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もふもふ誘拐罪で軟禁中!!
しおりを挟むそれにしても……大きな狼に見えたのだけど、小さいわね。
夢でも見たのだろうか。
いつの間にか夜になっており、ランプの灯りが燈された薄暗い部屋でベッドに腰かけていた。
このルティナス国は、聖獣のいる国。王族は聖獣の加護を受けると言われている。
この国の陛下になるには、聖獣と聖女を従えることになるのだ。
だから、ヴォルフラム殿下のそばに聖獣がいるのだろうけど……婚約者でありながらヴォルフラム殿下の聖獣は初めて見た。
聖獣は王族が管理しており、そうそう誰もお目通りできないのだ。聖女であってもだ。
聖女が聖獣様に会えるのは、王太子になることが決まった時だけだった。
「それにしても……聖獣様は子供みたいね」
「聖獣フェンリルは、まだ子供だ」
フェンリルは氷狼だった。だから白い狼なのだろうけど……ヴォルフラム殿下は、どうしてここにいるんですかね!?
「聖獣様に話しかけたんです。勝手に会話に入り込んでこないでください」
最近はお茶をすることもなかったし、ヴォルフラム殿下は私とずっと会ってなかった。
彼は、ずっとルチアといたのだ。
その殿下が、冷たい瞳で私を睨んでいる。
ああ、いつもの表情だ。あんな視線を向けられて私が傷つかないとでも思っている。
「……ここは、俺の離宮だ。どこで話そうと俺の勝手だ」
「そうですか……ヴォルフラム殿下は、お仕事には行かれないのですか?」
「言われなくても仕事はする」
ツンとしたヴォルフラム殿下に、ああ、また余計なことを言ってしまったと落ち込む。
座ったままで膝に乗せている聖獣様は可愛くて、首を傾げて私を見ている。その心配しているような聖獣の仕草に、心配かけまいとキュッと潤みそうになった目尻を拭いた。
ヴォルフラム殿下に視線を移すと、目を合わせたくないのか反らされてしまう。
「あの……」
「なんだ?」
「聖獣様が気になるのですか?」
「当然だ。聖獣を従えられなければ、この国を継げない。だから、聖女である君が俺の婚約者になったのだ」
それはわかっている。だから、癒しの魔法を得意とする聖女の家系の私が産まれた時から、ヴォルフラム殿下の婚約者になっていた。
でも、私の聖女の力は不安定なもので、いつも癒しの魔法が使えるとは限らない。
でも、妹のルチアは違う。いつからか、癒しの魔法がいつも使え始めていたのだ。
自分が役立たずだったと、改めて落ちこんでしまい、ヴォルフラム殿下に背を向けてしまった。背後からは、怖い顔でヴォルフラム殿下が私を睨んでいる視線を感じて怖い。
「ヴォルフラム殿下。聖獣様が気になるのでしたら、ご自分でお抱きになりますか?」
ヴォルフラム殿下が、目を見開いて驚きを見せた。
「……いいのか?」
「? 当然です。聖獣様は、王族が従えるものですよ。聖女はその補佐につくのです。王族や聖獣様が怪我をした時や呪われた時に、すぐに対応できるようにと……」
「そうだったな……」
今さら何を言っているのか……そう思いながら立ち上がり、ヴォルフラム殿下に近づいた。
そっと聖獣様を差し出せば、おそるおそるヴォルフラム殿下が聖獣様に手を伸ばした。
その瞬間__。
「フーーッ!!」
聖獣様の毛が逆立ち、ヴォルフラム殿下に爪を立てた。突然のことに驚いた。まったくヴォルフラム殿下に懐いてない。彼の聖獣だったはずなのに……。
「だ、大丈夫ですか!?」
驚いたと同時に聖獣様は私の腕から飛び降りて、どこかへ行ってしまった。
ヴォルフラム殿下を見ると、立てられた爪痕から血を流しており、手を押さえている。
「ヴォルフラム殿下っ……血が……ずっと大人しかったのに、どうして……」
「……いいんだ」
「でも……」
これで、また罪が増えればどうしよう。そう思うが、ヴォルフラム殿下の怪我も気になり、彼の手を取った。癒しの魔法を使おうと傷に集中すると、淡いの光が夜の二人を包み込むように照らした。
「魔法が出た……良かった……すぐに治しますね」
良かったとホッとするのも束の間。ヴォルフラム殿下の指に集中すれば、ゆっくりと彼の傷が塞がっていく。それと同時に、ヴォルフラム殿下の眉間にシワが寄った。
「……セリア。どうして、聖女を止めたんだ?」
「……才能がないからです」
「癒しの魔法が使えるのにか?」
「いつもはこうはいきません。使えない時もあるのです。それよりも、聖獣様がすみません。決して私が仕掛けたわけではなくてですね……」
だから、睨まないでください。
「セリアのせいではないと、わかっている。ただ……」
ヴォルフラム殿下の指の傷が塞がる。手を触れる理由がなくなり離れようとすると、ヴォルフラム殿下が私の手を掴んだ。
「触らないでください。私は、もう婚約者ではないのですよ」
「誰がそう決めた。勝手は許さない」
「あなたには、ルチアがいますでしょう」
「……セリアは、いつもそうだな。いつも、俺と距離を置こうとしている」
「それは、ヴォルフラム殿下です」
私に笑ってくれたことなどない。確かに、彼は笑うことのない殿下として有名だった。冷酷無情。でも、私は幼い頃からのたった一人の婚約者なのに……。その私まで、みんなと同じなのだ。違うのは、きっとヴォルフラム殿下から近付いたルチアだけだ。
それでも、相応しい妃になろうと妃教育も聖女の勤めも頑張っていた。
それが、突然壊れた。
「ヴォルフラム殿下……どうして、ルチアと、」
「……っ離れろ。セリア」
「はぁ!? きゃっ……っ!」
ルチアのことを聞こうとして、俯いていた顔を上げようとすると、それよりも早くにヴォルフラム殿下が私と繋いでいた手を振り払い勢い良く突き飛ばされた。そして、あっという間に走り去ってしまった。おかげで、私は後ろに倒れてしまい、呆然と窓から見える満天の星空を見ていた。
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