12 / 55
人の話を聞いてくれ!!
しおりを挟む寝殿造りのような城ほどもある建物の聖女機関。在籍している聖女や聖騎士団の本部でもあるこの場所は王城と続いている。
聖女機関のイゼルの執務室。セレスティアを連れ戻したのかと思いきや、イゼルは憤慨しているままだった。焦っているようにも見える。
「セレスティアがいない!?」
「すでに出立してしまってました! シュタルベルグ国に開放している離宮に残っているのは荷物運びなどの後発部隊だけです!!」
「いったいどこに……」
「シュタルベルグ国ですよ!! 早く連れ戻さないと、手が出せなくなります!!」
まるで駆け落ちのように、あっという間にいなくなってしまったセレスティアと王弟殿下ヴェイグ。
婚約者と言う理由で幼い頃からセレスティアを城で迎えていたが……行く場所などなかったはずだった。
だから、婚約破棄をすれば縋ってくると思っていた。でも、腹立たしいほど憎まれ口しか叩かないセレスティア。……どうして、いつも思い通りにならないのか。
しかも、突然現れたシュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグが連れて行ってしまった。
聖女機関にも姿をあらわさないままで。
セレスティアの黒髪が出現したあたりから、聖女たちはセレスティアを不気味がっていた。
当然だ。光のシードに選ばれるのは、光の聖女なのだから。それが、黒髪が出現した聖女など聞いたこともない。黒髪が薄く金色になる聖女がいたことすらあると言うものなのに……。あの黒髪だけは、誰も説明ができない。
セレスティアでさえ理由はわからないと言い、話しすら続かなかった。
それなのに、イゼルはセレスティアのことで私を責め立てている。
「どうして、すぐに連れ戻さなかったのです!」
「そんなことをすれば、私がセレスティアを迎えに行くみたいではないか!」
「当然です!! いったい何をやっておられるのです……!!」
いつセレスティアと王弟殿下ヴェイグの二人が出会ったのか。セレスティアが部屋で魔法の練習をしていたなど、信じられない。
セレスティアは、そんな練習をするような聖女ではなかった。
能力も高かった。でも、それがいつしか黒髪が出現した。
「光の祝祭も近いのに……」
「それなら、私はエリーゼを推薦しよう。光の祝祭はエリーゼで進めるんだ」
「何故、エリーゼなのです。エリーゼは、セレスティアのような能力はありません」
「そんなことはない」
エリーゼのおかげで、今まで誰にも気づかれずに逢引きができたんだ。セレスティアほどの能力の高さはなくてもエリーゼもそれなりに高いはず。大丈夫だ。
それなのに……。
「すぐに早馬を出すんだ!! シュタルベルグ国の飛竜が滞在しているフェルビアの砦へ向かわせるんだ!! 飛竜が飛び立つ前には、何とかセレスティアに追いつくんだ!!」
「人の話を聞いてくれ!!」
イゼルは、王太子殿下である私の話など聞いておらずに、セレスティアを連れ戻す指示を騎士たちへと出していた。
◇
「まぁ、ヴェイグ様。この焼き立てパイは、なかなか美味しいですわ。街にはこんなものがあるんですね」
「俺にもひと口」
「顔を近づけないで下さい」
馬をゆっくりと走らせながら、ヴェイグ様が買ってくれたパイを齧っていると背後に密着しているヴェイグ様の顔が近づいてきて、恥ずかしくなる。
「……ひ、ひと口ですよ。ひと口!」
上ずった声で返事をして、ヴェイグ様にパイを近づけると、パクリとパイを囓られた。
「……甘い」
「……そ、そうですか」
甘い仕草に照れてしまう。
ヴェイグ様の筋肉質な腕の中で、照れるのを隠すようにツンとした。
2
お気に入りに追加
851
あなたにおすすめの小説
竜槍陛下は魔眼令嬢を溺愛して離さない
屋月 トム伽
恋愛
アルドウィン国の『魔眼』という遺物持ちの家系のミュリエル・バロウは、同じ遺物持ちの家系である王太子殿下ルイス様と密かに恋人だった。でも、遺物持ち同士は結ばれない。
そんなある日、二人の関係が周りにバレて別れることになったミュリエル。『魔眼』を宿して産まれたミュリエルは、家族から疎まれて虐げられていた。それが、ルイス様との恋人関係がバレてさらに酷くなっていた。
そして、隣国グリューネワルト王国の王太子殿下ゲオルグ様の後宮に身を隠すようにルイス様に提案された。
事情をしったゲオルグ様は、誰もいない後宮にミュリエルを受け入れてくれるが、彼はすぐに戦へと行ってしまう。
後宮では、何不自由なく、誰にも虐げられない生活をミュリエルは初めて味わった。
それから二年後。
ゲオルグ様が陛下となり、戦から帰還してくれば、彼は一番にミュリエルの元へと来て「君を好きになる」とわけのわからないことを言い始めた竜槍陛下。
そして、別れようと黒いウェディングドレスで決別の合図をすれば、竜槍陛下の溺愛が始まり…!?
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。
愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される
守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」
貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。
そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。
厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。
これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる