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第二章
結婚
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フィルベルド様と夫婦になって数日。
今日も、クレイグ様の幽閉されている塔にやってきたけど、彼は後宮の破壊に駆り出されているようだった。
彼は正式に王位継承者から外れた。
王族として、そして、『殿下』として不適切だと認められたのだ。
クレイグ様は、『殿下』でなくなった時も何も言わなかった。
案の定反対もせずに、「そう……」と呟いただけだったとフィルベルド様が言っていた。
そしていつものように、私はクレイグ様にお菓子を持って行っている。
後宮に着くと、フィルベルド様たちと共に、魔法で後宮を破壊しているクレイグ様がいた。
後宮は、ほとんど破壊されており、土台が少し残っているだけの瓦礫の山だった。
何か焼いたような黒いモヤが見えたけど、それは呪いの残骸のようなもので、フッと消えていったのが見えた。実際に何も焼いてない。
誰も気にしてないから、あれもきっと私だけに見えるのだろうと思う。
「フィルベルド様。お疲れ様です。差し入れですよ。クレイグ様にも持って来ました」
「嬉しいよ。……明日の支度は進んでいるか?」
「はい。順調です」
お菓子の入ったバスケットをすぐに受け取りながらフィルベルド様が優しくそう言う。
「明日は何かあるのかい?」
後宮破壊に疲れたようなクレイグ様が座り込んだままそう聞いて来た。
「はい。明日から、フィルベルド様とアクスウィス公爵邸に行くんですよ」
「明日から……?」
「はい。長期休暇で一か月もお休みになるんですよ」
「フィルベルド。まさか、それで私に後宮破壊をさせているのかい? 私は、フィルベルドたちと違って体力がないんだよ。そろそろ休ませてもらわないと……」
不貞腐れたように、クレイグ様がお菓子を取りながらそう言う。
後宮破壊が終わらないと、休みに入れないフィルベルド様は、クレイグ様に破壊工作を手伝ってもらうことで、休みを早く取ろうとしていた。
実際、目論見通りに予定よりも、後宮破壊は進んでいる。
「どうせ暇なんですからいいじゃないですか……それと、アクスウィス公爵領にはついてこないでくださいよ」
「塔から出られないんだけどね……」
フィルベルド様が、怪訝な顔でそう言う。
フィルベルド様は、クレイグ様が私の近くにいることを嫌っている。同じ男性でも、イクセルのことは、私の大事な友人という認識なのに、クレイグ様には友人としての認識はなかった。
翌日。
フィルベルド様とアクスウィス公爵邸へと行く。
しばらく滞在することになるから、馬車一台では足りず、何台かの馬車を用意して私たちはアクスウィス公爵邸へと向かった。
アクスウィス公爵邸に着くなり、お父様と邸の使用人たちが出迎えてくれ、お互いに挨拶を交わす。お父様は、娘を見るような優しい笑顔で私とフィルベルド様を見ていた。
「フィルベルド。頼んでいた物は来ているぞ」
「本当ですか……では、すぐに」
お父様とフィルベルド様がそう話すと、足早に邸に部屋へと連れて行かれた。
「どうしたんですか?」
「ディアナに贈りたいものがある。帰国した時に頼んでいたんだが……」
そう言って、部屋の扉を開けると、部屋には純白のウェディングドレスがあった。
「フィルベルド様……これ……」
息を飲みそうなほど綺麗なウェディングドレス。
繊細なレースも純白で、言葉にないほど感動してしまっている。
「遅くなったが、ディアナに結婚式を贈りたい。そのために急いで作らせていた……」
「本当に?」
「6年前は、結婚式もできず隣国ゼノンリード王国に行ってしまったから……帰国すれば、いつか結婚式をしようと思っていた」
そう言って、純白のウェディングドレスの前に手を引かれて行った。
ウェディングドレスは、まじかで見ても美しい。
私には、ないと思っていた結婚式が目の前にある感じだった。
そのウェディングドレスの前で、フィルベルド様は跪いて私の手を取った。
「ディアナ。どうか結婚して欲しい。君になら何度でも求婚したい」
その言葉を断る理由はもうなかった。
フィルベルド様は、結婚式のために何としても休暇を取り、アクスウィス公爵邸に帰りたかったのだろう。
「……はい」
感無量になり、絞り出すように返事をすると、フィルベルド様はホッとしたように抱き寄せる。
その腕の中で、ホロリと涙が零れていた。
そして、数日後。
アクスウィス公爵領で、私とフィルベルド様は結婚式を挙げた。
_____完。
_______________________________________________________________________
本編はこれで終わりです。
後は、番外編を投稿しようと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。<(_ _)>
今日も、クレイグ様の幽閉されている塔にやってきたけど、彼は後宮の破壊に駆り出されているようだった。
彼は正式に王位継承者から外れた。
王族として、そして、『殿下』として不適切だと認められたのだ。
クレイグ様は、『殿下』でなくなった時も何も言わなかった。
案の定反対もせずに、「そう……」と呟いただけだったとフィルベルド様が言っていた。
そしていつものように、私はクレイグ様にお菓子を持って行っている。
後宮に着くと、フィルベルド様たちと共に、魔法で後宮を破壊しているクレイグ様がいた。
後宮は、ほとんど破壊されており、土台が少し残っているだけの瓦礫の山だった。
何か焼いたような黒いモヤが見えたけど、それは呪いの残骸のようなもので、フッと消えていったのが見えた。実際に何も焼いてない。
誰も気にしてないから、あれもきっと私だけに見えるのだろうと思う。
「フィルベルド様。お疲れ様です。差し入れですよ。クレイグ様にも持って来ました」
「嬉しいよ。……明日の支度は進んでいるか?」
「はい。順調です」
お菓子の入ったバスケットをすぐに受け取りながらフィルベルド様が優しくそう言う。
「明日は何かあるのかい?」
後宮破壊に疲れたようなクレイグ様が座り込んだままそう聞いて来た。
「はい。明日から、フィルベルド様とアクスウィス公爵邸に行くんですよ」
「明日から……?」
「はい。長期休暇で一か月もお休みになるんですよ」
「フィルベルド。まさか、それで私に後宮破壊をさせているのかい? 私は、フィルベルドたちと違って体力がないんだよ。そろそろ休ませてもらわないと……」
不貞腐れたように、クレイグ様がお菓子を取りながらそう言う。
後宮破壊が終わらないと、休みに入れないフィルベルド様は、クレイグ様に破壊工作を手伝ってもらうことで、休みを早く取ろうとしていた。
実際、目論見通りに予定よりも、後宮破壊は進んでいる。
「どうせ暇なんですからいいじゃないですか……それと、アクスウィス公爵領にはついてこないでくださいよ」
「塔から出られないんだけどね……」
フィルベルド様が、怪訝な顔でそう言う。
フィルベルド様は、クレイグ様が私の近くにいることを嫌っている。同じ男性でも、イクセルのことは、私の大事な友人という認識なのに、クレイグ様には友人としての認識はなかった。
翌日。
フィルベルド様とアクスウィス公爵邸へと行く。
しばらく滞在することになるから、馬車一台では足りず、何台かの馬車を用意して私たちはアクスウィス公爵邸へと向かった。
アクスウィス公爵邸に着くなり、お父様と邸の使用人たちが出迎えてくれ、お互いに挨拶を交わす。お父様は、娘を見るような優しい笑顔で私とフィルベルド様を見ていた。
「フィルベルド。頼んでいた物は来ているぞ」
「本当ですか……では、すぐに」
お父様とフィルベルド様がそう話すと、足早に邸に部屋へと連れて行かれた。
「どうしたんですか?」
「ディアナに贈りたいものがある。帰国した時に頼んでいたんだが……」
そう言って、部屋の扉を開けると、部屋には純白のウェディングドレスがあった。
「フィルベルド様……これ……」
息を飲みそうなほど綺麗なウェディングドレス。
繊細なレースも純白で、言葉にないほど感動してしまっている。
「遅くなったが、ディアナに結婚式を贈りたい。そのために急いで作らせていた……」
「本当に?」
「6年前は、結婚式もできず隣国ゼノンリード王国に行ってしまったから……帰国すれば、いつか結婚式をしようと思っていた」
そう言って、純白のウェディングドレスの前に手を引かれて行った。
ウェディングドレスは、まじかで見ても美しい。
私には、ないと思っていた結婚式が目の前にある感じだった。
そのウェディングドレスの前で、フィルベルド様は跪いて私の手を取った。
「ディアナ。どうか結婚して欲しい。君になら何度でも求婚したい」
その言葉を断る理由はもうなかった。
フィルベルド様は、結婚式のために何としても休暇を取り、アクスウィス公爵邸に帰りたかったのだろう。
「……はい」
感無量になり、絞り出すように返事をすると、フィルベルド様はホッとしたように抱き寄せる。
その腕の中で、ホロリと涙が零れていた。
そして、数日後。
アクスウィス公爵領で、私とフィルベルド様は結婚式を挙げた。
_____完。
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本編はこれで終わりです。
後は、番外編を投稿しようと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。<(_ _)>
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