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焦る聖女機関と陛下
しおりを挟むやっと、エリーゼと婚約出来る。
そう思っていたはずなのに……胸のモヤモヤが晴れない。
「エリーゼ。光の祝祭で使う光のシード(魔法の核)の作製は、セレスティアから君が引き継ぐんだ。イゼルには、私から話そう」
「はい。すぐに完成させていただきますわ」
光の祝祭には、聖女が造った光のシード(魔法の核)に聖女が光を灯し、それを聖騎士が割る、という役目がある。
代々、カレディア国に伝わる聖獣様の光のシード(魔法の核)を模したものを聖女が造りあげるのだ。
そして、それを聖騎士が聖力を使い割ったものを光の祝祭で配ることになっている。
「では、そろそろ父上のところに行ってくる。エリーゼは、いつものようにバレないように帰ってくれ」
「はい。婚約するまでですね……早く、婚約したいですわ」
憂いを残してエリーゼが、いつものように誰にも見つからずに去っていく。
いつもと同じこと。違うのは、セレスティアと婚約破棄をしたことだった。
いつも表情一つ崩さないセレスティアが、男と逢引きしていたことに至極腹立たしかった。
私とは、義務的に腕を組むぐらいだったのに……。
父上である陛下の執務室に行くと、なぜかそこには聖女機関の責任者である聖騎士のイゼルまでもがいた。
初老のイゼルは、白い髭に白い眉毛を寄せて、怪訝な表情で私を見た。それよりも、陛下は機嫌が悪い。
「……マティアス。セレスティアと婚約破棄をしたと、報告を受けたが……」
「ええ。セレスティアは、私がいながら男と絡み合っていました。ですから、婚約破棄を致しました」
「馬鹿者! 聖女まで勝手に解任しおって!! そのセレスティアは、どこにいる!? 昨日から、誰も姿を見てないのだ!!」
ドンッと机を叩き、怒りを露にする陛下に、少し驚いた。
「セレスティアがいない?」
「イゼルが聖女解任の撤回を言い渡しに部屋に行ったが、破壊した部屋には、戻ってないと、見張りの騎士たちが言っておった!!」
こんな時に、いったいどこに……セレスティアは、王都に邸はなかったはず。城に住んでいたし、友人さえいなかった。いつも一人のセレスティアは、エリーゼと違い可愛げなどなく、近寄りがたい雰囲気で……それが、あの黒髪が現れてからは、誰もが不気味がっていた。
……そんなセレスティアと、シュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグはどこで知り合ったのだろうか。
「……まさか、シュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグ様のところに行っているのでは……」
私の部屋になど、まったく来ないクセに、あの男の所には、すぐに行くとは……あの男は、女好きと有名だぞ!!
なんて奴だ。
「なぜ、セレスティアがシュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグ殿のところに行くのだ?」
「婚約したと、わけのわからないことを言っていまして……」
「ば、馬鹿者――!! 何をやっておるのだ!!」
「まったくです。セレスティアが、あのような女だったとは……」
「そうではない!!」
陛下が顔を真っ赤にして怒っている。
「マティアス殿下! セレスティアは大聖女候補ですぞ!! 他国に嫁がせるなどっ……!!」
イゼルまでもが、私に怒りを向けるが、不貞した女を王太子殿下が娶るのはどうだろうかと、思う。
「す、すぐにセレスティアと話をしなければっ……!!」
「イゼル……何をそんなに慌てているのだ? セレスティアは、聖女に相応しくないのだろう。あの黒髪を見ているだろう? 一部分とはいえ、聖女には、あってはならない髪色なのだ」
「マティアス……あれは、」
「陛下! ……おやめください」
陛下は、何か知っているような物言いだが、それをイゼルが止めた。
「……あれの理由を知っているのか? 父上もご存知で……?」
「……何も」
「そんな風には見えないぞ! いや、知っているなら、なぜ、隠すんだ!?」
イゼルも、父上も知っているなら、なぜ言わないのか。いや、二人が知っているから、セレスティアが聖女のままだったということなのか。
「マティアス……セレスティアのことはいずれ話そう。我々しか知らぬこともあるのだ」
「しかし……っ」
「とにかく、今はセレスティアです! 離宮にいるのでしたら、すぐにシュタルベルグ国に開放している離宮に行きます! シュタルベルグ国に連れていかれる前に、連れ戻さなくては……!!」
「……無理だ」
焦るイゼルに、陛下がポツリと言う。
「昨日、シュタルベルグ国に帰還するとヴェイグ殿が挨拶に来た」
「な、なんてことをっ……し、しかし、まだ帰還してない可能性も……離宮には、人がいたはずです! とにかく、行ってまいります!! 急いで、連れ戻さなければ!!!!」
イゼルは、慌てて陛下の執務室を飛び出していった。
「父上……イゼルは、セレスティアが聖女だと思っているのですか?」
「当たり前だ! セレスティアは、どう見たって聖女だ!! しかも、彼女の能力は誰よりも高いのだ!!」
「しかし、それならあの黒髪を放置していたのは、いったい……知っていたなら、なぜ、噂を止めなかったのです? 私の婚約者ですよ?」
「その婚約者であったセレスティアと勝手に別れるなど……何を考えているんだ」
呆れと怒り。陛下は頭を抱えるが、セレスティアの噂は、特に聖女たちに蔓延していた。
誰もが、聖獣様の光のシード(魔法の核)に選ばれた聖女であるのに、ただ一人だけ黒髪が現れたセレスティアが異質なもののように思えていたのだ。
それは、自分もそうだった。光り輝くような髪色と正反対なのだからと。
「……陛下になれば、代々受け継がれる秘密があるのだ。知らなかったとはいえ、セレスティアを他国の王族に渡すなど……」
陛下が困り果て、苦悶でそう呟いた。
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