67 / 73
第二章
閑話 母親 (前編)
しおりを挟む
「お母様。物がいっぱいです」
「そうね。結婚した時に持って来たからね。それよりもディアナの気に入りそうな花瓶はあるかしら?」
物置部屋には、結婚した時に隣国ゼノンリード王国から持って来た荷物がたくさんあった。
たくさんの本に机に椅子。花瓶など日用品もあった。
そんな隣国ゼノンリード王国から嫁いできた私の実家は魔法使いの家系だった。
でもその力は段々と薄れており、私自身も魔法使いでもなかった。
そして、隣国ゼノンリード王国に仕事に来ていた夫と出会い、夫の誠実さに惹かれて結婚したのだ。
そんな夫は今でも私を大事にしてくれている。
そして、私たちのたった一人の娘のディアナ。
5歳になったばかりのディアナと、物置部屋で夫から贈られた花を生けるのに小ぶりの花瓶を探していた。それは、なんの変哲もない日常だった。
「お母様。この箱はなんですか? お花を入れてもいいですか?」
「どの箱かしら? 何も入ってないなら…………っ!?」
「変な宝石……?」
「ディアナ!? それはダメ!!」
「え……?」
ディアナの持っていた箱と楕円の宝石。慌てて取り上げようとすると、ほんの一瞬で楕円の宝石が光を放った。
まぶしくて目も空けられないどころか、光に近づけなかった。
____ゴトンッ。
箱が床に落ちたと同時にディアナの泣き叫ぶ声が響いた。
眩んだ目を開けると、ディアナが腰を抜かしたように座り込み目を抑えている。
「うわぁーーん!! 痛い、痛いよーー!! お母さま! お目々が……痛いよ……!! あぁーーん!!」
ディアナの手にはすでに何も持ってなかった。
どうしてこの魔法の箱が開くのか……。
代々続いたこの魔法の箱は、実家であるサーベルグ男爵家では誰も開くことが出来ず、ひたすら隠されていた。
サーベルグ男爵家は、国に使える魔法使いを輩出しており、魔法の使えない人間は当主に出来なかった。だから、私も隣国であったこのヴェレス王国に嫁ぐ時も反対すらされなかった。
それでも、この魔法の箱だけは誰にも渡せずに直系である私に渡された。
代々伝わる大事な物であるのは間違いないが、誰にも開くことのできない魔法の箱をいつしか忘れられ、何が入っているのかもわからない魔法の箱に誰も興味を持つことはなかった。
私がお祖父様から教えられたことも、先祖に力のある魔法使いがいたということ。
そして、人々に利用されないようにこの魔法の箱のことは誰も知られないようにしていたということだけ。
「ディアナ……!」
「あぁーーん……!!」
目を抑えて泣きわめくディアナを抱きしめると、身体中が熱い。
落ちた魔法の箱が目に入ると、箱の内側に『真実の瞳』と古代文字が浮かんでいた。
私は、魔法使いではないが実家が魔法使いの家だったから魔法の勉強はしていた。少しなら古代文字も読めるし、『真実の瞳』のことも珍しい遺物だということは知っていた。
どうしてディアナが魔法の箱を開くことが出来たのかはわからないけど、身体の熱は『真実の瞳』がディアナの小さな身体には過ぎたものだということ。
魔力過多の子供がすぐに熱を出すのと同じだ。ましてやディアナは魔法使いではない。
身体の熱はディアナの体力を奪い、ベッドに寝かせているディアナは、うわ言のようにぐしゅぐしゅと泣きながら「痛いよ……」と呟く。
スウェル子爵家の老齢の主治医に診せて、熱冷ましを飲ませても長くは効果がない。
ほんのひと時眠るだけ。それでも、泣き叫ぶ我が子がその間だけ眠ることを見ると意味のないこととは思わなかった。
夫は、仕事で王都に出かけている。すぐには戻れない。
その間にディアナがいなくなってしまったら……そう思うと、身体中がざわつくように血の気が引いていく。
「……お母さま……お目々が痛いの……どこにも行かないでください……」
「大丈夫よ、ディアナ。必ずお母様が治してあげます」
弱々しく握る小さな手が熱い。でも、この手が冷たくなることは許せなかった。
「そうね。結婚した時に持って来たからね。それよりもディアナの気に入りそうな花瓶はあるかしら?」
物置部屋には、結婚した時に隣国ゼノンリード王国から持って来た荷物がたくさんあった。
たくさんの本に机に椅子。花瓶など日用品もあった。
そんな隣国ゼノンリード王国から嫁いできた私の実家は魔法使いの家系だった。
でもその力は段々と薄れており、私自身も魔法使いでもなかった。
そして、隣国ゼノンリード王国に仕事に来ていた夫と出会い、夫の誠実さに惹かれて結婚したのだ。
そんな夫は今でも私を大事にしてくれている。
そして、私たちのたった一人の娘のディアナ。
5歳になったばかりのディアナと、物置部屋で夫から贈られた花を生けるのに小ぶりの花瓶を探していた。それは、なんの変哲もない日常だった。
「お母様。この箱はなんですか? お花を入れてもいいですか?」
「どの箱かしら? 何も入ってないなら…………っ!?」
「変な宝石……?」
「ディアナ!? それはダメ!!」
「え……?」
ディアナの持っていた箱と楕円の宝石。慌てて取り上げようとすると、ほんの一瞬で楕円の宝石が光を放った。
まぶしくて目も空けられないどころか、光に近づけなかった。
____ゴトンッ。
箱が床に落ちたと同時にディアナの泣き叫ぶ声が響いた。
眩んだ目を開けると、ディアナが腰を抜かしたように座り込み目を抑えている。
「うわぁーーん!! 痛い、痛いよーー!! お母さま! お目々が……痛いよ……!! あぁーーん!!」
ディアナの手にはすでに何も持ってなかった。
どうしてこの魔法の箱が開くのか……。
代々続いたこの魔法の箱は、実家であるサーベルグ男爵家では誰も開くことが出来ず、ひたすら隠されていた。
サーベルグ男爵家は、国に使える魔法使いを輩出しており、魔法の使えない人間は当主に出来なかった。だから、私も隣国であったこのヴェレス王国に嫁ぐ時も反対すらされなかった。
それでも、この魔法の箱だけは誰にも渡せずに直系である私に渡された。
代々伝わる大事な物であるのは間違いないが、誰にも開くことのできない魔法の箱をいつしか忘れられ、何が入っているのかもわからない魔法の箱に誰も興味を持つことはなかった。
私がお祖父様から教えられたことも、先祖に力のある魔法使いがいたということ。
そして、人々に利用されないようにこの魔法の箱のことは誰も知られないようにしていたということだけ。
「ディアナ……!」
「あぁーーん……!!」
目を抑えて泣きわめくディアナを抱きしめると、身体中が熱い。
落ちた魔法の箱が目に入ると、箱の内側に『真実の瞳』と古代文字が浮かんでいた。
私は、魔法使いではないが実家が魔法使いの家だったから魔法の勉強はしていた。少しなら古代文字も読めるし、『真実の瞳』のことも珍しい遺物だということは知っていた。
どうしてディアナが魔法の箱を開くことが出来たのかはわからないけど、身体の熱は『真実の瞳』がディアナの小さな身体には過ぎたものだということ。
魔力過多の子供がすぐに熱を出すのと同じだ。ましてやディアナは魔法使いではない。
身体の熱はディアナの体力を奪い、ベッドに寝かせているディアナは、うわ言のようにぐしゅぐしゅと泣きながら「痛いよ……」と呟く。
スウェル子爵家の老齢の主治医に診せて、熱冷ましを飲ませても長くは効果がない。
ほんのひと時眠るだけ。それでも、泣き叫ぶ我が子がその間だけ眠ることを見ると意味のないこととは思わなかった。
夫は、仕事で王都に出かけている。すぐには戻れない。
その間にディアナがいなくなってしまったら……そう思うと、身体中がざわつくように血の気が引いていく。
「……お母さま……お目々が痛いの……どこにも行かないでください……」
「大丈夫よ、ディアナ。必ずお母様が治してあげます」
弱々しく握る小さな手が熱い。でも、この手が冷たくなることは許せなかった。
59
お気に入りに追加
6,017
あなたにおすすめの小説
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している
miniko
恋愛
「君を愛する事は無い」
女嫌いの公爵様は、お見合いの席で、私にそう言った。
普通ならばドン引きする場面だが、絶対に叶う事の無い初恋に囚われたままの私にとって、それは逆に好都合だったのだ。
・・・・・・その時点では。
だけど、彼は何故か意外なほどに優しくて・・・・・・。
好きだからこそ、すれ違ってしまう。
恋愛偏差値低めな二人のじれじれラブコメディ。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる