光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

屋月 トム伽

文字の大きさ
上 下
6 / 55

王弟殿下の婚約者に

しおりを挟む
突然やって来たヴェイグ様に、後ろから抱き寄せられて身体が彼に寄りかかってしまう。腕の中から見上げるとにこりとされた。

「ヴェイグ様……どうしてここに……」

何も言わずに黒い笑顔で返されると、言いたくないのだと察する。きっと探索のシードを使ったのだ。
だから、私がここにいることがわかって、しかもマティアス様との会話を探索のシードを使って盗み聞きしていた気がする。

どこまで順応しているのか……ちょっと悔しい。本当なら私が使うはずだったのに。

ヴェイグ様が突然現れたせいで、邪魔をされたと思ったマティアス様が怒ったように顔を真っ赤にしている。

「……失礼だが、シュタルベルグ国の王弟殿下には、関係のない話だ。下がっていてもらおうか」
「関係ないねぇ……そうなのか? セレスティア。それに婚約者と言ったのだが、聞こえてなかったのか?」
「けっこう自分勝手な方ですから……」
「そのようだな。困った王太子殿下だ」
「……っ。失礼だ! 私は、カレディア国の王太子殿下だ。それに、婚約者だと聞こえている! 彼女は私の婚約者だったのだ。勝手に婚約を結ぶなど、出来なかったはずだ!」
「でも、その婚約者であったセレスティアを、王太子殿下、あなたが破棄をしたのだ。ですから、俺が求婚したのです。別れた元婚約者に、何の未練がありましょうか? ぜひ聞きたいものだ」

余裕のあるヴェイグ様と違い、マティアス様は思い通りにならなくて憤っているけど、あっという間に婚約破棄をしたのは、あなたです。不貞を疑われて、一時間も経たないうちに婚約破棄をされたのです。しっかりとサインしたのですよ。

「やはり不貞をしていたのだな……慰謝料を釣り上げる」
「それもおかしな話だ。俺がこの国に来たのは、今日の午前だ。その数時間後にセレスティアと出会ったのですよ。不貞をする暇などありませんね」
「なら、なぜ二人でセレスティアの部屋にいた!! 王弟殿下。私の婚約者に手を出すとは、国際問題ですよ!!」

カレディア国に来て、数時間後には人の天井にいないで欲しい。心底思う。

「問題なのは、この城の造りだ。魔法の練習をしていたセレスティアの魔法がたまたま部屋で暴発したのですよ。それほどこの城の造りが甘い、ということです。それか、セレスティアの魔法が聖女らしく強力だったか……。たまたま城の散策をしていた俺は、急な音に驚いて、何事かと飛び込みセレスティアが瓦礫に押しつぶされそうだったので咄嗟に庇っただけです」
「そんな偶然があるものか!!」

大正解です。そんな偶然はない。何度も思うけど、それよりも、あり得ない偶然は天井から王弟殿下が私の上に落ちてきたことです。

「別にどちらでも構いませんがね。疑われようが、俺からすれば些末なことです。そのおかげで、セレスティアと出会えましたから……」

そう言いながら、大事なものを抱きしめるようにヴェイグ様の腕に力が入る。そろそろ離して欲しいけど、今はこのままの方がいいのだろう。でも、恥ずかしいのです。

「婚約破棄を王太子殿下が叫んでいたので、セレスティアを他の男に取られないように、すぐに求婚しました。ちなみに、俺の求婚の許可はカレディア国の王太子殿下には関係のないことだが……そう思わないか。セレスティア」
「そ、そうですね。ヴェイグ様」

ヴェイグ様の顔が近くによって言われると、さらに緊張して声が上ずってしまう。

「では、行こうか。セレスティア」
「はい。ヴェイグ様」
「では、失礼する。王太子殿下」

そう言って、マティアス殿下を置いて、颯爽とヴェイグ様が私の腰に手を回して去っていった。










しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【短編】捨て駒聖女は裏切りの果て、最愛を知る

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「君には北の国境にある最前線に行ってもらう。君は後方支援が希望だったから、ちょうど良いと思ってな。婚約も生活聖女としての称号も暫定的に残すとしよう。私に少しでも感謝して、婚約者として最後の役目をしっかり果たしてくれ」と婚約者のオーギュスト様から捨て駒扱いされて北の領地に。そこで出会った王弟殿下のダニエルに取り入り、聖女ベルナデットの有能さを発揮して「聖女ベルナデット殺害計画」を語る。聖女だった頃の自分を捨てて本来の姿に戻ったブランシュだったが、ある失態をおかし、北の領地に留まることはできずにいた。それを王弟殿下ダニエルが引き止めるが──。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

義姉でも妻になれますか? 第一王子の婚約者として育てられたのに、候補から外されました

甘い秋空
恋愛
第一王子の婚約者として育てられ、同級生の第二王子のお義姉様だったのに、候補から外されました! え? 私、今度は第二王子の義妹ちゃんになったのですか! ひと風呂浴びてスッキリしたら…… (全4巻で完結します。サービスショットがあるため、R15にさせていただきました。)

いつの間にか結婚したことになってる

真木
恋愛
撫子はあの世行きの列車の中、それはもう麗しい御仁から脅迫めいた求婚を受けて断った。つもりだった。でもなんでか結婚したことになってる。あの世にある高級ホテルの「オーナーの奥方様」。待て、私は結婚していないぞ!というよりそもそも死んでない!そんなあきらめの悪いガッツある女子高生と彼女をまんまと手に入れた曲者オーナーのあの世ライフ。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...