上 下
54 / 70
彼と彼女の過去……

第53話絶望……

しおりを挟む
 俺はベッドに入って、一人うずくまっていた。
 どうしたらよかったんだ……。
 あのままあそこから、花の前から逃げ出してしまって良かったのか?
 いいわけがない!
 でも、じゃあどうすればよかったんだ?
 分からない。
 そんなこと分かっていれば、こんなことにはなっていない。
 こんなにも自分を恨んだのは初めてだ。
 息苦しくて、呼吸もままならない。
 悲しさや怒り、いろいろな感情が混ざり合っている。
 
「どうすれば……」

 俺が花にしてやれることは何もない。
 仮にもし、あそこで『分かった』と答えていたところで、そのあとどうすればよかった?
 やはりこの問題は、花が解決するべきだったんだ。 
 俺はそのままベッドで寝てしまった。
 起きるとカーテンの隙間すきまから日差しが流れ込んでくる。
 時刻は7時30分。
 そろそろ学校へ行く支度をしないといけない……。
 重い腰を上げて下の階に行こうとすると、どんどんと大きな音が俺の部屋のドアをたたく。

「優太! 入るよ」

 慌てた様子の母親が、俺の返事も聞かずに勝手に部屋に入ってきた。

「何? 今から下行こうとしてたんだけど?」

 勝手に上がり込んできた母親に、少し怒りを感じる。
 反抗期という奴だろうか?
 親がすること全てに腹が立つ。
 そんな俺の気も知らずに、母親はカーテンを開けて外を指さす。

「ちょっと見て! 花ちゃんたち引っ越しちゃうんだって」

「――え?」

 母親が何を言っているのか、理解するまでに少し時間がかかった。
 花が引っ越し?
 俺のせいで?
 急いで立ち上がり窓の外を見ると、引っ越し業者がトラックに花の家の荷物を積んでいる。
 俺は花に事情を聞こうと思い、急いで玄関に向かう。
 外に出ようとくつを履き、ドアを開けようとしたときに体が止まる。
 俺は花になんて聞くんだ?
 今更どのつら下げて、花のところへ行くんだ?
 俺の顔なんてもう見たくないんじゃないか?
 そう思うと、俺はドアを開けることが出来なかった。
 俺は靴を脱いで、上の階に戻る。
 戻る途中で母親に呼び止められる。

「花ちゃんに会ってきたの?」

「いや、会ってない」

「え?」
 
 心配そうな顔をする母親が、『何で?』と聞いてきたが、俺はその返答もせずに母親の横を通り過ぎて自分の部屋に戻る。
 今日は学校に行きたくない。
 布団にうずくまって横になる。
 もう花と二度と会えないのか?
 気づくと涙が出ていた。
 いくら目をこすっていても、その水は止まらない。
 息が出来ない。
 こんなに苦しいのは初めてだ。
 花は毎日こんなに苦しかったのか。
 過呼吸かこきゅう寸前になり、まともに空気が吸えない。
 こんなに苦しいぐらいなら、最初から花と会わなければとさえ思ってしまう。
 でもそれは違う。
 花がいたから、俺は友達がいなくても大丈夫だった。
 いつも俺が一人の時に、あいつは俺のそばにいてくれた。
 なのに俺は、あいつが苦しんでいるのに、助けを求めていたのに、何もしてやらなかった。
 何であいつはそんなに優しいんだよ……。
 俺は涙を止めて、呼吸を整える。
 最後に花に会いたかった。
 なんて言われようとも、無視されようとも、あいつに会いたい。
 会って謝りたい。
 会って感謝したい。
 走って玄関まで行き、靴を履いてドアを思いっきり開ける。
 そして花の家の前まで行くが、そこには引っ越し業者の人しかいなかった。
 
「すいません」

 近くにいた、割と大きめの家具を持っているお兄さんを呼び止める。
 お兄さんは、こちらを向いて『何だい?』と首をかしげた。

「あの、ここに住んでいた人たちはどこですか?」

「あー、その人たちは一足先に引っ越し先の家に行ったよ」

 俺はそのお兄さんの言葉に絶望した……。
 こんな形で花とお別れなんて嫌だ……。
 でもどうしようもない。
 引っ越し先も聞いてないし、メールも花への罪悪感で連絡先を消してしまった。
 俺はお兄さんに『分かりました』とだけ言って、家に戻る。
 これからどうすればいい。
 花がいなくても俺は生きていけるのか?
 この先不安と絶望しかなかった。
 また俺は、自室のベッドの上で布団を被って横になった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

ままならないのが恋心

桃井すもも
恋愛
ままならないのが恋心。 自分の意志では変えられない。 こんな機会でもなければ。 ある日ミレーユは高熱に見舞われた。 意識が混濁するミレーユに、記憶の喪失と誤解した周囲。 見舞いに訪れた婚約者の表情にミレーユは決意する。 「偶然なんてそんなもの」 「アダムとイヴ」に連なります。 いつまでこの流れ、繋がるのでしょう。 昭和のネタが入るのはご勘弁。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

処理中です...