魔術師達の放浪記

藤山かりん

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 ブレイズとライは四人で荷馬車に乗ることになったため、一番荷物の少ない荷馬車の護衛をすることになった。ライの隣にはジャネットが陣取り、楽しそうにライと話していた。

「ライさんはどうして冒険者になったんですか?」
「……冒険者だった父に憧れて、ですかね。冒険者になってやりたいこともあったから。」
「へえ。お父さんも冒険者だったんですね。うちは昔から商人をやっているから、お父さんは私に結婚して婿を取れとうるさいの。私は冒険者になりたいのに。」
「冒険者に?どうしてですか?」
「私は小さい頃からお父さんと一緒に商人として旅をして、色んなところを回ってきたんです。だから、こうして護衛でたくさんの冒険者の人から話を聞くことも多くて。話を聞いているうちに冒険者の人たちが自由で楽しそうにしているところを見ると、私も冒険者になってみたいって思ったんです。」

 楽しそうに語るジャネットに、ライは困ったように微笑みながら返した。

「……冒険者は、楽しいことばかりではありませんよ。」
「わかっているわ。旅をしている中で危ない目に遭うことも何度かあったもの。それでも自由に旅してみたいって思うの。」
「女性の身で冒険者になるのはかなりハードルが高いですよ。ねえ、カイル。」

 いきなり話を振られたカイルはびっくりした。

「え、俺?」
「同じパーティーに女性がいるから、ある程度は大変さを知っているだろう?」
「ああ、まあな。」

 そう言ってカイルは話し始めた。

「まず女だからというだけで他の冒険者から舐められやすい。力が弱いから、基本的に男には敵わないだろうという理由だけでだ。戦闘になるとまず一番に狙われる。まあ、うちのテレサの場合は魔術師だから、襲ってこられても吹っ飛ばせるんだが。」
「え、テレサさん魔術師なの?」
「ああ。っと、話が逸れたな。それと旅をしていると変な男から言い寄ってこられることもある。同じパーティーの男と一緒にいないと危ない時もあるみたいだ。」
「そうなんだ。」
「だから、女性冒険者は男装していることが多い。普通の女の恰好してるのは男とパーティー組んでる奴くらいだな。」
「あ、だから仲介所でも女性はあまり見ないのか。」
「そうだろう?よく見たら男装している女性冒険者だってわかるんだけどな。」
「へえ。」
「女性冒険者は男性冒険者の二倍以上努力しないと冒険者としてやっていけないって言われることもあるくらいだ。実際、戦闘の場では女も男も関係ないからね。男に勝てるだけの技術や力を身に付けないといけないのは確かだ。」
「…そんなに努力が必要なんだ。」

 カイルの話にブレイズは神妙な顔になった。だが、ジャネットには響かなかったようで、むくれた顔をしていた。

「それって私に冒険者になるのを諦めろって言いたいんですか?」
「いや、そうじゃなくて大変だから覚悟が必要だよって話を…。」
「もういいです!それより冒険で楽しかった話をしてくださいよ!」

 ジャネットはそう言うとライに話をせがんだ。ライが渋々と話し出したのを見て、こそりとカイルがブレイズに声を掛けてきた。

「君の相棒も大変だね?」
「ああ…。まあ、なんて言うか、顔が良い奴の業ですかね…。」
「言えてる。最初はただのヒモ野郎かと思ったけど、そうでもないみたいだし。」
「ヒモ?」
「依頼主やその関係者に上手く取り入って良い思いしようとする奴のこと。」
「ライはそんなんじゃないですよ!」

 カイルのとんでもない言葉にブレイズはぎょっとした。

「わかってるよ。ヒモならさっきの会話で冒険者になるのを辞めるようにわざわざ忠告しなかっただろうし。」

 そう言ってカイルは楽しそうに会話をしているジャネットを見つめた。

「冒険者に憧れる子は多いけど、上手いこと冒険者として食っていけるのは一握り。多くの人間が他の奴らに食い物にされたり、依頼の途中で失敗して引退したり、最悪の場合には死ぬことだってある。厳しい現実だけど、そのこと全部覚悟した上でないと、冒険者なんてやってられないよ。」

 忠告するようにつぶやかれた言葉は、残念ながらジャネットには届かなかった。

◇◇◇◇◇

 商隊がしばらく進んだ時。不意にライがジャネットとのお喋りを止めて荷馬車の幌を開けた。そのまま頭を外に出してきょろきょろと外を見回す。

「どうした?ライ。」
「……ブレイズ、フォンを見回りに出してくれ。」
「え、何で?」
「どうも見られているみたいだ。」
「!」

 その言葉にブレイズはすぐさまフォンを呼び出した。

「フォン、馬車の周りに不審な奴らがいないか見てきてくれ。」
〈了解!〉

 鳥の姿になって飛び立っていったフォンを見て、カイルとジャネットは目を丸くした。

「ブレイズは魔術師だったのか?」
「ライも魔術師だよ。」

 ブレイズのその言葉に二人の視線がライに集まった。

「魔術師なんですね!凄いです!」
「俺はてっきり剣士と銃士のパーティーだと思ってたよ…。」
「それぞれ魔術と組み合わせて剣と銃を使うからその認識でも間違いない。」
「気配に気づいたのも魔術のおかげか?」
「いや、そっちは勘だ。どうも嫌な気配を感じたからな。」

 そう言いながらライは周囲への警戒を怠らない。すぐにフォンが帰って来た。

「どうだった?」
〈ライの言う通り、二人が商隊の後をついて来てるよ。どうやら盗賊みたいだね。〉
「やはりか…。」

 ライは唸った。

「カイル、他のメンバーと連絡は取れるか?」
「いったん馬車を止めるように合図することはできる。」
「それじゃ盗賊に追い付かれるぞ。フォン、他の馬車に盗賊が来ていることを知らせてくれ。」
〈わかったよブレイズ。〉

 フォンはすぐさま他の馬車へと連絡に飛び立っていった。ブレイズはライに問いかける。

「それで、どうする?追い払うか?」
「本当に二人だけならそうするべきだが…。」
「この先で待ち伏せされてたら厄介だな。」

 カイルがそう言った瞬間。ガタン、と大きな音を立てて荷馬車が止まった。突然の大きな衝撃に全員が体を揺らされる。

「うわっ!」
「きゃあ!」

 慌てて皆が荷馬車に掴まった。振動が収まった途端、先頭からピイーと甲高い笛が聞こえてきた。

「襲撃だ!」
「ちっ、遅かったか!」

 ライは言うや否やすぐに荷馬車を降りて駆け出して行った。

「ジャネットさんはここにいて!」

 カイルもそう言い残してすぐに荷馬車を降りた。ブレイズもその後を追う。
 ブレイズが降りると、既に商隊は盗賊達に囲まれていた。カイルが懸念したとおり待ち伏せされていたらしく、三十人程の盗賊達がいた。

「大人しく荷物を渡してもらおうか?」
「お断りだ!」

 同じく荷馬車を降りてきていたグレイが吠えた途端、戦闘が始まった。

「行くぞ、レスタ、トア!」
〈おう!〉
〈は~い!〉

 二人を呼び出し、銃弾に魔力を込める。切りかかって来た盗賊目掛けて発砲した。

「ぐあっ!」

 見る見るうちに着弾したところから樹が伸びてきて盗賊を捕まえた。

「こいつ魔術師だ!」
「気をつけろ!」

 盗賊達が警戒を強めるが、ブレイズはお構い無しに次々と銃撃した。レスタやトアの助力もあり、あっという間にブレイズの周りは樹に捕まった盗賊達だらけになった。
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