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第5章 聖女として……
第三十八話 魔物の大群発生
しおりを挟むパキンッ
空間が割れるような音がする。
ルーベルト王国の端にある、とある辺境にて一人の騎士が空を見上げた。
「…………空が割れてる。また魔物が発生したのか」
またかと騎士はため息をついた。
ここは比較的、他の地域と比べても魔物が出やすい所でもある。それ故に騎士はすぐさま新たな魔物が発生した事がわかった。
いつも通り騎士団に連絡をして、魔物を倒せばいい。
もし、複数の魔物が発生しているのであれば、王都に使いを出すか騎士団に設置されてある通信用の水鏡を使って勇者様と賢者様を呼んだらいいだけだ。
「しかし、何かこの頃魔物の発生回数が多いんだよなぁ」
騎士団に走って戻りながら騎士はぽつりと呟いた。
普段なら月一回あるかないかくらいの頻度だったのに、今月はもうこれで二回目である。
こうも何度も発生されると、流石にこちらも対処しきれない。
このままだと付近の多くの村人達や町民達全員を守り抜く事が困難になってしまう。
(村のおばちゃん達大丈夫かなぁ?町と違って、村には外壁とかないし…………。早く発生した魔物を倒さなきゃだよな)
騎士は何だかんだで親切な村の人達の安全を心配しながら、報告するために騎士団長の元へかけていった。
辺境騎士団の建物内に入り、団員全員が集まっている団員室に騎士は慌てて駆け込んでいく。
バタンと勢いよく扉を開ける。
到着した若い騎士を待っていたのは、葉巻き煙草をふかしているここの辺境騎士団団長の姿であった。
「どうした。何かあったのか?」
「はっ‼ただいま魔物の発生を確認しました‼至急討伐願います‼」
敬礼しながら騎士は早口で報告した。魔物の発生から報告まで少し時間がかかってしまった。
早くしなくてはという焦りでまくしたてるかのような口調になったのだが、見逃していただきたいところである。
しかし、そんな騎士の姿を一瞥さえせず、豚のように丸々と太った辺境騎士団団長は相変わらず呑気に煙草をふかしていた。
「そうか。なら討伐するように騎士達に伝えておけ」
何をそんなにのんびりしているんだ‼と騎士は怒りを感じた。
付近の村が危険にさらされているというのに、相変わらずこの辺境騎士団団長はそれを他人事としている。
そもそもこの辺境騎士団団長は部下に仕事を押し付け、団長としての仕事は辺境騎士団副団長に任せっきりにしていた。
しかし、団長が貴族階級だからかその態度は見てみぬふりをされている。不正とか汚職とかでもしているんじゃないか?というのがもっぱらの噂であった。
実質この辺境騎士団は副団長が取りまとめているようなものであった。
「失礼します‼団長、魔物の数がわかりました‼数およそ十以上‼」
新たに他の騎士が報告しに室内に飛び込んできた。
騎士団内の騎士達がざわりとざわめいた。そんなに多く発生したとなると討伐はできないとすぐに理解できる案件だったのだ。
不安や動揺が波のように広がっていく。
それを団長の側にいた副団長が、手を叩いて静まらせた。
「静まれ‼すぐに部隊を編成しろ‼王都に緊急連絡をとれ‼至急だっ!勇者様が来るまで全力で持ちこたえるんだ‼」
「「「「「はっ‼」」」」」
騎士団の騎士全員が敬礼して、慌ただしく走っていく。
もう、本来指揮権があるはずの騎士団団長は頷くだけの役立たずと化していた。……本当に役に立たない。
騎士はやるせない怒りを全て呑み込んで、自身の役割を果たすためにかけていった。
村の人達を守るために……。
そして、国を守るために…………。
早く勇者が来てくれる事を、自分達が守り切れている間に来てくれる事を、騎士はやり場のない悲痛な思いで願いながら自分の部隊へと合流したのであった。
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