こんなはずではなかった

香桐れん

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5 やばい

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 ちゅぷっ、ちゅぷっ、と濡れた音が狭い室内に響いている。
 んっ、とか、ふぅ、とか、息苦しそうな声も時折漏れ聞こえてくる。
「あぁ、やばい……あまね……めっちゃいい」
 気の抜けた情けない呟きも聞こえた。これが自分の声であると自覚するのは羞恥の極みだけれど、残念ながら今の昴にそこまでの知性は残されていない。
 ここは天音の部屋ではなく、暖房を入れていない昴の自室の、昴のベッドの上だ。
 冷たいシーツも今は少しも気にならない。皮膚が冷気を感じないほど火照っているのは、シャワーの湯に長々と打たれながら身体をもつれ合わせていたからだけではないだろう。
 自分のベッドに全裸で仰向けに寝そべる昴の、その股間に顔を埋めている天音が、むっくりと頭をもたげた昴の根元から先端まで念入りに舌を絡みつかせ、口に含み、じゅるじゅると啜っている。
 暴発する心配はないはずだった。何故ならばシャワーブースで濃密なキスを繰り返しながら、結局我慢できずに互いの手によってふたりとも達してしまったばかりだからだ。
 笑ったり恥ずかしがったりしながらふたりで掃除し、唇を啄みながら身体を拭い合い、裸のまま昴の部屋に入るなり再び唇に吸いつき、抱き合った。
 突然天音に押し倒されたかと思うと、すぐに彼が視界から消え、落ち着きを取り戻していたはずの部分が湿ったあたたかい咥内に包み込まれ、昴は思わず喉を仰け反らせたのだった。
 昴のそこはあっという間に硬さを取り戻し、天音の喉の奥を突かんばかりに熱を集めて打ち震えている。
 さっきいったばかりじゃないか。そう自分に言い聞かせたところで効果があるはずもなく、予想もしていなかった天音の行為――その唇、舌の動きに容易に翻弄され、みるみるうちに高みへと向かった。
「あまね、やばい」
 限界が近い。とっさに手を伸ばし、股間でうごめく頭に触れる。腰を引こうとするが濡れたままの天音の髪が手のひらの内側でもぞもぞと動いた。
「あまね、ちょ、やばいって、いきそう」
 こんなはずではなかった。この年末年始は天音が音を上げるまで――そんな風に目論んでいたこともあったはずなのに、気がつけば自分が音を上げている。
 この「想定外」はけっして悪くはないけれど。
 と、不意に視界が遮られた。
 目元にタオルが掛けられている。どけようとすると手首を強く掴まれた。
「目、つぶってて」
 天音の手のひらは熱っぽく湿っていて、その囁き声は甘く、かすかに震えている。
 背筋をぞくぞくとしたものが走る。衝動に耐えようと大きく息をついた時、腰の辺りに重みを感じた。
 跨がっている。そう確信すると同時に、天音の手を添えられた昴自身が熱く狭い箇所に導かれ、めり込み、じわりじわりときつい窄まりを侵略していった。
 根元まで収まるまで長い道程だった。その間どちらからともなく「ああ」と大きな声が漏れ、たったそれだけでますます身体が熱くなり、思考に靄がかかった。
 馴染むまでじっとしていた天音がおずおずと腰を動かし始めた。自分の良いペースで動く天音の口からは、苦しげなうめき声と官能に満ちた甘い喘ぎが交互に溢れている。
 たまらなくなり目元を覆うタオルを剥ぎ取って、昴は息を呑んだ。
 自分の下半身に跨がり、楔の穿たれた腰を艶めかしく揺らめかせながら、天音は眉をわずかに寄せて、恍惚の表情で喘いでいる。
 衝動的に、天音のリズムに逆らうタイミングで腰を突いた。
 天音は廊下まで聞こえるほどの甲高い声を上げたかと思うと、顎を反らして身を捩らせた。
 その瞬間、昴は我を忘れた。
 ベッドがギシギシと軋む音と天音の声が部屋の中で反響する。
「や……っ、すばる、まって……やめっ……あぁ……っ!」
 やめろと言われようと最早止めることなど不可能だった。
 悲鳴に似た嬌声を断続的に上げながらがくがくと震える天音の腰をがっしりと掴み、獣のように吠えながら、昴は幾度も幾度もその腰を突き上げた。
 
 
 
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