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第1章エリア1 英雄の誕生
第33話柏愛花の旅路3
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どうしてこんなことに……。愛花は涙目を浮かべて、自分の性格を強く恨む。このNOと言えない性格が憎い。天気のいいエデンワールドの世界を1人で散歩しようと思ってただけなのに、どうしてこんなことになったんだ。
どうしてかローズたち一行と沼地のボスを倒す羽目になった愛花は、渋々ながら彼女たちの後をついて行くことにした。
「よし、愛花も仲間に加わったことだし、早速沼地のボスをぶっ飛ばすか」
綺麗な顔なのに口の悪いローズの物言いにビクビクしつつ、愛花はキョロキョロと辺りを見渡す。この世界には草原や沼地以外にも、多くのフィールドにボスモンスターが存在する。
倒すと貴重なドロップアイテムを落とすために、上位の冒険者たちはこぞってボスモンスターを討伐しようと躍起になっていた。にも関わらず、この世界でボスを討伐したことのある人間はほとんどいない。それはなぜか。
簡単な理由だ。ボスモンスターというのは、一度倒してしまうと再度ポップすることがない。つまりは早い者勝ちだからだ。
そしてそんな早い者勝ちの強敵を、愛花のパーティーメンバーである彼方が見逃すはずがない。彼はボスモンスターの存在をいち早く知ると、誰よりも早くフィールドの謎を解き、ボスを出現させ、討伐していった。
普通に考えれば、ボスモンスターを独り占めするかのような行為は良くないことに思える。だが、愛花は彼方がフィールドボスを倒してくれてよかったと思っている。フィールドボスを倒すと、貴重なレアドロップや装備品を落とす。
これを彼方は、ベリト率いる冒険者ギルドに安値でほとんど売り渡したのだ。自分たちに使えない装備はいらないと言って……。もし他の、自己中心的でこの世界を攻略することに興味のない人間が、貴重な装備品を独占してしまったらどうなることだろう。
きっと高値で売りつけるか、エリアボスに挑む気もないのに身を守るために装備をするだろう。それは良くない。あの貴重なアイテムや装備品は、人類のために最前線で戦う人間にこそ渡るべきなのだ。
だから彼方がボスのアイテムをほぼ独占してくれてよかったと、愛花は思っている。だが、ほぼ独占と言ったように、全てのフィールドボスを彼方と愛花が倒して訳ではない。中には先に倒されてしまったものや、このフィールドのように、愛花が拒絶してボス自体に挑まなかったものもある。
ここは沼地だ。当然汚れる。さらには毒もあり、ゾンビモンスターもものすごい腐敗臭を漂わせている。こんな場所を攻略するのは、女子である愛花には耐えられなかった。だから彼方が挑もうとしても、愛花が付いて行くことはなかった。
だというのに、どうしてこんなことに……。ぬちゃぬちゃとぬかるんだ地面を踏むと、足に気持ち悪い感覚が伝わってくる。戦いにくいし、臭いし、気持ち悪いし、なんでローズはこんなところのボスモンスターに挑みたいんだろう。
愛花が怪訝な表情を浮かべていると、ローズが顔だけを振り向かせて話しかけてくる。
「おい愛花。お前のパーティーにいる彼方ってやつの話、聞かせてくれないか?」
どうしてかいきなり彼方の話を聞かせてくれと頼んでくるローズに、少しだけ警戒心を露わにする。なんで彼方の話を聞きたいの? もしかして興味あるのかな?
もし彼方に惚れてるのだとしたら……。愛花はローズが彼方に恋心を抱いているのではないかと勘ぐるが、それはないかと判断する。
正直言って、彼方という人間は異性からモテない。口下手で人と話すのが苦手である愛花でさえ、男からナンパされたことがあるというのに、彼方が女性からナンパをされたり恋心を抱かれている姿を見たことがない。
それは彼方があまり異性に興味がないことと、彼方の見た目が異性受けしづらいからだと、愛花は考える。彼方の容姿は別に人より劣っている訳ではない。
だが、日本人であるが故か、少しばかり幼い印象を受けるのだ。さらに身長もあまり高くないため、イケメンやカッコいいという印象を抱きずらい。
どちらかというと、可愛いという単語が似合う男だ。だからなのか、彼方が色恋の話をすることはほとんどないし、彼方が特定の異性から好かれる、または好いているという話を聞いたこともない。
多分目の前にいるローズも、彼方の強さがどれぐらいのものなのかに興味を抱いているだけで、下心などがある訳ではないだろう。
だったら何も心配はない。三木彼方という人間の全てを、語り尽くしてやろう。
「そ、そうですね。まず彼方は……」
それから愛花は、彼方の偉業や異常さを語った。どれぐらい強いのか。どれぐらいイかれてるのか。彼方という人間の人となりを、語れるだけ語ってみた。だけど愛花の話す彼方という人間の像は、どうにも耳にしただけでは信じられるものではなかった。
「おい愛花。その話本当か? フィールドボスをノーダメージ討伐とか。キークエストを実質1人で攻略とか」
にわかには信じられないと言った様子のローズが愛花に確認すると、彼女はない胸を反らせて自慢げに。
「本当。今の話に嘘偽りはない」
断言する。そんな堂々とした様子の愛花を見た一行は、とりあえずこれ以上疑わず、彼女の話を飲み込んだ。
「にしても三木彼方か~。前に見たときはあんまり強そうじゃなかったけど、そんなに強いのか」
「うん。ローズが10人いても勝てない」
「いやいや、流石にそれはないだろ。愛花もさっき見ただろ? 私の斧さばきを。あんな華麗に敵の攻撃を受け流せる奴は、そういないぞ」
「確かにローズの動きはすごいけど、彼方ほどじゃない」
はっきりローズに言ってやると、彼女はショックを受けたのか、見て取れるぐらい落ち込んだ様子を浮かべる。そのことに愛花は若干罪悪感を感じる。彼方談義のおかげで、愛花とローズは気を使わず喋れるぐらいには仲良くなった。
同性の友人がいない愛花にとって、ローズという人間はこの短い時間の中で、唯一対等に喋れる同性へとランクアップしたのだ。そんな彼女を傷つける発言をしてしまったことを軽く後悔するが、もし嘘をついたとしても、それはそれで彼方の株を落とすことになるわけで……。
愛花は自分の発言が失言だったのか考えるが、そんな他人にとってはどうでもいいようなことを考えていると、ここのフィールドボスを出現させるのに欠かせない祠を守護するモンスターの姿が見えてきた。なんでもフィールドボスを出現させるには、沼地の四方にある祠の封印を解く必要があるとか。
「あいつが祠を守ってるやつか?」
ローズが確認するよう声を発する。祠の近くには片方の目ん玉が飛び出て、所々皮膚が溶け、骨が見えている犬のようなモンスターがいた。
レベルは10。このエリアでは最高のレベルだ。だが、所詮は雑魚モンスター。レベル10冒険者が5人もいれば、大したことはない。
愛花は両手の平をローズたちに向けると、バフをかける。
「《ダブルアタックアップ/二重攻撃力増加》《ダブルスピードアップ/二重俊敏性増加》《ダブルディフェンスアップ/二重防御力増加》」
愛花が呪文を唱えると、ローズたち一行の体が光を帯び、ステータスが上昇する。
「もっといる?」
愛花が尋ねると、ローズは首を振り仲間に喝を入れる。
「私が引きつける! みな、いつも通りにやるぞ!」
ローズが腕をバッとあげると、他のメンバーも腕をあげ、臨戦態勢に突入した。その光景を見て、またも愛花は感動する。なんというか、冒険者とはこういう人たちのことを言うんだろうな。強い絆で結ばれてるって感じがする。
バフをかけて仕事の終わった愛花は、後ろから4人の戦い振りを見学する。
まずローズが先頭に立つと、モンスターの噛みつき攻撃を盾で受ける。それから戦士であるダイスの方へ犬を蹴っ飛ばすと、ダイスが腹元を足で押さえつけ、斬りつける。だが、流石はレベル10モンスターなだけあり、ダイスの拘束を簡単に解くと、後ろにいたマリーに攻撃を仕掛ける。
だが、あと数秒でマリーに攻撃を仕掛けられると言う時に、横からエーデルの氷結魔法が犬の頬を貫き、怯ませる。
お互いに弱点を補い合っていると言うか、素晴らしい連携だ。なんて感じで傍観を決め込んでいると、一番遠くで見守っていたはずの愛花に向かって、モンスターが突進してきた。
ど、どうして? 愛花は一度もターゲットを取られるような行動を取ってない。いや、最初にバフを掛けたけど、そのあとは何もしてないし……。
いきなり愛花に向かって攻撃を仕掛けてきたモンスターの行動に困惑しつつ、彼女は思いっきり風魔法を相手に向けて放つ。
この風魔法は威力こそ低いが、移動や相手との距離を取るのにとても重宝する。なんだかんだ言って、これが一番使い勝手のいい魔法となっている。
愛花に思いっきり吹っ飛ばされたモンスターは、空中をグルグルと回転し、地面に倒れこむ。そしてその隙に、ダイスとローズが斬りつけ、HPバーをゼロにして、モンスターは蒸発した。
「ふぅ。まあ雑魚ならこんなもんか。にしても……」
ローズたち一行は顔を見合わせると、愛花に駆け寄り。
「すごいな、お前のバフは。掛けるやつによってこんなにも上昇する能力に開きがあるとは思わなかったぞ」
愛花にバフを掛けられた一同は、愛花をすごいすごいと褒め称える。この世界の回復やバフ効果というのは、すべて賢さや魔法攻撃力に依存する。愛花が上げた僧侶というスキルは、まさに味方の支援をすることに特化したスキルばかりなのだ。
彼方という攻撃のスペシャリストがいる以上、自分は攻撃系統のスキルや、守り方面のスキルが必要ないと判断した愛花は、早々に僧侶スキルに全プッパすることを決めた。
この世界では無数にスキルがあるが、その中でもっとも人気があり、かつ振ることを推奨されているのは騎士スキルだ。何故なら騎士スキルのほとんどはHPや防御力が上がるものであり、生き残るために必須な特技やステータスがもらえるためである。
騎士や戦士のみならず、魔術師や僧侶の職業についてる人間も、ほとんどは騎士の職業にスキルを振っている。
特に騎士スキルを最大まで振った時に得られる『騎士の守り』というパッシブスキルは、常時HPが+40%。防御と魔法防御が+30%される神スキルだ。一般的な感性の持ち主であれば、これがどれだけ素晴らしいか分かるだろう。
守り方面のステータスが高い騎士はもちろんのこと、守りの薄い僧侶ですら、振ることを推奨されている神スキルだ。狂戦士なんてゴミスキルとは、天と地ほどの差がある素晴らしいスキルだ。
そんな騎士スキルにポイントを割かず、仲間を守り、強化することに特化したスキルに振った愛花は、二へへっと笑みを漏らし素直に褒め言葉を受け取る。
どうしてかローズたち一行と沼地のボスを倒す羽目になった愛花は、渋々ながら彼女たちの後をついて行くことにした。
「よし、愛花も仲間に加わったことだし、早速沼地のボスをぶっ飛ばすか」
綺麗な顔なのに口の悪いローズの物言いにビクビクしつつ、愛花はキョロキョロと辺りを見渡す。この世界には草原や沼地以外にも、多くのフィールドにボスモンスターが存在する。
倒すと貴重なドロップアイテムを落とすために、上位の冒険者たちはこぞってボスモンスターを討伐しようと躍起になっていた。にも関わらず、この世界でボスを討伐したことのある人間はほとんどいない。それはなぜか。
簡単な理由だ。ボスモンスターというのは、一度倒してしまうと再度ポップすることがない。つまりは早い者勝ちだからだ。
そしてそんな早い者勝ちの強敵を、愛花のパーティーメンバーである彼方が見逃すはずがない。彼はボスモンスターの存在をいち早く知ると、誰よりも早くフィールドの謎を解き、ボスを出現させ、討伐していった。
普通に考えれば、ボスモンスターを独り占めするかのような行為は良くないことに思える。だが、愛花は彼方がフィールドボスを倒してくれてよかったと思っている。フィールドボスを倒すと、貴重なレアドロップや装備品を落とす。
これを彼方は、ベリト率いる冒険者ギルドに安値でほとんど売り渡したのだ。自分たちに使えない装備はいらないと言って……。もし他の、自己中心的でこの世界を攻略することに興味のない人間が、貴重な装備品を独占してしまったらどうなることだろう。
きっと高値で売りつけるか、エリアボスに挑む気もないのに身を守るために装備をするだろう。それは良くない。あの貴重なアイテムや装備品は、人類のために最前線で戦う人間にこそ渡るべきなのだ。
だから彼方がボスのアイテムをほぼ独占してくれてよかったと、愛花は思っている。だが、ほぼ独占と言ったように、全てのフィールドボスを彼方と愛花が倒して訳ではない。中には先に倒されてしまったものや、このフィールドのように、愛花が拒絶してボス自体に挑まなかったものもある。
ここは沼地だ。当然汚れる。さらには毒もあり、ゾンビモンスターもものすごい腐敗臭を漂わせている。こんな場所を攻略するのは、女子である愛花には耐えられなかった。だから彼方が挑もうとしても、愛花が付いて行くことはなかった。
だというのに、どうしてこんなことに……。ぬちゃぬちゃとぬかるんだ地面を踏むと、足に気持ち悪い感覚が伝わってくる。戦いにくいし、臭いし、気持ち悪いし、なんでローズはこんなところのボスモンスターに挑みたいんだろう。
愛花が怪訝な表情を浮かべていると、ローズが顔だけを振り向かせて話しかけてくる。
「おい愛花。お前のパーティーにいる彼方ってやつの話、聞かせてくれないか?」
どうしてかいきなり彼方の話を聞かせてくれと頼んでくるローズに、少しだけ警戒心を露わにする。なんで彼方の話を聞きたいの? もしかして興味あるのかな?
もし彼方に惚れてるのだとしたら……。愛花はローズが彼方に恋心を抱いているのではないかと勘ぐるが、それはないかと判断する。
正直言って、彼方という人間は異性からモテない。口下手で人と話すのが苦手である愛花でさえ、男からナンパされたことがあるというのに、彼方が女性からナンパをされたり恋心を抱かれている姿を見たことがない。
それは彼方があまり異性に興味がないことと、彼方の見た目が異性受けしづらいからだと、愛花は考える。彼方の容姿は別に人より劣っている訳ではない。
だが、日本人であるが故か、少しばかり幼い印象を受けるのだ。さらに身長もあまり高くないため、イケメンやカッコいいという印象を抱きずらい。
どちらかというと、可愛いという単語が似合う男だ。だからなのか、彼方が色恋の話をすることはほとんどないし、彼方が特定の異性から好かれる、または好いているという話を聞いたこともない。
多分目の前にいるローズも、彼方の強さがどれぐらいのものなのかに興味を抱いているだけで、下心などがある訳ではないだろう。
だったら何も心配はない。三木彼方という人間の全てを、語り尽くしてやろう。
「そ、そうですね。まず彼方は……」
それから愛花は、彼方の偉業や異常さを語った。どれぐらい強いのか。どれぐらいイかれてるのか。彼方という人間の人となりを、語れるだけ語ってみた。だけど愛花の話す彼方という人間の像は、どうにも耳にしただけでは信じられるものではなかった。
「おい愛花。その話本当か? フィールドボスをノーダメージ討伐とか。キークエストを実質1人で攻略とか」
にわかには信じられないと言った様子のローズが愛花に確認すると、彼女はない胸を反らせて自慢げに。
「本当。今の話に嘘偽りはない」
断言する。そんな堂々とした様子の愛花を見た一行は、とりあえずこれ以上疑わず、彼女の話を飲み込んだ。
「にしても三木彼方か~。前に見たときはあんまり強そうじゃなかったけど、そんなに強いのか」
「うん。ローズが10人いても勝てない」
「いやいや、流石にそれはないだろ。愛花もさっき見ただろ? 私の斧さばきを。あんな華麗に敵の攻撃を受け流せる奴は、そういないぞ」
「確かにローズの動きはすごいけど、彼方ほどじゃない」
はっきりローズに言ってやると、彼女はショックを受けたのか、見て取れるぐらい落ち込んだ様子を浮かべる。そのことに愛花は若干罪悪感を感じる。彼方談義のおかげで、愛花とローズは気を使わず喋れるぐらいには仲良くなった。
同性の友人がいない愛花にとって、ローズという人間はこの短い時間の中で、唯一対等に喋れる同性へとランクアップしたのだ。そんな彼女を傷つける発言をしてしまったことを軽く後悔するが、もし嘘をついたとしても、それはそれで彼方の株を落とすことになるわけで……。
愛花は自分の発言が失言だったのか考えるが、そんな他人にとってはどうでもいいようなことを考えていると、ここのフィールドボスを出現させるのに欠かせない祠を守護するモンスターの姿が見えてきた。なんでもフィールドボスを出現させるには、沼地の四方にある祠の封印を解く必要があるとか。
「あいつが祠を守ってるやつか?」
ローズが確認するよう声を発する。祠の近くには片方の目ん玉が飛び出て、所々皮膚が溶け、骨が見えている犬のようなモンスターがいた。
レベルは10。このエリアでは最高のレベルだ。だが、所詮は雑魚モンスター。レベル10冒険者が5人もいれば、大したことはない。
愛花は両手の平をローズたちに向けると、バフをかける。
「《ダブルアタックアップ/二重攻撃力増加》《ダブルスピードアップ/二重俊敏性増加》《ダブルディフェンスアップ/二重防御力増加》」
愛花が呪文を唱えると、ローズたち一行の体が光を帯び、ステータスが上昇する。
「もっといる?」
愛花が尋ねると、ローズは首を振り仲間に喝を入れる。
「私が引きつける! みな、いつも通りにやるぞ!」
ローズが腕をバッとあげると、他のメンバーも腕をあげ、臨戦態勢に突入した。その光景を見て、またも愛花は感動する。なんというか、冒険者とはこういう人たちのことを言うんだろうな。強い絆で結ばれてるって感じがする。
バフをかけて仕事の終わった愛花は、後ろから4人の戦い振りを見学する。
まずローズが先頭に立つと、モンスターの噛みつき攻撃を盾で受ける。それから戦士であるダイスの方へ犬を蹴っ飛ばすと、ダイスが腹元を足で押さえつけ、斬りつける。だが、流石はレベル10モンスターなだけあり、ダイスの拘束を簡単に解くと、後ろにいたマリーに攻撃を仕掛ける。
だが、あと数秒でマリーに攻撃を仕掛けられると言う時に、横からエーデルの氷結魔法が犬の頬を貫き、怯ませる。
お互いに弱点を補い合っていると言うか、素晴らしい連携だ。なんて感じで傍観を決め込んでいると、一番遠くで見守っていたはずの愛花に向かって、モンスターが突進してきた。
ど、どうして? 愛花は一度もターゲットを取られるような行動を取ってない。いや、最初にバフを掛けたけど、そのあとは何もしてないし……。
いきなり愛花に向かって攻撃を仕掛けてきたモンスターの行動に困惑しつつ、彼女は思いっきり風魔法を相手に向けて放つ。
この風魔法は威力こそ低いが、移動や相手との距離を取るのにとても重宝する。なんだかんだ言って、これが一番使い勝手のいい魔法となっている。
愛花に思いっきり吹っ飛ばされたモンスターは、空中をグルグルと回転し、地面に倒れこむ。そしてその隙に、ダイスとローズが斬りつけ、HPバーをゼロにして、モンスターは蒸発した。
「ふぅ。まあ雑魚ならこんなもんか。にしても……」
ローズたち一行は顔を見合わせると、愛花に駆け寄り。
「すごいな、お前のバフは。掛けるやつによってこんなにも上昇する能力に開きがあるとは思わなかったぞ」
愛花にバフを掛けられた一同は、愛花をすごいすごいと褒め称える。この世界の回復やバフ効果というのは、すべて賢さや魔法攻撃力に依存する。愛花が上げた僧侶というスキルは、まさに味方の支援をすることに特化したスキルばかりなのだ。
彼方という攻撃のスペシャリストがいる以上、自分は攻撃系統のスキルや、守り方面のスキルが必要ないと判断した愛花は、早々に僧侶スキルに全プッパすることを決めた。
この世界では無数にスキルがあるが、その中でもっとも人気があり、かつ振ることを推奨されているのは騎士スキルだ。何故なら騎士スキルのほとんどはHPや防御力が上がるものであり、生き残るために必須な特技やステータスがもらえるためである。
騎士や戦士のみならず、魔術師や僧侶の職業についてる人間も、ほとんどは騎士の職業にスキルを振っている。
特に騎士スキルを最大まで振った時に得られる『騎士の守り』というパッシブスキルは、常時HPが+40%。防御と魔法防御が+30%される神スキルだ。一般的な感性の持ち主であれば、これがどれだけ素晴らしいか分かるだろう。
守り方面のステータスが高い騎士はもちろんのこと、守りの薄い僧侶ですら、振ることを推奨されている神スキルだ。狂戦士なんてゴミスキルとは、天と地ほどの差がある素晴らしいスキルだ。
そんな騎士スキルにポイントを割かず、仲間を守り、強化することに特化したスキルに振った愛花は、二へへっと笑みを漏らし素直に褒め言葉を受け取る。
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