29 / 41
すべてを知り終わりへと近づく
しおりを挟むカイゼル様に呪いが現れたことを話すと、レイシス伯爵もローランド様も息が止まったように固まっている。
「……いつからだ?」
「わかりません……私が見たのは、昨日です……でも、カイゼル様は驚きもしなくて……」
ローランド様が、眉根にシワを寄せて考え込んでいる。
「昨日ではないな……だから、急いで封魔石を何とかしようとしていたのか……」
レイシス伯爵が、カイゼル様の行動に納得したように呟く。昨日のデートの日は、カイゼル様は用事があって、あまり待ってないと言っていた。それは、封魔石を急遽宝物庫に入れようとしていたのだ。でも、ハリエットさんの聖女の力が上手く封魔石に捧げられないでいた。封魔石が不完全なのだ。
「あの呪いは何ですか? カイゼル様と私に関係あるのですか? フォルクハイト伯爵邸の呪いだって……」
「あれは、カイゼルのフォルクハイト伯爵家を襲った呪いだ。宝物庫の呪いがフォルクハイト伯爵家を襲っているんだよ」
ローランド様が、両手を組んだままで頭を押さえて言った。
「あれは、王族に向けられた呪いじゃ……でも、私に向かってきていたのはどうして……私は、フォルクハイト伯爵家の血筋では……」
「クローディアが、フォルクハイト伯爵家の婚約者だと思われたからだ。結婚相手だと思ったのだろう。カイゼルは、君に一目惚れしていたんだ」
レイシス伯爵が、冷静に話している。
私とカイゼル様が出会ったのは、彼が倒れていた時だ。呪われており、それを私が浄化した。それから、私は一度も浄化の術が使えなくなったどころか、呪われていた。
私とカイゼル様の呪いが同じ。それは、あのカイゼル様の呪いが私に浸食したのだ。
「カイゼル様が、私に申し訳なさそうだったのは……いつもいつも、切なそうに私を見て……」
愛おしそうに私の髪を大事にすくい撫でていた。私に鍵魔法を使ったのも、私をあの森に迎えに来たのも……カイゼル様が、自責の念に囚われていたからだ。
「全てを話そう……どこまでこの魔法が遮断されているかわからないから、手短にだが……」
レイシス伯爵が、カイゼル様の呪いのことを話し始めた。彼はあの呪いに侵されて、私と出会う前には、死に近づいていたと……そして、私と出会い、私の聖女の力がカイゼル様に移った。あのただ一度だけ使った浄化の術がカイゼル様を救ったのだ。
その代わりに私が呪いに侵されて、私はエルゼラの呪いに狙われていた。いつ呪いに侵されたのかわからなかった。気がつけば黒くなっていたのだ。
そして、少しでもフォルクハイト伯爵家と関係ないと思わせるために、カイゼル様がレイシス伯爵に頼み私と結婚したのだという。
カイゼル様が、私をすぐに迎えに来なかったのは、エルゼラの呪いに私が彼の結婚相手だと思わせないためだという。エルゼラの呪いに、ロゼは死んだと思わせたかったのかもしれない。カイゼル様が、私の名前をロゼと間違えてしまっていたおかげでエルゼラの呪いは、私__クローディアがわからなくなっていのだ。
気配を探ろうにも、きっとそれはお師匠様がいたせいだ。お師匠様が、何かの魔法で私の気配を消していた。
あの森からほとんど出なかったのも、幸いしたのだろう。
「あの魔女は、森にも森の家にも色々仕掛けをしていたし、クローディアは私と結婚していたから、居場所を特定出来なかったのかもしれない。実際にカイゼルにすら、クローディアの森での居場所を特定出来なかった。私と魔女が、君を隠していたからだ。それもカイゼルの頼みだった。エルゼラの呪いは、人間のように嫉妬という意志があるのだ」
レイシス伯爵が、神妙に話していた。
確かにカイゼル様は私を迎えに来た時は、森で迷っていた。そこで私と彼は再会をはたしたのだ。
「でも、このままでは、カイゼル様に呪いが戻ってしまいます。鍵魔法を止めてくださいっ……」
「無理だ……鍵魔法は一度発動すると止められない。あれは、鍵魔法を授ける魔法なのだ。だから、フォルクハイト伯爵家の決まりとして、その当主代理ができるように妻にしか使わないこととなっているんだ」
「それは、私も鍵魔法が使えるようになるということですか?」
「そうなるはずだ。恐らく、鍵魔法の印が完成すれば使える。だが、カイゼルが死ねば君の鍵魔法の能力は消える。だから、一生を共にする妻にしかかけない。それが、フォルクハイト伯爵家の決まりだ」
鍵魔法は止められない。カイゼル様の言った通りだ。彼の魔法の師匠でも止められない。
私が森に逃げても無駄だと言われている気さえしてきた。
絶望的だ。でも、それに浸る時間も余裕もない。
何とかして、カイゼル様に呪いが戻らないようにしないと……彼に戻そうなどとは露ほどにも思えなかった。
「今は、どれくらい鍵魔法は進んでいるんだ? カイゼルは、まだ完成してないと言っていたが……」
「もうすぐです……きっと、もう数日もないかも……」
初めて鍵魔法の印が現れた時よりもずっとはっきりとしている。それを、レイシス伯爵たちに確認してもらうために、ドレスの肩を下ろして見せた。
私の肩に現れている鍵の紋様を見ると、レイシス伯爵もローランド様も息をのんだ。
「……レイシス……」
ローランド様が、驚いたままでレイシス伯爵に答えを求める。
「……一週間……いや、確かにあと数日もないかもしれない……すでに、カイゼルに呪いが現れているなら……」
レイシス伯爵が、口を抑えて言葉を失った。沈黙が流れる部屋で、泣きそうな私に言葉を向けたのはローランド様だった。
「……クローディア。私は、カイゼルを守る。君には酷だと思うが……」
「いいのです……どうか、カイゼル様を助けてください」
首を緩やかに左右に振って答えた。ローランド様が言っていることはわかる。
彼は私とカイゼル様の両方が助けられないなら、間違いなくカイゼル様を取るのだ。
ローランド様は、陛下でありながら私に傅いた。
「どうか、許してくれ……私を恨んでも構わない。だが、できることはする。このまま、君を見過ごしたりしない」
「……ありがとうございます。でも、私のことはお捨てください。そうしないとカイゼル様が……」
目尻から浮かんだ涙が零れた。私は、カイゼル様とは生きられない。
ローランド様たちが必要なのは私ではない。カイゼル様だ。
だから、きっと私よりもカイゼル様を助けてくれる。どうか、そうして欲しい。
私が呪いと共にこのままいなくなれば、カイゼル様にはきっと呪いは戻らない。呪いに浸食されている私がいなくなるのだから……。
それは、ローランド様たちもわかっている。だから、彼は私に手を伸ばし抱き寄せた。何度も「許してくれ」と言いながら……。
__パンッ
その時に部屋に置いてあった魔道具が音を立てて割れた。
「魔法が切れたんだ。やはりクローディアを見ているのか……だが、確信もある。先ほどまでの話は聞かれてなかったのだ」
レイシス伯爵が、立ち上がりそう言った。その時に、勢いよく扉が開かれた。
「クローディア!!」
勢いよく扉を開けて飛び込んできたのはカイゼル様だった。彼は、部屋に入るなりローランド様の腕の中でドレスの肩を下したままで泣いている私を見て、表情が怒ったように強張った。
「何をしている……!!」
力任せにカイゼル様が私をローランド様から取り上げた。その反動で、むき出しになっている肩からドレスがずれて胸が零れそうになる。
「カイゼル様っ……」
「カイゼル! 待て!」
「カイゼルっ!!」
カイゼル様は、私を抱き上げたままでレイシス伯爵とローランド様の制止を振り切って部屋を後にした。
136
お気に入りに追加
579
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
本日をもって、魔術師団長の射精係を退職するになりました。ここでの経験や学んだことを大切にしながら、今後も頑張っていきたいと考えております。
シェルビビ
恋愛
膨大な魔力の引き換えに、自慰をしてはいけない制約がある宮廷魔術師。他人の手で射精をして貰わないといけないが、彼らの精液を受け入れられる人間は限られていた。
平民であるユニスは、偶然の出来事で射精師として才能が目覚めてしまう。ある日、襲われそうになった同僚を助けるために、制限魔法を解除して右手を酷使した結果、気絶してしまい前世を思い出してしまう。ユニスが触れた性器は、尋常じゃない快楽とおびただしい量の射精をする事が出来る。
前世の記憶を思い出した事で、冷静さを取り戻し、射精させる事が出来なくなった。徐々に射精に対する情熱を失っていくユニス。
突然仕事を辞める事を責める魔術師団長のイースは、普通の恋愛をしたいと話すユニスを説得するために行動をする。
「ユニス、本気で射精師辞めるのか? 心の髄まで射精が好きだっただろう。俺を射精させるまで辞めさせない」
射精させる情熱を思い出し愛を知った時、ユニスが選ぶ運命は――。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
王太子殿下から逃げようとしたら、もふもふ誘拐罪で逮捕されて軟禁されました!!
屋月 トム伽
恋愛
ルティナス王国の王太子殿下ヴォルフラム・ルティナス王子。銀髪に、王族には珍しい緋色の瞳を持つ彼は、容姿端麗、魔法も使える誰もが結婚したいと思える殿下。
そのヴォルフラム殿下の婚約者は、聖女と決まっていた。そして、聖女であったセリア・ブランディア伯爵令嬢が、婚約者と決められた。
それなのに、数ヶ月前から、セリアの聖女の力が不安定になっていった。そして、妹のルチアに聖女の力が顕現し始めた。
その頃から、ヴォルフラム殿下がルチアに近づき始めた。そんなある日、セリアはルチアにバルコニーから突き落とされた。
突き落とされて目覚めた時には、セリアの身体に小さな狼がいた。毛並みの良さから、逃走資金に銀色の毛を売ろうと考えていると、ヴォルフラム殿下に見つかってしまい、もふもふ誘拐罪で捕まってしまった。
その時から、ヴォルフラム殿下の離宮に軟禁されて、もふもふ誘拐罪の償いとして、聖獣様のお世話をすることになるが……。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
「君とは結婚しない」と言った白騎士様が、なぜか聖女ではなく私に求婚してくる件
百門一新
恋愛
シルフィア・マルゼル伯爵令嬢は、転生者だ。どのルートでも聖人のような婚約者、騎士隊長クラウス・エンゼルロイズ伯爵令息に振られる、という残念すぎる『振られ役のモブ』。その日、聖女様たちと戻ってきた婚約者は、やはりシルフィアに「君とは結婚しない」と意思表明した。こうなることはわかっていたが、やるせない気持ちでそれを受け入れてモブ後の人生を生きるべく、婚活を考えるシルフィア。だが、パーティー会場で居合わせたクラウスに、「そんなこと言う資格はないでしょう? 私達は結婚しない、あなたと私は婚約を解消する予定なのだから」と改めて伝えてあげたら、なぜか白騎士様が固まった。
そうしたら手も握ったことがない、自分には興味がない年上の婚約者だった騎士隊長のクラウスが、急に溺愛するようになってきて!?
※ムーン様でも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる