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第三章 小話集
番外編(その後~エイミー視点)
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母と父は不摂生がたたりお祖父様よりも早くに他界した。
正直あまりショックではなかったと思う。
お父様のことよりも、もう戻らないレックス殿下との優雅な宮での生活のことばかり話すお母様が、歪なものに見えてとても嫌だったから。
そして、私が20歳になると大好きなお祖父様が老衰で他界してしまった。
お祖父様が他界したことの方が私にはショックで、寂しかった。
葬儀では参列者の方から驚くことを聞いた。
「娘さんに苦労されたようですが、孫娘に看取られ安心したのでしょうね…」
お祖父様がお母様に苦労したと言うのが何だか引っ掛かった。
お父様と浮気したことだけとはどうしても思えなかった。
どうしても知りたくて、昔からいる執事に一生懸命頼み込んで聞いた。
執事も以前なら言わなかっただろうが、執事も歳をとりお祖父様が他界して口が緩んだのだろう。
そして、聞いたことを後悔した。
「お母様がフィリス妃に嫌がらせを…?」
「直接したのはジゼル様の侍女ですが…ジゼル様が仕掛けたのは間違いありません…旦那様もジゼル様の浮気に加え、フィリス様にしたことに心を痛めていまして…」
執事はそう話すと、一粒の涙を落とした。
私はショックだった。
私が憧れているフィリス妃に、私が好きになれなかったお母様が嫌がらせをしていたことが。
そして、お母様がずっとフィリス妃を嫌っていたことがわかった。
「レックス殿下はジゼル様の浮気で婚約破棄なさいましたが、伯爵家を咎めることはありませんでした。夜会でも、決してジゼル様や伯爵家を攻撃することもなかったのでジゼル様が自分なりに人生をやり直していれば、エイミー様とも良い関係が築けたのですが…」
「だから、お祖父様はお母様ではなくて私に家督を譲ろうとしたのですね。財産も全て私に…」
でも、私にはお母様がレックス様を本当に慕っていたかわからなかった。
お母様が話すのは、宮での優雅な生活を恋い焦がれているように聞こえていたから…。
そして、葬儀の翌日に驚きの訪問者が現れた。
あのレックス殿下がきたのだ。
レックス殿下は、来たことを隠す必要はないが、急に来て騒ぎになってはいけないからと、側近のみ連れての訪問だった。
「アウル伯爵を静かに見送ってやりたいのだが…」
「お心遣い感謝致します。私もお祖父様を静か送りたいので、失礼とは存じますが、ぜひ来たことは内密にお願いいたします」
「そうしよう…ジゼルはどうした?」
「お母様はもう他界しております…」
「…先に行ったか…後で墓参りもさせてもらえるか?」
「…はい、お言葉に従います」
レックス殿下はお祖父様を見送り、言葉通りお母様の墓参りだけした。
お母様に好意があるとは思えなくて、どちらかと言えば義務のような感じに見えた。
何かの責任を感じているように見えたのだ。
墓参りが終わるとアウル伯爵邸に戻り、少しだけお話をした。
「伯爵家は君が支えるのか?」
「はい、お祖父様のようにはいきませんが、できる限りのことはします」
「夫はいないのか?」
「…貴族は両親を遠巻きにしていましたので、こんな伯爵家に婿は来ません」
「そうか…」
足を組み、迫力のあるレックス殿下に私は圧倒されそうだった。
それでもレックス殿下は、私を憐れむようにどこか優しかった。
「…お母様が、フィリス妃殿下にしたことを聞きました…今さらですが、私から謝罪致します。申し訳ありません」
お母様が私が憧れているフィリス妃にしたことが、嫌で堪らなかった。
そして、気がつけば涙を流しながら一生懸命頭を下げていた。
「君のせいではない。頭を上げなさい。もう昔のことだ。誰も責めたりはしない」
レックス殿下は責めることなく、優しく言ってくれた。
「…一人で伯爵家を支えるのは大変だろう…喪が終われば俺が良い結婚相手を探そう。君が両親のことで苦労する必要はない」
「…ですが…」
「親は親。君は君だ。君は何もしていない…それにフィリスなら、君を助けたいと思うだろう」
フィリス妃殿下なら…その言葉にどこまでフィリス妃殿下は優しいのだろうと思った。
私はフィリス妃殿下に嫌がらせをした女の娘なのに。
「私は、フィリス妃殿下に憧れています…ずっと憧れていました…」
「では、フィリスをこれからも見習いなさい」
「はいっ…」
そして、お祖父様の喪が明けるとレックス殿下は本当に私に結婚相手を探して来た。
執事に相談すると、レックス殿下のお気遣いを無下にしてはいけないと、言われて私は結婚の申し出を受けることにした。
結婚相手はレックス殿下のように、強そうな迫力はなかったが、穏やかで優しい方だった。
お父様とも違い、真面目でコツコツ仕事をするような方で、お祖父様ならきっと喜んだと思うくらいだった。
そして、私は伯爵家を支え生涯王家に忠誠を誓った。
正直あまりショックではなかったと思う。
お父様のことよりも、もう戻らないレックス殿下との優雅な宮での生活のことばかり話すお母様が、歪なものに見えてとても嫌だったから。
そして、私が20歳になると大好きなお祖父様が老衰で他界してしまった。
お祖父様が他界したことの方が私にはショックで、寂しかった。
葬儀では参列者の方から驚くことを聞いた。
「娘さんに苦労されたようですが、孫娘に看取られ安心したのでしょうね…」
お祖父様がお母様に苦労したと言うのが何だか引っ掛かった。
お父様と浮気したことだけとはどうしても思えなかった。
どうしても知りたくて、昔からいる執事に一生懸命頼み込んで聞いた。
執事も以前なら言わなかっただろうが、執事も歳をとりお祖父様が他界して口が緩んだのだろう。
そして、聞いたことを後悔した。
「お母様がフィリス妃に嫌がらせを…?」
「直接したのはジゼル様の侍女ですが…ジゼル様が仕掛けたのは間違いありません…旦那様もジゼル様の浮気に加え、フィリス様にしたことに心を痛めていまして…」
執事はそう話すと、一粒の涙を落とした。
私はショックだった。
私が憧れているフィリス妃に、私が好きになれなかったお母様が嫌がらせをしていたことが。
そして、お母様がずっとフィリス妃を嫌っていたことがわかった。
「レックス殿下はジゼル様の浮気で婚約破棄なさいましたが、伯爵家を咎めることはありませんでした。夜会でも、決してジゼル様や伯爵家を攻撃することもなかったのでジゼル様が自分なりに人生をやり直していれば、エイミー様とも良い関係が築けたのですが…」
「だから、お祖父様はお母様ではなくて私に家督を譲ろうとしたのですね。財産も全て私に…」
でも、私にはお母様がレックス様を本当に慕っていたかわからなかった。
お母様が話すのは、宮での優雅な生活を恋い焦がれているように聞こえていたから…。
そして、葬儀の翌日に驚きの訪問者が現れた。
あのレックス殿下がきたのだ。
レックス殿下は、来たことを隠す必要はないが、急に来て騒ぎになってはいけないからと、側近のみ連れての訪問だった。
「アウル伯爵を静かに見送ってやりたいのだが…」
「お心遣い感謝致します。私もお祖父様を静か送りたいので、失礼とは存じますが、ぜひ来たことは内密にお願いいたします」
「そうしよう…ジゼルはどうした?」
「お母様はもう他界しております…」
「…先に行ったか…後で墓参りもさせてもらえるか?」
「…はい、お言葉に従います」
レックス殿下はお祖父様を見送り、言葉通りお母様の墓参りだけした。
お母様に好意があるとは思えなくて、どちらかと言えば義務のような感じに見えた。
何かの責任を感じているように見えたのだ。
墓参りが終わるとアウル伯爵邸に戻り、少しだけお話をした。
「伯爵家は君が支えるのか?」
「はい、お祖父様のようにはいきませんが、できる限りのことはします」
「夫はいないのか?」
「…貴族は両親を遠巻きにしていましたので、こんな伯爵家に婿は来ません」
「そうか…」
足を組み、迫力のあるレックス殿下に私は圧倒されそうだった。
それでもレックス殿下は、私を憐れむようにどこか優しかった。
「…お母様が、フィリス妃殿下にしたことを聞きました…今さらですが、私から謝罪致します。申し訳ありません」
お母様が私が憧れているフィリス妃にしたことが、嫌で堪らなかった。
そして、気がつけば涙を流しながら一生懸命頭を下げていた。
「君のせいではない。頭を上げなさい。もう昔のことだ。誰も責めたりはしない」
レックス殿下は責めることなく、優しく言ってくれた。
「…一人で伯爵家を支えるのは大変だろう…喪が終われば俺が良い結婚相手を探そう。君が両親のことで苦労する必要はない」
「…ですが…」
「親は親。君は君だ。君は何もしていない…それにフィリスなら、君を助けたいと思うだろう」
フィリス妃殿下なら…その言葉にどこまでフィリス妃殿下は優しいのだろうと思った。
私はフィリス妃殿下に嫌がらせをした女の娘なのに。
「私は、フィリス妃殿下に憧れています…ずっと憧れていました…」
「では、フィリスをこれからも見習いなさい」
「はいっ…」
そして、お祖父様の喪が明けるとレックス殿下は本当に私に結婚相手を探して来た。
執事に相談すると、レックス殿下のお気遣いを無下にしてはいけないと、言われて私は結婚の申し出を受けることにした。
結婚相手はレックス殿下のように、強そうな迫力はなかったが、穏やかで優しい方だった。
お父様とも違い、真面目でコツコツ仕事をするような方で、お祖父様ならきっと喜んだと思うくらいだった。
そして、私は伯爵家を支え生涯王家に忠誠を誓った。
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