上 下
38 / 70
彼と彼女の過去……

第37話共通の敵……

しおりを挟む
 合唱コンクールまでついにあと一日……。
 明日は合唱コン本番だというのに、このクラスは……。

「また合唱練かよ……」

「もう俺たち不戦敗でよくね?」

 ……。
 もう合唱コンクールが始まるというのに、このざまである……。
 結局このクラス、ほとんどの生徒が最後まで歌いきることが出来ない……。
 それもそのはず、練習は歌わないどころかサボる始末で、仮に参加しても喋っているか、携帯をいじっているだけなのだから……。
 男子も女子もやる気がない……。
 女子が泣いてクラスを出ていくイベントもなければ、最初はやる気のなかった男子が、女子の声援せいえんでやる気を出して優秀賞を取り、クラスの仲が深まるなんてこともない……。
 明日は合唱コンだからといって、担任が無理やり全員残らせたが、居てもいなくても変わらない……。
 みんなやらないので、やる気のある生徒もやらなくなる……。
 そんななか、一人だけは違った生徒がいた……。

「皆さん、今から男女で合わせて歌います。指揮者の井上さんの合図で始めてください……」

 みんながだらだらしてるのに、花だけは違っていた……。
 なんて言うか、コイツの周りに流されないところって本当にすごいと思う……。
 俺にはそんな精神力はない……。
 周りが本気でやっていたら俺も本気で取り組んだが、流石に一人だけ本気ガチで取り組むのは恥ずかしい……。
 指揮者の合図で、花が合唱曲を弾き始める……。
 最初は女子のアルトが歌い始めるが、とても小さくピアノの音にかき消されていた……。
 続いてソプラノ……。
 これもまた酷かった……。
 ソプラノの方が人数が少ないからか、全くと言っていいほど歌声が聞こえなかった……。
 めんどくさいから歌ってないのか、歌詞を覚えてないから歌えないのか、声が小さくて聞こえないだけなのか知らないが、とにかく何も聞こえない……。
 今のところ、合唱がメインではなく、伴奏がメインになってしまっている……。
 そして女子達と合わせるように、男子が歌い始めるのだが……。
 まあ分かってはいたけど、俺以外の声が聞こえない……。
 これは俺の声が大きいから聞こえないとかではなく、普通に俺以外歌ってない……。
 せめて男子のパートリーダぐらいは歌えよ! っと心の中で憤怒する……。
 そして合唱……というより伴奏は、何事もなくに終わった……。
 本当になんもなかった……。
 だって誰も歌わないんだもの……。
 
「えーと、皆さんもう少し歌詞を覚えてください。あと覚えている人は、声をもっと出してください」

 ピアノから離れて、教卓の前に立った花は、呆れた感じでアドバイスというか、注意をした……。
 
「それじゃあ今日はここらへんで解散にしたいと思います。皆さん、明日までには歌詞をしっかりと覚えておいてください……」 
 
 号令をかけずにクラスメイトは帰っていく……。
 俺もほとんど習慣になった施錠をするために、全員が教室から出ていくのを待っていた……。
 すると、呆れた様子の花がこちらに向かってきた……。

「ねぇ優太。私今日は少し用事があるから先に帰るわ」

「そうか……。分かった」

 そういうと、花はすぐに教室を出ていった……。
 俺もすぐに帰りたいが、まだ帰れそうにない……。
 たいていの生徒が教室を出ていったなか、またもや陽キャの女子AとBが話している……。
 ちなみに名前は知らない。
 この教室はその女子二人と、数人の生徒しかいない……。
 別にその二人の会話を聞きたかったわけではないが、こう静かだと嫌でも耳に入る……。

「はぁ……今日もまじだるかったー」

「ほんと、別に合唱コンで賞取ったからなんだよ? って話だよね!」

 それ言ったら終わりだろ……。
 
「てかさー、なんだっけ? 矢木澤さん? あの子何なの? チョー偉そうじゃない?」

「あ、それ私も思った! 上から目線だし、指図してくるし」

 最初は合唱コンの愚痴だったのに、急に花の愚痴に変わった……。
 あいつはただ本気でこの合唱コンにのぞんでるだけだと思うけど……。
 
「てかさ、毎回思うんだけど、うちらのこと舐めすぎじゃない? なんか男に話しかけられても平然としてるし……」

「なんかお高く留まってるよね」

 それからその愚痴トークが盛り上がり、ニ十分ほどしてようやく彼女らは教室を出ていった……。
 自分と仲のいい奴を悪く言われると、無性むしょうに腹が立つ……。
 花は多分、見下したりしているつもりは一切ない……。
 じゃあ何故彼女らがそう言ってしまうのか……。
 それは、自分の方がおとっているという自覚があるからだ……。
 だが、彼女らはそれを認めようとしないだろう……。
 矢木澤花という人間には、どうあがいても勝てないという事実を、矢木澤花に嫉妬しているということを悟られたくないんだ……。
 だから陰口を仲間と言い合うことにより、自分を強く見せる……。
 何故陰口なのか……。
 それは矢木澤花という共通の敵を作り、仲間を増やすためだ……。
 陰口を言うことにより、矢木澤花をよく思っていない女子を仲間に引き入れることが出来る……。
 でもそれは仕方のないことなのかもしれない……。
 人間は、優秀な人間に勝つ努力はおこたるのに、排除する努力はする……。 
 嫉妬して蹴落けおとそうとする……。
 でも矢木澤花は、何も感じないのだろう……。
 彼女は完璧かんぺきで、とても強いのだから……。
 おれは机の上においてあったカバンを肩にかけて、教室を出る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

ままならないのが恋心

桃井すもも
恋愛
ままならないのが恋心。 自分の意志では変えられない。 こんな機会でもなければ。 ある日ミレーユは高熱に見舞われた。 意識が混濁するミレーユに、記憶の喪失と誤解した周囲。 見舞いに訪れた婚約者の表情にミレーユは決意する。 「偶然なんてそんなもの」 「アダムとイヴ」に連なります。 いつまでこの流れ、繋がるのでしょう。 昭和のネタが入るのはご勘弁。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...