異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

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第5章 聖女として……

第四十一話 風の耳を使って

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 騎士団の建物内の窓から結菜は走り去って行く勇者達の姿を眺めた。その目には応援するかのような光が灯っている。
『主、いいのか?』
「ん?何が?」
 質問の意図がわからず結菜は腕の中で丸まっているロンを見た。
『そなたは行きたかったのであろう?素直に納得してもよかったのか?』
 確かにロンの言う通りだ。自分は聖女に選定された時も、今ただ一人ここに残されてもあまり抵抗なく素直に従っている。しかし、それはどうなってもいいとかいう投げやりになっているからではないのだ。
 ただあの二人の真剣で必死な姿があったことと、意外にも心に拒絶が浮かばなかっただけ。あの二人が自分のことを蔑ろにしないと、あれでも自分の気持ちを尊重してくれているということは初めから何となくわかっていたのだ。だから……。
「いいのいいの‼それにいざとなったらロンを連れて私も行くって約束もなんとか取り付けられたんだしさ」
 まだ救いを求める誰かを今すぐ助けたい気持ちはある。だが、それは今じゃないことは結菜にはわかっていた。今自分が行けば足手まといにしかならないのは確実。ならばせめて、最悪でも魔物達が勇者達によって弱らせられてから行くことにしようと結菜は考えていたのだ。
「それに、魔物って元はと言えば瘴気の塊なんでしょ?なら怪我した所を私の聖で浄化できるかもしれないじゃない」
 その意外と前向きな(戦場に行こうとしている)結菜の姿を見た団長は、慌てて彼女をとりあえず落ち着かせようとする。
「聖女様、 勇者様方もああ言っていたのですしこちらの椅子にでも座って待っていた方がいいのではないでしょうかね。ささっ、こちらの椅子にでも」
 近くにある椅子を引いて、猫なで声で結菜に座るように進める。団長は室内に残っている人達のうちの一人を呼びつけた。
「おい、君‼すぐに聖女様に何か飲み物でも用意して差し上げろ‼」
「いやしかし、今ちょうど、」
「そんなものはいいからさっさと用意しろ‼」
 騎士はしぶしぶ飲み物を用意しだした。たぶん、魔物に関する大事なことでもしていたのだろう。結菜はこの状況下でも媚びを売るように自分の機嫌を取ろうとする団長にまた嫌な気持ちになる。
(何?この人……。この状況で飲み物って……)
 それは室内に残っていた騎士達も同じであったようだ。咎めるかのような視線を団長に送っている。……まぁ、直接言うことはなかったが。
 結菜はちらりとその様子を見て、この団長がいつもこんな感じなのだということを察した。
 ふぅっと気付かれないようにため息をついて気持ちを切り替える。
(ねぇ、鑑定さん。今の私のレベルってどのくらい?)

《告。現在のレベルは32です》

(それって一般的にどのくらいの強さなの?)

《一般的に言うと中の下あたりです。しかし、聖のスキルを行使するのであれば、上の中あたりの実力と同等の力を魔物には発揮します》

 ふむ。それくらいならまだ手負いの魔物とならやりあえるかもしれないと判断する。
 ちなみに上の中といえばアル達のクラン、つまり《炎樹の森》の一般メンバー達とも引けを取らないレベルの強さである。たとえ人間相手ではそうはいかなくても、魔物相手ならそれくらいの威力を発揮できることは確かだ。これもあの宝珠の実から得た、聖の力のおかげ‼相変わらずのチートっぷりである。
 つくづく本当に聖の力を授けてくれたあの宝珠の実には感謝様々である。結菜は心の中で自分がシュッパシュッパ食べたあの宝珠の実に頭を下げた。もしその様子が見れるとしたら、綺麗な土下座スタイルであっただろう。……いや、正しくは土下寝スタイルである。そう、「土·下·寝·ス·タ·イ·ル」である‼……うん、まぁ、それはとりあえず置いておこう。
 結菜は出された蜂蜜入りホットミルクを飲みながら思案顔で俯いた。
 その間も結菜が全く話を聞いていないとは気付かずに、団長はペラペラ話を続けている。本当になんのための辺境騎士団団長なのか……。
 団長の話はよそに、結菜は常時展開している自身のスキル、風の耳を広範囲にわたって展開した。騎士団の室内に膨大な魔力が広がっていく。しかし、誰もそれに気付かない。風の耳が自動的に隠蔽してくれているからである。本当に便利なスキルだ。
 ふわりと室内に魔力を帯びた風が舞い、外で起こっている様々な情報を届けてくれる。結菜は風の囁きに耳を傾けるようにそっと目を閉じた。視界がぐっと広くなり、空から全てを俯瞰している感覚がする。
 騎士達の状況。付近の村や町の今の被害の規模。勇者達の行動が手に取るようにわかる。今ちょうど魔物の大群がいる所に到着したようだ。彼らがすぐに戦闘に参加する。幸い騎士達の部隊が食い止めてくれていたおかげか、被害者もそこまで出ていないようである。まぁ、家とかは壊れているものも多々あるが…………。
 状況がある程度具体的にわかり、結菜は閉じた目をそっと開いた。危機的状況には変わりないが、被害者が少ないことがわかり内心ほっとする。
(まだ大丈夫そうだね…………。頑張ってね。二人とも)
 遠くにいる賢者達にエールを送りながら、結菜は飲みかけのホットミルクが入っているカップをテーブルの上にことりと置いた。
 すぐに今得た情報をロンに伝えて、お願いする。
「ロン、今ちょうど勇者さん達が着いたみたい。今のところ被害はそこまで広がってないけど、もし勇者さん達ではどうにもならなくなったらすぐに行くから。ロンはいつでも大きくなれるように準備はしといて」
 他の周りには聞こえないように風を支配しながら伝えてくる結菜に、ロンは少し驚いたがすぐに了解とばかりに小さくこくりと頷く。
 相変わらずの猫なで声で喋りっぱなしの団長への笑みは崩さずに、結菜は逐次伝えてくる風の声にずっと耳を傾けていた。




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