光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

屋月 トム伽

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図が高いですわ

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紙の書類を簡単に突き破り、机にペンが突き立つと、マティアス殿下がびくりと肩を揺らした。

「では、失礼しますわ。王太子殿下」

そう言って、踵を返して執務室を出ると「話は終わってない」と怒ったマティアス殿下が追いかけてくる。

「セレスティア! 待て! 君はしばらく謹慎だ!」
「お断りです。謹慎の理由がありませんわ」
「理由はある! 王太子殿下の婚約者でありながら、不埒な真似をしたんだぞ。それに聖女の資質も考えものだ」
「だったら、すぐに聖女を解雇なさればよろしいのです」
「その髪色を何とも思わないのか!? 聖女は光のシード(魔法の核)が選ぶ聖なる存在だぞ。それなのに、君の髪色は1年も前から、黒髪が現れているじゃないか!」

聖女になれば、力が強いほど髪色が光が交わる様に明るくなる。ウィンターベル伯爵家の青色だった私も、瞬く間にクリスタルブルーのような薄い色味になっていった。

それが、今ではメッシュを入れたように一部分が黒い。マティアス殿下は、聖女らしくなくなっていく私が嫌いなのだ。

「セレスティア!」
「……っつ!!」

思いっきり腕を掴まれて痛みが走る。天井から落ちてきた男のせいで瓦礫で腕を痛めていた。腕どころか、少しだけ怪我もしている。そんなことをおかまいなしに、マティアス殿下が無理やりに腕を掴んだ。

「謹慎が不服なのか? それなら、罰は別のものにしてやってもいい」
「何もかもお断りです」
「まだ、話してない! それに、不埒な噂はすぐに広まるぞ。このままだと、本当に聖女では無くなる。それが嫌なら、私に仕えろ!」
「婚約破棄をした聖女を仕えさせてどうするのです。私を側妃にするつもりですか?」
「望みならそうしてやってもいい。妃を補助する役目を与えてもいいと思っている」

マティアス殿下の浮気相手は間違いなくエリーゼだろう。彼女は私よりも下だった。
その彼女の代わりをさせるために、私をエリーゼの影にしようとしている。
それに至極腹が立ってしまう。

「王太子殿下」
「なんだ。わかってくれたか?」
「図が高いですわ」
「誰に向かって言っている!!」

苛ついたままで、つい言ってしまう。

「王太子殿下にですわ。私に触れないでください。私は、今しがた婚約破棄をしたのです。あのサインをした時点で私と王太子殿下は他人なのですよ」

冷ややかに怒りを抑えて言うと、マティアス殿下がカッと顔を赤くして、彼の手が振り上げられた。

「このっ……」

ああ、ひっぱたかれる。これを理由に慰謝料の減額を訴えてやろう。
そう思って、そっと瞼を閉じた。

それなのに、ひっぱたかれると思った手のひらは私にこなかった。

「……王太子殿下ともあろう者が、女性に手を上げるとは少々考えものだな」

そっと瞼を開けば、誰かがマティアス殿下の手を私から引き離して、私を庇うようにマントを広げた。

「王太子殿下。先ほどは失礼した。だが、これはどういうことですか?」
「貴殿は……」
「そこの女性も、覗きとは少々品位を疑うが?」

私を庇ったのは、あの天井から落ちてきた男だ。
艶のある黒髪に切れ長の黒い瞳。少しだけ緋色にも見える。すらりとした高身長に、大きなマントで私をマティアス殿下から庇ってくれたこの男が、廊下の柱に鋭い視線を向けた。

柱の陰からは、エリーゼが気まずそうに現れた。

「わ、私はマティアス様に呼ばれて……」

決して覗きではないと言い訳じみたように言うが、目線はマティアス殿下に助けを求めている。そして、頬を染めてこの天井から落ちてきた男をちらりと見た。
真っ黒な髪色に、顔は驚くほど整っている。

「そ、そうだ。エリーゼは私が呼んだのだっ!」
「なぜです。私の婚約破棄に必要ですか?」

さぁ、浮気していたと認めろ、と思うが決して彼らは言わないとわかっている。

「セレスティア。君の聖女の資質を確認するためだ」

上手くごまかしましたわね。聖女なら、光のシードのおかげで光魔法が使えるかどうかわかる聖女もいる。浮気の現場を押さえられなかったのは、もしかしたら、感知能力がエリーゼには備わっているのかもしれない。
冷たくエリーゼを見据えると、弱々しい姿のエリーゼがマティアス殿下の背後に隠れた。

「……彼女は聖女でしたか……ですが、こちらのクリスタルブルーの聖女は、先ほどの出来事で怪我をされている。少し時間を空けるべきでは?」

怪我をしたのは、あなたのせいです。
あなたが、なぜか天井から落ちてきたから、私はその下敷きになったのですよ!

「それとも、シュタルベルグ国の王弟殿下の俺には、怪我をした女性を手当てすることも、この国では許されないと?」
「シュタルベルグ?」

あの竜の国と言われている大国シュタルベルグ?
その王弟殿下が、なぜ天井から落ちてくる!?

突然の情報に目が丸くなる。マティアス殿下は、王弟殿下の鋭い視線に負けているのか、たじろいでいた。





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