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すべてを知り終わりへと近づく

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カイゼル様に呪いが現れたことを話すと、レイシス伯爵もローランド様も息が止まったように固まっている。

「……いつからだ?」
「わかりません……私が見たのは、昨日です……でも、カイゼル様は驚きもしなくて……」

ローランド様が、眉根にシワを寄せて考え込んでいる。

「昨日ではないな……だから、急いで封魔石を何とかしようとしていたのか……」

レイシス伯爵が、カイゼル様の行動に納得したように呟く。昨日のデートの日は、カイゼル様は用事があって、あまり待ってないと言っていた。それは、封魔石を急遽宝物庫に入れようとしていたのだ。でも、ハリエットさんの聖女の力が上手く封魔石に捧げられないでいた。封魔石が不完全なのだ。

「あの呪いは何ですか? カイゼル様と私に関係あるのですか? フォルクハイト伯爵邸の呪いだって……」
「あれは、カイゼルのフォルクハイト伯爵家を襲った呪いだ。宝物庫の呪いがフォルクハイト伯爵家を襲っているんだよ」

ローランド様が、両手を組んだままで頭を押さえて言った。

「あれは、王族に向けられた呪いじゃ……でも、私に向かってきていたのはどうして……私は、フォルクハイト伯爵家の血筋では……」
「クローディアが、フォルクハイト伯爵家の婚約者だと思われたからだ。結婚相手だと思ったのだろう。カイゼルは、君に一目惚れしていたんだ」

レイシス伯爵が、冷静に話している。
私とカイゼル様が出会ったのは、彼が倒れていた時だ。呪われており、それを私が浄化した。それから、私は一度も浄化の術が使えなくなったどころか、呪われていた。

私とカイゼル様の呪いが同じ。それは、あのカイゼル様の呪いが私に浸食したのだ。

「カイゼル様が、私に申し訳なさそうだったのは……いつもいつも、切なそうに私を見て……」

愛おしそうに私の髪を大事にすくい撫でていた。私に鍵魔法を使ったのも、私をあの森に迎えに来たのも……カイゼル様が、自責の念に囚われていたからだ。

「全てを話そう……どこまでこの魔法が遮断されているかわからないから、手短にだが……」

レイシス伯爵が、カイゼル様の呪いのことを話し始めた。彼はあの呪いに侵されて、私と出会う前には、死に近づいていたと……そして、私と出会い、私の聖女の力がカイゼル様に移った。あのただ一度だけ使った浄化の術がカイゼル様を救ったのだ。
その代わりに私が呪いに侵されて、私はエルゼラの呪いに狙われていた。いつ呪いに侵されたのかわからなかった。気がつけば黒くなっていたのだ。
そして、少しでもフォルクハイト伯爵家と関係ないと思わせるために、カイゼル様がレイシス伯爵に頼み私と結婚したのだという。

カイゼル様が、私をすぐに迎えに来なかったのは、エルゼラの呪いに私が彼の結婚相手だと思わせないためだという。エルゼラの呪いに、ロゼは死んだと思わせたかったのかもしれない。カイゼル様が、私の名前をロゼと間違えてしまっていたおかげでエルゼラの呪いは、私__クローディアがわからなくなっていのだ。

気配を探ろうにも、きっとそれはお師匠様がいたせいだ。お師匠様が、何かの魔法で私の気配を消していた。
あの森からほとんど出なかったのも、幸いしたのだろう。

「あの魔女は、森にも森の家にも色々仕掛けをしていたし、クローディアは私と結婚していたから、居場所を特定出来なかったのかもしれない。実際にカイゼルにすら、クローディアの森での居場所を特定出来なかった。私と魔女が、君を隠していたからだ。それもカイゼルの頼みだった。エルゼラの呪いは、人間のように嫉妬という意志があるのだ」

レイシス伯爵が、神妙に話していた。
確かにカイゼル様は私を迎えに来た時は、森で迷っていた。そこで私と彼は再会をはたしたのだ。

「でも、このままでは、カイゼル様に呪いが戻ってしまいます。鍵魔法を止めてくださいっ……」
「無理だ……鍵魔法は一度発動すると止められない。あれは、鍵魔法を授ける魔法なのだ。だから、フォルクハイト伯爵家の決まりとして、その当主代理ができるように妻にしか使わないこととなっているんだ」
「それは、私も鍵魔法が使えるようになるということですか?」
「そうなるはずだ。恐らく、鍵魔法の印が完成すれば使える。だが、カイゼルが死ねば君の鍵魔法の能力は消える。だから、一生を共にする妻にしかかけない。それが、フォルクハイト伯爵家の決まりだ」

鍵魔法は止められない。カイゼル様の言った通りだ。彼の魔法の師匠でも止められない。
私が森に逃げても無駄だと言われている気さえしてきた。
絶望的だ。でも、それに浸る時間も余裕もない。
何とかして、カイゼル様に呪いが戻らないようにしないと……彼に戻そうなどとは露ほどにも思えなかった。

「今は、どれくらい鍵魔法は進んでいるんだ? カイゼルは、まだ完成してないと言っていたが……」
「もうすぐです……きっと、もう数日もないかも……」

初めて鍵魔法の印が現れた時よりもずっとはっきりとしている。それを、レイシス伯爵たちに確認してもらうために、ドレスの肩を下ろして見せた。

私の肩に現れている鍵の紋様を見ると、レイシス伯爵もローランド様も息をのんだ。

「……レイシス……」

ローランド様が、驚いたままでレイシス伯爵に答えを求める。

「……一週間……いや、確かにあと数日もないかもしれない……すでに、カイゼルに呪いが現れているなら……」

レイシス伯爵が、口を抑えて言葉を失った。沈黙が流れる部屋で、泣きそうな私に言葉を向けたのはローランド様だった。

「……クローディア。私は、カイゼルを守る。君には酷だと思うが……」
「いいのです……どうか、カイゼル様を助けてください」

首を緩やかに左右に振って答えた。ローランド様が言っていることはわかる。
彼は私とカイゼル様の両方が助けられないなら、間違いなくカイゼル様を取るのだ。

ローランド様は、陛下でありながら私に傅いた。

「どうか、許してくれ……私を恨んでも構わない。だが、できることはする。このまま、君を見過ごしたりしない」
「……ありがとうございます。でも、私のことはお捨てください。そうしないとカイゼル様が……」

目尻から浮かんだ涙が零れた。私は、カイゼル様とは生きられない。
ローランド様たちが必要なのは私ではない。カイゼル様だ。
だから、きっと私よりもカイゼル様を助けてくれる。どうか、そうして欲しい。

私が呪いと共にこのままいなくなれば、カイゼル様にはきっと呪いは戻らない。呪いに浸食されている私がいなくなるのだから……。

それは、ローランド様たちもわかっている。だから、彼は私に手を伸ばし抱き寄せた。何度も「許してくれ」と言いながら……。

__パンッ

その時に部屋に置いてあった魔道具が音を立てて割れた。

「魔法が切れたんだ。やはりクローディアを見ているのか……だが、確信もある。先ほどまでの話は聞かれてなかったのだ」

レイシス伯爵が、立ち上がりそう言った。その時に、勢いよく扉が開かれた。

「クローディア!!」

勢いよく扉を開けて飛び込んできたのはカイゼル様だった。彼は、部屋に入るなりローランド様の腕の中でドレスの肩を下したままで泣いている私を見て、表情が怒ったように強張った。

「何をしている……!!」

力任せにカイゼル様が私をローランド様から取り上げた。その反動で、むき出しになっている肩からドレスがずれて胸が零れそうになる。

「カイゼル様っ……」
「カイゼル! 待て!」
「カイゼルっ!!」

カイゼル様は、私を抱き上げたままでレイシス伯爵とローランド様の制止を振り切って部屋を後にした。





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