異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

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第2章 ダンジョン崩壊の後

第十四話 ダンジョン崩壊後の騒ぎ〜アデレードの憂鬱②〜

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 額にかいた嫌な冷汗を拭い、アデレードは影が続けている説明に耳を傾けた。
『痕跡はあまり残されていませんでしたが、膨大な魔力が発せられたことがわかりました。我も調べさせた後自ら行って確認してみましたが、あれは明らかに人智を超えているとしか考えられないですな』
「……どういうことだ」
 冷たい汗が流れる。
『痕跡がほとんどなかったこともですが、僅かに残っていたその魔力の密度、濃度、量が凄まじかったのです。』
 アデレードは何もかも投げ出して旅にでたい気分になった。
 まぁ、実際にそれを実行することはできないことは彼もわかっていたのだが……。
 というか、さっきから流れる冷や汗が止まらない。どうしてくれようかと唸るアデレード。
 しかし、一方で影もアデレードと同じような気持ちだった。
 魔力は多ければ多いほどいいというわけではない。
 その魔力の密度や濃度が濃ければ濃いほど、魔力が少なくてもよりよい魔法の構築ができるようになる。
 崩壊したダンジョンからはその理想的すぎる条件を満たすだけでなく、僅かながら、魔力量も凄まじかったことも影の長である彼にはわかってしまったのだ。
 影は闇魔法を普段から使っているため、魔法には疎くはない方である。
 なので、知りたくはなかった現実もはっきり直視してしまったのであった。
 アデレードと影は決してお互いがわからないようにポーカーフェイスをしながらも、心の中で乾いた笑いがこみ上げてくるのを止めることはできなかった。
 だんだん目が死んでいく二人。
 ここにも結菜のチートっぷりの鱗片を感じたことにより、被害が発生してしまっていた。…………哀れなり……。
 思わず、合掌したくなりそうな光景であった。
「……まぁ、何だ。本当にご苦労であったな…」
『……ありがとうございます。その一言だけでもストレスが軽減されましたので…………』
 お互いを慰めあうアデレードと影。
 主従の絆がより一層堅く強固なものとなった瞬間であった。こうして人は成長するのだなと感じる二人。…………できればご遠慮こうむりたい、いやな成長の仕方である。
 お互い慰めあって何とか現実逃避からかえってきた二人はまた会話を再開した。
 もしかしてと呟くアデレード。何やら思う所があったらしい。
 アデレードがためらいながら言葉を切り出す。
「だが、それほどの魔力を持つ者ならば、もしかすると『あれ』になれるのではないのか?」
『さようでございますな。その者ならばもしかすると…………』
 影もアデレードに同意した。
「そうか…………」
 俯くアデレード。彼の顔には、苦しげな表情が浮かべられていた。
『…………………………………』
「なぁ、影。その者はどのような者かわかるか?」
『……まだ若い少女でございます。黒髪で黒色の不思議な目の色を持つ少女です』
「そうか…………」
 アデレードは沈んだ顔で影の返事を聞いた。
 少女、か……っとアデレードはぽつりと呟く。
 アデレードには、その少女をもし『あれ』にしたらその少女が平穏とはかけ離れた生活をおくらなければならなくなるであろうことはわかっていた。もしかすると過酷な運命の歯車に巻き込まれてしまうかもしれない。
 しかし、国王としては一個人のことよりも民のことを考えなければならないこともよくわかっていたのだ。
 …………それが例え少女であったとしても。例え、彼女が平穏な生活を望んでいたとしても…………。
 影が少し苦しそうな表情をしている主を見て、慰める。
『主よ……。我らの国の偉大なる賢王よ。あなた様の命令に我ら影どもは従います』
 不器用ながらも気遣うかのような影を見てアデレードは葛藤を抱えながらも決断した。
 跪いているかのように見える揺らめく闇を見つめ、アデレードはふっ、と笑う。
「影、そなたに命令する。その少女を見つけ出し、この城に連れてまいれ。……くれぐれも勇者達以外に姿を見られるでないぞ」
 忠義なる者は畏まって命を受けた。
 月の光が彼らを照らし出していた。
 冷たく彩られた光が部屋に満ちる。
『ご安心を。ちょうどその少女の近くの地域に勇者がいるはず。勇者ならば連れて帰ってきそうですが、念のため連れてくるよう気付かれないように誘導しましょう』
「………頼んだぞ」
 月光が雲の陰りで遮られ、温かいシャンデリアの灯りのみが室内を照らした時。
 どこか陰りのあるその灯りの中で、影がふわりと揺らめき、闇に溶け込むようにして消えていった。
 室内に残されたのは王ただ一人。
 彼はふと窓の外に目をやった。
 影が消えた部屋で、アデレードは窓の外の大きな月を見つめ、どこか遠くをずっと眺めていた。
 その雲の間から覗く月は鋭く冷たい光ではあったが、どこか寂しさをたたえながら、アデレードを見つめ返しているかのようにみえるのであった。



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