちの一人を呼びつけた。
「おい、君‼すぐに聖女様に何か飲み物でも用意して差し上げろ‼」
「いやしかし、今ちょうど、」
「そんなものはいいからさっさと用意しろ‼」
騎士はしぶしぶ飲み物を用意しだした。たぶん、魔物に関する大事なことでもしていたのだろう。結菜はこの状況下でも媚びを売るように自分の機嫌を取ろうとする団長にまた嫌な気持ちになる。
(何?この人……。この状況で飲み物って……)
それは室内に残っていた騎士達も同じであったようだ。咎めるかのような視線を団長に送っている。……まぁ、直接言うことはなかったが。
結菜はちらりとその様子を見て、この団長がいつもこんな感じなのだということを察した。
ふぅっと気付かれないようにため息をついて気持ちを切り替える。
(ねぇ、鑑定さん。今の私のレベルってどのくらい?)
《告。現在のレベルは32です》
(それって一般的にどのくらいの強さなの?)
《一般的に言うと中の下あたりです。しかし、聖のスキルを行使するのであれば、上の中あたりの実力と同等の力を魔物には発揮します》
ふむ。それくらいならまだ手負いの魔物とならやりあえるかもしれないと判断する。
ちなみに上の中といえばアル達のクラン、つまり《炎樹の森》の一般メンバー達とも引けを取らないレベルの強さである。たとえ人間相手ではそうはいかなくても、魔物相手ならそれくらいの威力を発揮できることは確かだ。これもあの宝珠の実から得た、聖の力のおかげ‼相変わらずのチートっぷりである。
つくづく本当に聖の力を授けてくれたあの宝珠の実には感謝様々である。結菜は心の中で自分がシュッパシュッパ食べたあの宝珠の実に頭を下げた。もしその様子が見れるとしたら、綺麗な土下座スタイルであっただろう。……いや、正しくは土下寝スタイルである。そう、「土·下·寝·ス·タ·イ·ル」である‼……うん、まぁ、それはとりあえず置いておこう。
結菜は出された蜂蜜入りホットミルクを飲みながら思案顔で俯いた。
その間も結菜が全く話を聞いていないとは気付かずに、団長はペラペラ話を続けている。本当になんのための辺境騎士団団長なのか……。
団長の話はよそに、結菜は常時展開している自身のスキル、風の耳を広範囲にわたって展開した。騎士団の室内に膨大な魔力が広がっていく。しかし、誰もそれに気付かない。風の耳が自動的に隠蔽してくれているからである。本当に便利なスキルだ。
ふわりと室内に魔力を帯びた風が舞い、外で起こっている様々な情報を届けてくれる。結菜は風の囁きに耳を傾けるようにそっと目を閉じた。視界がぐっと広くなり、空から全てを俯瞰している感覚がする。
騎士達の状況。付近の村や町の今の被害の規模。勇者達の行動が手に取るようにわかる。今ちょうど魔物の大群がいる所に到着したようだ。彼らがすぐに戦闘に参加する。幸い騎士達の部隊が食い止めてくれていたおかげか、被害者もそこまで出ていないようである。まぁ、家とかは壊れているものも多々あるが…………。
状況がある程度具体的にわかり、結菜は閉じた目をそっと開いた。危機的状況には変わりないが、被害者が少ないことがわかり内心ほっとする。
(まだ大丈夫そうだね…………。頑張ってね。二人とも)
遠くにいる賢者達にエールを送りながら、結菜は飲みかけのホットミルクが入っているカップをテーブルの上にことりと置いた。
すぐに今得た情報をロンに伝えて、お願いする。
「ロン、今ちょうど勇者さん達が着いたみたい。今のところ被害はそこまで広がってないけど、もし勇者さん達ではどうにもならなくなったらすぐに行くから。ロンはいつでも大きくなれるように準備はしといて」
他の周りには聞こえないように風を支配しながら伝えてくる結菜に、ロンは少し驚いたがすぐに了解とばかりに小さくこくりと頷く。
相変わらずの猫なで声で喋りっぱなしの団長への笑みは崩さずに、結菜は逐次伝えてくる風の声にずっと耳を傾けていた。
『主、いいのか?』
「ん?何が?」
質問の意図がわからず結菜は腕の中で丸まっているロンを見た。
『そなたは行きたかったのであろう?素直に納得してもよかったのか?』
確かにロンの言う通りだ。自分は聖女に選定された時も、今ただ一人ここに残されてもあまり抵抗なく素直に従っている。しかし、それはどうなってもいいとかいう投げやりになっているからではないのだ。
ただあの二人の真剣で必死な姿があったことと、意外にも心に拒絶が浮かばなかっただけ。あの二人が自分のことを蔑ろにしないと、あれでも自分の気持ちを尊重してくれているということは初めから何となくわかっていたのだ。だから……。
「いいのいいの‼それにいざとなったらロンを連れて私も行くって約束もなんとか取り付けられたんだしさ」
まだ救いを求める誰かを今すぐ助けたい気持ちはある。だが、それは今じゃないことは結菜にはわかっていた。今自分が行けば足手まといにしかならないのは確実。ならばせめて、最悪でも魔物達が勇者達によって弱らせられてから行くことにしようと結菜は考えていたのだ。
「それに、魔物って元はと言えば瘴気の塊なんでしょ?なら怪我した所を私の聖で浄化できるかもしれないじゃない」
その意外と前向きな(戦場に行こうとしている)結菜の姿を見た団長は、慌てて彼女をとりあえず落ち着かせようとする。
「聖女様、 勇者様方もああ言っていたのですしこちらの椅子にでも座って待っていた方がいいのではないでしょうかね。ささっ、こちらの椅子にでも」
近くにある椅子を引いて、猫なで声で結菜に座るように進める。団長は室内に残っている人達のうちの一人を呼びつけた。
「おい、君‼すぐに聖女様に何か飲み物でも用意して差し上げろ‼」
「いやしかし、今ちょうど、」
「そんなものはいいからさっさと用意しろ‼」
騎士はしぶしぶ飲み物を用意しだした。たぶん、魔物に関する大事なことでもしていたのだろう。結菜はこの状況下でも媚びを売るように自分の機嫌を取ろうとする団長にまた嫌な気持ちになる。
(何?この人……。この状況で飲み物って……)
それは室内に残っていた騎士達も同じであったようだ。咎めるかのような視線を団長に送っている。……まぁ、直接言うことはなかったが。
結菜はちらりとその様子を見て、この団長がいつもこんな感じなのだということを察した。
ふぅっと気付かれないようにため息をついて気持ちを切り替える。
(ねぇ、鑑定さん。今の私のレベルってどのくらい?)
《告。現在のレベルは32です》
(それって一般的にどのくらいの強さなの?)
《一般的に言うと中の下あたりです。しかし、聖のスキルを行使するのであれば、上の中あたりの実力と同等の力を魔物には発揮します》
ふむ。それくらいならまだ手負いの魔物とならやりあえるかもしれないと判断する。
ちなみに上の中といえばアル達のクラン、つまり《炎樹の森》の一般メンバー達とも引けを取らないレベルの強さである。たとえ人間相手ではそうはいかなくても、魔物相手ならそれくらいの威力を発揮できることは確かだ。これもあの宝珠の実から得た、聖の力のおかげ‼相変わらずのチートっぷりである。
つくづく本当に聖の力を授けてくれたあの宝珠の実には感謝様々である。結菜は心の中で自分がシュッパシュッパ食べたあの宝珠の実に頭を下げた。もしその様子が見れるとしたら、綺麗な土下座スタイルであっただろう。……いや、正しくは土下寝スタイルである。そう、「土·下·寝·ス·タ·イ·ル」である‼……うん、まぁ、それはとりあえず置いておこう。
結菜は出された蜂蜜入りホットミルクを飲みながら思案顔で俯いた。
その間も結菜が全く話を聞いていないとは気付かずに、団長はペラペラ話を続けている。本当になんのための辺境騎士団団長なのか……。
団長の話はよそに、結菜は常時展開している自身のスキル、風の耳を広範囲にわたって展開した。騎士団の室内に膨大な魔力が広がっていく。しかし、誰もそれに気付かない。風の耳が自動的に隠蔽してくれているからである。本当に便利なスキルだ。
ふわりと室内に魔力を帯びた風が舞い、外で起こっている様々な情報を届けてくれる。結菜は風の囁きに耳を傾けるようにそっと目を閉じた。視界がぐっと広くなり、空から全てを俯瞰している感覚がする。
騎士達の状況。付近の村や町の今の被害の規模。勇者達の行動が手に取るようにわかる。今ちょうど魔物の大群がいる所に到着したようだ。彼らがすぐに戦闘に参加する。幸い騎士達の部隊が食い止めてくれていたおかげか、被害者もそこまで出ていないようである。まぁ、家とかは壊れているものも多々あるが…………。
状況がある程度具体的にわかり、結菜は閉じた目をそっと開いた。危機的状況には変わりないが、被害者が少ないことがわかり内心ほっとする。
(まだ大丈夫そうだね…………。頑張ってね。二人とも)
遠くにいる賢者達にエールを送りながら、結菜は飲みかけのホットミルクが入っているカップをテーブルの上にことりと置いた。
すぐに今得た情報をロンに伝えて、お願いする。
「ロン、今ちょうど勇者さん達が着いたみたい。今のところ被害はそこまで広がってないけど、もし勇者さん達ではどうにもならなくなったらすぐに行くから。ロンはいつでも大きくなれるように準備はしといて」
他の周りには聞こえないように風を支配しながら伝えてくる結菜に、ロンは少し驚いたがすぐに了解とばかりに小さくこくりと頷く。
相変わらずの猫なで声で喋りっぱなしの団長への笑みは崩さずに、結菜は逐次伝えてくる風の声にずっと耳を傾けていた。
1
お気に入りに追加
2,570
あなたにおすすめの小説

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。
武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。
人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】
前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。
そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。
そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。
様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。
村を出て冒険者となったその先は…。
※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。
よろしくお願いいたします。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる