上 下
30 / 41

仄かなぬくもり

しおりを挟む

「カイゼル様っ……! 離してください!!」

必死でカイゼル様に抱き上げられた身体を下ろしてもらおうと彼を押しやっていた。
そして、縦抱きにされた私をぎらりとカイゼル様が睨む。

「……あそこで何をしていた?」
「少しお話をしていただけです!」
「ドレスを脱ぐ必要があるのか! 俺に黙って一人で城に来てまで……!」
「ちょっと落ち着いてください!!」

私が、呪いのことやカイゼル様が決して話さなかったことを勝手に聞きに来たから怒っているのかと思えば……。

「……やきもちですか?」
「余計なことを言うな! バカ女!」

身体を下ろされると、そのまま力任せに廊下の壁に押しやられて、唇を塞がれる。

「んんっ……!?」

食べられるようなキスに、カイゼル様の嫉妬ぐあいが窺える。壁に押しやられたままで、鎖骨へとカイゼル様の唇が這っていき、ずらしたドレスから胸が零れた。

「やぁっ……カイゼル様……ここでは……っ!?」
「うるさい。身体は俺に差し出すと言ったはずだ」

カイゼル様に感情のままに触れられたところが熱い。顔全体が羞恥から紅潮していっている。

「カイゼル様っ……誰かに見られたら……」
「この一角は、宝物庫に関係するやつしか来ないから、安心しろ!!」

力いっぱい言われても同意できない。それは、宝物庫に関係のある人は来るということですよね!?
それでも、カイゼル様は気にすることなく激情のままに私のドレスへと侵入していく。

「あぁっ……やだぁっ……」

びくりと身体が震える。カイゼル様に唇を塞がれながらドレスの中には彼の手が敏感なところを刺激してくる。

「カイゼル!」

蕩けそうな吐息を吐き出すと、レイシス伯爵がカイゼル様の名前を呼ぶ声がした。

「レ、レイシス伯爵様、ローランド様……!」
「邪魔しないでください」

怖い顔で二人を睨みつけるカイゼル様に、レイシス伯爵が止めた。

「カイゼル。あいつが見ている」

その言葉に、カイゼル様が周りを見た。振り向いた彼の視線の先には、柱の陰からうっすらと黒いモヤがにじみ出ている。背筋がぞっとして、カイゼル様の腕の中で胸板に縋りついた。

「……っ近づくな!!」

カイゼル様が、呪いに怒号を発すると黒いモヤは霧のように消えて行った。

「カイゼル様……」
「大丈夫だ……近づけさせない。誰にも……」

カイゼル様が私をマントに包み、力の限り抱きしめる。近づけさせないのは、呪いだけではない。きっとレイシス伯爵やローランド様にも向けて言っているのだ。
「誰にも渡さない」と声が聞こえそうなほどカイゼル様が言葉を飲み込んだのがわかる。

「……カイゼル様。大丈夫ですよ。私はどこにも行きませんから……レイシス伯爵様たちにお会いに来たのは、あの封魔石が気になったからです。あれはお師匠様が作っていたことを思い出して……親代わりに育ててくれたお師匠様が懐かしくて来てしまいました」
「本当か?」
「本当にそれだけです」

カイゼル様の胸にしがみつくようにもたれた。この温もりを感じられるのはあとどのくらいなのだろうか。切ない気持ちを抑えて、カイゼル様をいたわるように言った。

「クローディア……」
「カイゼル様……」

奥歯を嚙み締める様に私の名前を呼ばれると、余計に切なくなる。今にも泣きたくなる衝動に駆られる。でも、できない。これ以上カイゼル様に、何も負担を強いたくない。

「カイゼル……すぐに、封魔石を設置しよう。呪いがウロウロしすぎだ」

レイシス伯爵が、少しでも私たちからエルゼラの呪いを遠ざけようとそう言った。
それに、ローランド様も同意する。

「私もそれに賛成だ。聖女を集められるだけ集めよう」
「力の弱い聖女はお断りです。邪魔になる」
「わかった……大聖女になれる可能性のある聖女だけ、すぐに集める。とにかく、少しでも呪いを宝物庫に抑えよう」

ローランド様が、レイシス伯爵に首を振り合図を出すと、すぐにレイシス伯爵は動き出した。そして、ローランド様は愁嘆の想いを込めた瞳で私を見ると、レイシス伯爵の後を追っていった。

「……カイゼル様」
「なんだ?」
「お帰りになったら、ランタンをつけてくださいね」
「ああ……すぐにつける」

仄かに笑みを浮かべた。その私を彼はもう一度強く抱きしめた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】

臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!? ※毎日更新予定です ※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください ※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

【完結】【R18】買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。 姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。 だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。 ――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。 そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。 その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。 ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。 そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。 しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!? おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ! ◇hotランキング 3位ありがとうございます! ―― ◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ ◇表紙はフリーのものをお借りしております。

【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】

阿佐夜つ希
恋愛
『貴女には、これから我々四人の賢者とセックスしていただきます』――。  三十路のフリーター・篠永雛莉(しのながひなり)は自宅で酒を呷って倒れた直後、真っ裸の美女の姿でイケメン四人に囲まれていた。  雛莉を聖女と呼ぶ男たちいわく、世界を救うためには聖女の体に魔力を注がなければならないらしい。その方法が【儀式】と名を冠せられたセックスなのだという。  今まさに魔獸の被害に苦しむ人々を救うため――。人命が懸かっているなら四の五の言っていられない。雛莉が四人の賢者との【儀式】を了承する一方で、賢者の一部は聖女を抱くことに抵抗を抱いている様子で――?  ◇◇◆◇◇ イケメン四人に溺愛される異世界逆ハーレムです。 タイプの違う四人に愛される様を、どうぞお楽しみください。(毎日更新) ※性描写がある話にはサブタイトルに【☆】を、残酷な表現がある話には【■】を付けてあります。 それぞれの該当話の冒頭にも注意書きをさせて頂いております。 ※ムーンライトノベルズ、Nolaノベルにも投稿しています。

【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。

aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。 生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。 優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。 男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。 自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。 【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。 たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

処理中です...