光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

屋月 トム伽

文字の大きさ
上 下
11 / 55

続逃亡中

しおりを挟む
アルディラの街にやっと到着すると、馬を休ませて街をヴェイグ様と歩いていた。

黒髪が一部分だけある私は、目立つ存在である可能性が高く、マントのフードを目深に被っていた。

「時間がなくて、すまないな」
「私の方こそすみません。こんな逃亡をさせてしまって……」

すでに日は落ちているものの、街は街灯の灯りもあり、それなりに明るい。夜にも、食事や劇場もあるために、石畳の風景のなかうを馬車も通り過ぎていた。

貴族たちもいるせいか、街には騎士団もあり、見回りのために騎士たちを見かける。
その姿をみると、そっとフードをまた目深に寄せた。

「騎士団にも、見つからない方がいいな……」
「そう思います……私の容姿は、その……騎士団でも有名だったと思います」

馬車よりも、早馬でかけた方がずっと早い。もしかしたら、私がいなくなったことにすぐに気付いて騎士たちを追っ手を差し向けている可能性も低くない。

秘密を知っている私を、陛下とイゼル様が見逃してくれるとは思えない。
むしろ、マティアス殿下の側妃に、召し上げられそうだ。そうなれば、正妃とは違う自由が奪われてしまう。

天井から落ちてきた王弟殿下ヴェイグ様との不貞を疑われたばっかりに……。
せめて、私から婚約破棄をしたかった。

嘲笑と侮蔑。特に、黒髪が現れてから、そんな一年を過ごしてきた。
でも、大聖女候補であることは止められなかった。
マティアス殿下の婚約者であることもだ。

その時に、見回りをしている騎士二人がこちらに近づいてきた。
それを察したヴェイグ様が、私をマントの中に入れるように隠して、建物と建物の間に押しやった。

「……セレスティア。声を出すなよ」
「は、はい……」

消えそうな声音で返事をした。それよりも、密着具合に動悸がする。

「……そこの二人。何をしている?」

声をかけられて、ヴェイグ様が鋭い瞳で見据えると、騎士二人は一歩後ろに下がってしまう。

「……邪魔しないでくれないか? やっと口説き落としたところなんだ」

口説かれてません。口説かれてないけど……私の顔が見えないようにしっかりと腕の中に入れられて、益々動悸がする。今の赤面している顔を見られたら、恥ずかしすぎる。

「……マントで隠しているのは、見られたら困るからじゃないか? 関わらない方がいい。もし、身分の高い方だったら……」

どうやら、マントで顔を隠して歩いていた私とヴェイグ様が、怪しかったらしい。
確かに、貴族たちも行きかいするような場所で、マントを被り誰かわからないように隠していたら怪しいだろう。でも、ヴェイグ様の鋭い視線と発言に、騎士二人は貴族の不倫ぐらいと勘違いしてしまっている。

この騎士二人に怯まない堂々とした態度のせいかもしれない。

そう思っていると、ヴェイグ様の顔がフードの中の私の顔に近づいてきた。そっと頬に口付けをされる。ああ、これで、逢引き決定だ。

「行こう。女性は見ない方がいい」
「そうだな……巻き込まれない方が……」

そう言って、見回りの騎士二人は去っていった。

見られたら不味い身分だと華麗に勘違いしてくれたおかげで、私の素性を知られることはなかったけど、それよりもヴェイグ様の仕草に挙動不審になってしまう。

「……もしかして、初めてだったのか?」
「き、気のせいです!!」
「王太子殿下は、ずいぶんと奥手なのだな」

ククッと、喉を鳴らしながらヴェイグ様が言い、恥ずかしいままの私はツンと顔をフードに隠した。
奥手なのは、私たちがきっと上手くいってなかったからです。エリーゼとは、城の奥に行ってました。きっとあの奥では、あれやこれやと、いたしていたと私は思ってます。

口付けをされた頬を押さえて、顔を背けた。この自信ありげなヴェイグ様を直視できない。

「……セレスティアは、カレディア国が君を探していることに、違和感がないのだな」
「……婚約破棄をされましたから……マティアス殿下はしつこいですよね」
「それだけか?」
「……他に理由がありますか?」

カレディア国の秘密は言えない。私と聖女機関の責任者イゼル様と陛下しか知らないこともあるのだ。
マティアス殿下は、知らなかったはず。だから、あんなに簡単に浮気をして、私を手放したのだ。

「カレディア国に来た時よりも、騎士たちが多い……ドレスを買う時間はなさそうだ。すぐに街を出よう」
「は、はい」

緊張冷めやらぬままで、ヴェイグ様が私の肩を抱き寄せる。一向に離してくれない。破れたドレスのままで、私とヴェイグ様はアルディラの街を出ることになった。










しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【短編】捨て駒聖女は裏切りの果て、最愛を知る

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「君には北の国境にある最前線に行ってもらう。君は後方支援が希望だったから、ちょうど良いと思ってな。婚約も生活聖女としての称号も暫定的に残すとしよう。私に少しでも感謝して、婚約者として最後の役目をしっかり果たしてくれ」と婚約者のオーギュスト様から捨て駒扱いされて北の領地に。そこで出会った王弟殿下のダニエルに取り入り、聖女ベルナデットの有能さを発揮して「聖女ベルナデット殺害計画」を語る。聖女だった頃の自分を捨てて本来の姿に戻ったブランシュだったが、ある失態をおかし、北の領地に留まることはできずにいた。それを王弟殿下ダニエルが引き止めるが──。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

義姉でも妻になれますか? 第一王子の婚約者として育てられたのに、候補から外されました

甘い秋空
恋愛
第一王子の婚約者として育てられ、同級生の第二王子のお義姉様だったのに、候補から外されました! え? 私、今度は第二王子の義妹ちゃんになったのですか! ひと風呂浴びてスッキリしたら…… (全4巻で完結します。サービスショットがあるため、R15にさせていただきました。)

いつの間にか結婚したことになってる

真木
恋愛
撫子はあの世行きの列車の中、それはもう麗しい御仁から脅迫めいた求婚を受けて断った。つもりだった。でもなんでか結婚したことになってる。あの世にある高級ホテルの「オーナーの奥方様」。待て、私は結婚していないぞ!というよりそもそも死んでない!そんなあきらめの悪いガッツある女子高生と彼女をまんまと手に入れた曲者オーナーのあの世ライフ。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...