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闇のシード 3
しおりを挟む「セレスティア様!?」
あの場を飛び出して行くと、来た時と同じ場所にいるアベルが驚いて私を止めようとした。
「セレスティア様っ……そのお姿は……!?」
「近づかないで!!」
私を引き留めようとしたアベルを感情のままに魔法で弾いた。
自分でもわかる。どんどん闇が私からあふれるように滲み出ているのを……。
ずっと隠していた。
闇のシードを光の魔法で封じる役目を告げられて、あの聖女機関の地下に連れていかれた。
でも、魔法はかかったはずなのに、闇に触れたせいか私が闇に穢された。
闇に引きずり込まれないようにと、心を塞いで感情的にならないようにしていた。
只々、城から、マティアス様から離れたかった。浮気を知った時点で、私が我慢するものはないのだと……。
でも、聖女機関の秘密を知ってしまった。だから、婚約破棄をして、逃げるしかないと思っていた。
それを、ヴェイグ様が私を連れ出してくれた。ロクサスたちを追い払ってまで……。
「セレスティア!!」
一心不乱に離宮に向かって走って来て、呼吸が乱れていた。
両膝をついたままで、今にも呼吸が止まりそうなほど苦しかった。
そんな私に、ロクサスが驚き見ていた。
「いったいどうしたんだ!? その姿は……!」
「ロクサス……」
聖女であった私が、有り得ないほど闇を纏う姿にロクサスが驚愕する。近寄ることもためらうほどに。一瞬躊躇したかと思えば、そっと近付いてくるロクサス。
「セレスティア……カレディア国に帰ろう。すぐに闇も払う……」
そう言って、ロクサスが光の魔法で闇を消そうとし始めた。
「……帰ってどうするの? 私を聖女機関に閉じ込めるつもり?」
「そんなことはしない! イゼル様にも進言する。きっと悪いようにはしない……聖女を解任されたことも、俺が何とかする。君の力は必要だ。このままでは……」
「そのイゼル様は、私を助けて下さらなかったわ!」
私を連れ帰ろうとするロクサスに感情のままに叫んだ。
「イゼル様だけは、闇のシード(魔法の核)に触れてから私の髪が黒くなったことをご存じだったのよ!? それなのに、何も庇ってくださらなかったわ! 周りの噂を知っていたのに!? どれだけ私が嘲笑や侮蔑の的にされたか……っ、ご存じだったのよ!」
「言えるわけがないだろう! あの場所は陛下以外には秘密の場所なのだ! 光の国に闇のシード(魔法の核)があるなど……それも、ここ数年で光の力が圧されてきているのだ! 聖女の能力が落ちてきていることもわかっているだろう!! そんなことが知られれば、国の威信はどうなる!」
「だから、私が闇に侵されていっているのよ……! 私が、力不足だから……」
「それでも、セレスティアは闇に飲まれてない……」
遥か昔には、能力不足で闇に飲まれた聖女も過去にはいたと聞いた事がある。だから、この闇のシード(魔法の核)は隠されたままで守られてきたのだ。
誰にも知られずに、大聖女になる能力の高い聖女、もしくは聖騎士だけが闇のシード(魔法の核)の存在を知るのだ。
「でも……私は、そのせいで婚約破棄をされたの……」
今でも、好きだったかどうかは自信がない。気がつけば、あの仄かな初恋は消えていた。それでも、最初はマティアス殿下とは結婚するつもりだった。
それが、私の聖女にあるまじき黒髪を見て、蔑んだ目を向けた。そして、マティアス殿下とエリーゼが城の奥へと二人寄り添い消えていくのを見た。だから、もう結婚など考えなかった。早く婚約破棄をしたかった。
それなのに、マティアス様は私を利用しようとまでしていた。
でも、ヴェイグ様はマティアス様と違って、私を蔑ろにすることはなかった。私を労って休ませてくれる。
聖女でありながらも闇に侵されている私に、何の躊躇なく触れてくれた。
マティアス殿下は、この黒髪を気持ちが悪いとまで言ったのに……。
それが闇のシード(魔法の核)を手に入れるためとは知らずに、私はヴェイグ様に惹かれていた。
身体が沈んでいく感覚を覚える。胸のざわつきが淀んで、黒く染まる。
「……近づかないで……誰にも、近づきたくない……」
「セレスティア?」
気がつけばロクサスの光の魔法までも飲み込みそうな勢いで、黒い霧が広がっていった。
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