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落ち着かない聖女機関と王太子殿下
しおりを挟む父上に𠮟られて、イゼルは怒りを露にしているままだった。
……聖女機関のイゼルの執務室。セレスティアを見つけたのかと思い、報告を聞きに来ていた。
「……マティアス殿下……いったい何を考えているのですか……シュタルベルグ国の王弟殿下にセレスティアを渡すなど……」
セレスティアと婚約破棄をしてから何度もイゼルがそう言う。
「確かに、あの王弟殿下ヴェイグは女好きと有名だ。幾人もの女性と付き合っているという噂も聞いたことがある。確かに、身分だけあるような男は好ましい縁談ではないかもしれんが、セレスティアが勝手について行ったのだ」
「そういうことではありません!! 他国の王族にセレスティアを渡すのが問題なのです!!」
「セレスティアは、王弟殿下ヴェイグと不貞をしていたんだぞ!」
「そうかもしれませんが、あの部屋は何です!? なぜ、天井が破壊されているのです!! 違和感はないのですか!?」
「天井が崩れようが、そんなことは問題ではない」
「問題ですよ。普通は崩れません!!」
イゼルが呆れて言う。でも、あの時に目に入ったのは、セレスティアの上にヴェイグが乗り、抱き合っている二人だった。しかも、あんなに顔を近づけて……どう見ても、不埒な真似をしている現場だったのだ。
「セレスティアとあの男が不埒な真似をしていたのだ。その証拠に、シュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグと駆け落ちのようにいなくなってしまったではないか!」
「……とにかく、セレスティアを連れ戻したら、何とか婚約を戻してください……せめて、聖女の解任は撤回します」
「……セレスティアは、何を考えているのか、わからないんだよ」
「それでも、いつか通じ合えるものもあるはずです。あなたがセレスティアと一番長く一緒にいたのですよ。今はわからないこともありましょうが……陛下になれば、わかることもあるのです」
そう言われても、セレスティアと一度も心が通じたと思ったことなどない。どんな態度を見せても、セレスティアはいつも感情の読めない表情だったのだ。
それなのに、あのシュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグには、あんなに顔を赤らめていた。
一度も見たことのないセレスティアの表情を思い出せば、奥歯がギリッと軋む。
その時に、イゼルの部下の聖騎士が慌ててやって来た。少し落ち着いて欲しい。セレスティアが王弟殿下ヴェイグといなくなって、こちらは全く落ち着けないのだ。
「イゼル様!! セレスティア様は、王都にも近隣の街にもいません! フェルビアの砦へと向かう街に寄りながら追っていますが……」
その報告にイゼルは、青ざめて倒れそうになる。
たった一晩二晩やそこらで、どこまで行っているんだ!!
何を考えているんだセレスティアも、王弟殿下ヴェイグも!?
「フェ、フェルビアの砦の近くにいる聖騎士に急いで連絡をするのだ! 近くにいるのは誰だ!!」
「ロ、ロクサス様です! 先日からフェルビアの砦の近くの街アルディラに行っていると、お聞きしました」
「なら、ロクサスにセレスティアを連れ戻すように連絡しなさい!! 緊急用の連絡を使うのだ!!」
「は、はい!!」
イゼルの指示に、聖騎士はまた慌ただしくしていた。
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