光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

屋月 トム伽

文字の大きさ
上 下
37 / 55

闇のシード 2

しおりを挟む

ヴェイグ様とヘルムート陛下の会話に思考が止まっていた。

シュタルベルグ国は、カレディア国が闇のシード(魔法の核)を隠していたことを知っていたのだ。

そのうえ、私が関わっていることも……じゃあ……ヴェイグ様が私を連れ出してくれたのは、カレディア国のどこにあるかわからない闇のシード(魔法の核)を手に入れるためで……。

「だが、セレスティアは、今は俺の手の中にある。セレスティアと引き換えにカレディア国が闇のシード(魔法の核)を出すと、俺は確信しています」
「では、早々に取り引きを持ち掛けるか……ちょうどいいところに、聖騎士ロクサス殿が来ているからな……彼の地位なら、聖女機関も無視できないだろう」

ヴェイグ様が私と逃げたのは、私のためではなかった。自惚れていたわけではない。
突然の告白に、戸惑いもした。でも、それが私を連れ出すための甘い誘い文句だったら……。

胸が刺されたように痛い。重くて息が止まりそうなほど重く感じる。ギュッと胸を押さえても、何も変わらなくて……。

違う。そうじゃない。

早くここから逃げないと、私はカレディア国に闇のシード(魔法の核)と引き換えに差し出されてしまう。

「それにしても、よく見つけられたな……」
「闇の気配をたどっていたら、偶然にもセレスティアに行きついたんですよ」

私が、闇に侵されていたから、ヴェイグ様が気付いたのだ。天井を通っていたのは、微かな闇の気配をたどっていたということで……その時に私が探索のシードを自分に埋め込もうとして、偶然にもヴェイグ様に向かって飛んで行ったのだ。

確かに、ヴェイグ様は驚いただろう。私も天井から男が落ちてきて驚いた。
ヴェイグ様が落ちてきた理由を言わなかったのも、わかってしまった。

「兄上」

突然、ヴェイグ様が強い声音でヘルムート陛下の言葉を止めた。ヴェイグ様の制止にハッとしてしまう。


しまった……ヴェイグ様は、探索のシードを持っているのだ。ここに私が隠れていることがバレてしまう。そう思うと、背筋がひやりとした。

「王妃……」
「相変わらず鋭いこと……」

すると、私が隠れている場所と違うところから、王妃様がやって来ていた。
ヴェイグ様は、王妃をじろりと睨んでいる。

「何の用ですか?」
「リリノアのことですよ。わかっているでしょう?」

王妃様が現れてくれたから、私が隠れていることはバレることはなかった。でも、これ以上ここにはいられない。

そして、ヴェイグ様たちに気付かれずに私はその場を逃げるように離れた。

以前から、聖女機関の地下に封印されている闇のシード(魔法の核)の封印が弱くなっていた。光の国と呼ばれるカレディア国では、あれは毒だった。

その証拠のように、光のシード(魔法の核)が弱くなっていた。

だから、聖女の能力も弱くなっているとイゼル様が言っていた。そのせいで、大聖女候補だった私が、大聖女になる前に呼ばれてあの闇のシード(魔法の核)の存在を知り、闇が溢れないように魔法をかけた。

あれの存在を知って封印を強めるのは、大聖女か筆頭聖騎士のどちらかなのだ。それ以外には秘密だった。知っているのは、他には陛下だけ。マティアス様はまだ王太子殿下であったから、知らなかったのだ。

そして、闇に触れたせいで私は闇に穢された。それから黒髪が出現し、いつも怯えていた。

闇は負の感情を増幅させて、かき乱す。

マティアス様と別れたいと願っていたことに隙があったのだろう。

誰とも懇意になることもなく、嘲笑や妬みが今まで以上に敏感になっていた。
でも、誰にも言えないままで、自分を一人で抑えていた。
あの存在が知られるわけにはいかなかったのだ。






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

処理中です...