異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

文字の大きさ
上 下
39 / 75
第4章 ルーベルト王国王都

第三十七話 どんどん物作り物作り‼

しおりを挟む
 だがしかし、ロンはめげなかった。めげなかったのである‼
 素早くもう一度気持ちを切り替えて、今もまだ続く結菜の行動をやめさせようと必死になった。
 そんなロンのかいも虚しく、結菜はさくさくと作業を続ける。
 シャクシャクと軽い音をたてながら風魔法で魔法石が削り取られていく。
 結菜はカットした魔法石の破片をさらに組み合わせ、遂に蛇口を作り上げていった。
 ちょうどその時、

 ピコンッ

 軽やかな音が鳴った。ステータスが自動でオープンされる。鑑定さんが気を使って出してくれたのだ。

《レベルが1上がりました。ただいまのレベル、14です。頑張ってください》

 運動会のリレーのような声かけをしてくる鑑定さん。俄然結菜のやる気も上昇してくる。
(これは、一石二鳥。いや一石三鳥だね‼)
 そ·れ·に、何気に魔法の使い方がどんどん上達していくのが感じられる。これはイイ‼イイぞ‼と結菜はさらに夢中になって物作りに勤しんだ。
 もう、止めようとするロンの声も耳に入らない。
 結菜は知的好奇心と創作意欲を満たそうとすると周りが見えなくなるという長所(悪癖)?を惜しむ事なく発揮し始めた。
 結構、物作りで魔法を鍛えられることがわかった結菜はそれはもう夢中になって物作りに勤しんだのであった。
 

  ◆ 


 カチャリと最後の魔石をはめ込み、新たな道具を作り上げた結菜はふと窓の外を見上げた。
 空はいつの間にか赤く染まっており、もう暗くなりかけている。
「あっちゃ~。またやっちゃたよ」
 夢中になって作っている間にどうやら日がくれてしまったらしい。
 凝り固まった身体をぐっと伸ばす。
 結菜は先程作り終わったランタンから魔法石を取り出し、魔力を注いだ。
 ぽぅと暖かい光が室内に広がる。どうもシャンデリアだけだと明るさが足りないと思っていたのでとりあえず作ったのだが、なかなかよい成果が得られたようだ。
 つまみを回すと明るさ調整もできる優れものである。
 油の代わりに火の魔法石の成分を気合で抽出し、光の魔法石と融合させて作った魔法石を使用している上、さらにランタンそのものを小型化しているため、使い勝手もいい。
(うん、上出来だね‼)
 結菜はほくほく顔で、説得しきれず疲れ切って眠ってしまったロンを起こした。
『む?……主、やっと正気に戻ったか』
 正気に戻ったとは何だ。失礼な。結菜は多少むっとしたが、今日の成果を伝えたくてうずうずしていたのでスルーしておくことにする。
 風魔法を駆使して、ささっと魔法石の欠片などを片付けながら、完成したパーフェクトな作品達を結菜はロンに見せる。
『………………………。主……お主は一体何を作ったのだ……?』
 ビシリと石のように固まるロン。
 その目はパーフェクトな作品達に向けられていた。
 意味がわからず、結菜ははて?と首を傾げる。
「何って。魔力石製ランタンと蛇口でしょ?あと、風属性の魔法石で作った電話に蛇口を応用した湯沸かし器…………」
『ちょっと待て‼わかった、わかったから‼』
 意味不明な道具の名前をつらつらと答えられても困る。ロンはその意味不明な道具を見て、頭が痛くなってくるのを感じた。
 たま~に、自分の主は常識外れだが何か凄いことをするのをロンは知っている。
 以前はアル達のクランで何かやらかしていた。アル達はこれを期にこの世界の常識を彼女に叩き込んでいたのだが、結菜の常識は今も相変わらずぶっ飛んでいる。……そう‼ぶっ飛んでいるのだ‼
 しかもそれを彼女が普通の事だと認識している分、さらにたちが悪い
 まぁ、彼女にとったらこれが普通なのらしいのでこれ以上改善しようがないのだが……。
 今回の件もそれと同じ類だろうとすぐさまロンは把握した。
 結菜が聞いて聞いてと目をキラキラさせながら迫ってくる。ここは従魔としては素直に聞くべきなのだが……。
(……嫌なのだ…………。我一人が犠牲になりたくないのだ………………‼)
 そのまま自分一人で聞くことができるだろうか?……否‼断じて否‼
 前もそうやって結菜の話を聞き、あまりの常識を飛び越えて飛び越えて飛び越えまくった結菜の発想力についていけず、半ば気絶するように思考を放棄したことをロンは一度も忘れたことはなかった。
 そもそも、結菜は地球の二十一世紀を生きてきた超現代っ子である。結菜にとってはこれが普通。
 だが、こっちの世界の住人からしたら軽く何百年も超えるオーバーテクノロジーであり、築き上げるはずの文化という文化をひとっ飛びするようなレベルのものなのである。
 それをすぐに理解し受け入れるなど、無理な話……。
 ロンはとっさにそむけた顔を戻し、そろりと結菜を見た。……まだ目がキラキラしている。
 ロンは、また自分が結菜に常識と共にふっ飛ばされる(ぶっ飛ばされる)運命にあることを実感した。
(……誰か、せめて我と共に同じ運命を受ける者はいないのであろうか…………)
 絶対に何があっても、本当に意識が飛ぶ結菜の魔のトークを一人(一匹)だけで聞きたくないロン。
 軽く絶望しながら、ロンは藁にも縋る思いで、目だけで助けを求めた。

 ガチャ…………

 その途端、ロンの目が光り輝いた。やってきたのは、あのできる侍女である。
 どうやら、暗くなってきたので結菜の側に戻ってきたようだ。
 侍女は紅茶ポットやカップが乗ってあるワゴンを持って来ている。
 ロンはその彼女のことを、今日一緒に遊んでくれたいい人という認識をしていた。
 ギランと目を輝かせるロン。『キュウ‼』と鳴いてロンは必死に侍女を呼んだ。
 何も知らずにすぐに側に侍女は寄って来る。
 キラン。今度は結菜の目が侍女に向かった。どうやら彼女もロンと一緒に、結菜のトークを聞かなくてはならなくなってしまったようだ。
 ……………………侍女、哀れなり…………。

 その後延々と続けられる結菜のパーフェクトな作品達&現代知識トークで、ロックオンされてしまった約二名が犠牲となったのだが助けてくれる者はいなかった。
 誰も自ら好き好んで自爆しに行きたくはないのである。
 トークは夕食の時まで続き、頭が知識でパンクした約二名を他の侍女達は遠巻きに見ていた。
 ごめんなさい‼という心の声を彼女達全員が心の中で叫んだのは言うまでもない。……本当に哀れである(合掌)。



 
 
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...