62 / 73
第二章
夫は塔にやって来る
しおりを挟む
窓辺に座っているクレイグ殿下の近くに椅子を移動させて座った。
彼は、幽閉されているのに、いつもと変わらない態度で嘆いていることもない。
「クレイグ殿下。予言を聞きました……アスラン殿下を恨んでいるんですか?」
「……別に恨んでないよ。アスランは何もしてないからね……ただ、私と違って才能があっただけだよ」
「じゃあ、もうアスラン殿下に呪いをかけないでくださいね……」
「もうかける理由がないから、しないよ……」
「王妃様も心配してました……私も心配してます」
「そう……私は、母上に似たのだろうね。母上は隣国ゼノンリード王国の出身だから……」
このヴェレス王国は騎士の国と言われるぐらい騎士団が有名な国だ。
そして、隣国ゼノンリード王国は、どちらかと言えば魔法使いが多い。クレイグ殿下が、魔法に秀でたのもその血筋のせいかもしれない。
「……私は、おそらくこの国を出されるだろうね。陛下がアスランの側に私を置くはずがないからね……ディアナは? 私と一緒に行く?」
「だから行きませんよ。私が一緒に行ってどうするんですか? それに、アスラン殿下はクレイグ殿下を見捨てませんよ」
「まぁ、どっちでもいいけどね……」
クレイグ殿下はまるで空っぽに見えた。することが無くなったからだろうと思うけど、呪いに精を出してとは言えないし、私に出来ることはない気がしてきた。
何か楽しい共通の話題でもないかと考えている私をよそに、クレイグ殿下は窓の外に釘付けになっている。
「……ディアナ、また来る?」
窓の外を見ていたクレイグ殿下が急にそう言ってきた。
「お暇みたいですし、話相手ぐらいならかまいませんよ」
「幽閉されているから、暇なのは間違いないね。……もう一つ菓子をくれないかい?」
「かまいませんけど……その笑顔はなんですか?」
「別に」
相変わらず、つかみどころがない。正直に言えば、何を考えているのかわからない。
でも、寂しいのだとは感じる。
「どうぞ」ともう一度菓子袋を差し出し近づくと、前触れもなく扉が勢いよく開いた。
扉が壊れるのかと思うほどの音にびくりとして、身体が固まる。
「何をしているんだ!?」
恐ろしい形相で入って来たのはフィルベルド様だった。
菓子袋を目の前で差し出しているクレイグ殿下をちらりと見るとニコリとしている。
この様子に、窓辺からフィルベルド様が見えていたんじゃないかと思う。
「……フィルベルド様が来ることを知ってましたね?」
「思ったよりも早かったね……それにしても息も乱れてないよ。さすがフィルベルドだねぇ」
フィルベルド様をからかう様子に、楽しいものを見つけたように笑うクレイグ殿下に「やめてください」と懇願したくなる。そう言う隙も無いほどあっという間に私を引き寄せてクレイグ殿下から庇って来ると一言思う。
あぁ、あれがやって来た……と。
「ディアナ。大丈夫か!? なにもされてないか!?」
「大丈夫です。落ち着いてください。落ち着いてくださいね」
フィルベルド様の腕の中でそう言うが、落ち着くことはない。
「何故あんなに近くにいたんだ?」
「お菓子をお渡ししていただけですからね。問題ありません」
「菓子? クレイグ殿下に菓子を作って来ていたのか? 王妃様に頼まれて来たんじゃないのか? 俺に秘密で会う気だったのか?」
「フィルベルド様の分はルトガー様にお渡ししてますよ? ルトガー様に聞いてこちらに来たんじゃないのですか?」
「聞いたのは王妃様だ。城で会ってディアナに頼み事をしたと聞いて急いで来たんだ」
どうやら、王妃様が城でフィルベルド様に、私のことでお礼を言ったらしい。
「慈悲のある奥方で感謝します」と涙ながらにフィルベルド様に伝えたが、フィルベルド様はきっともうそれどころではなかっただろう。
「フィルベルド。ディアナの菓子は美味しかったよ」
「そうですか。思ったよりも元気そうで安心しました。ディアナは連れて帰りますよ」
「別にいいよ。話なんかないしね……でも、次はもっと甘い菓子にしてくれるかい?」
「かまいませんけど……」
「また来る気か!?」
「ダメですか? でも、王妃様の許可もありますからこの塔の出入りは自由になったんですよ」
「なら、俺も来るぞ!! 絶対に二人にはさせない!!」
「フィルベルドは騒がしいから来なくていいよ」
「クレイグ殿下に拒否権はありませんよ!」
ツンとそっぽを向いたクレイグ殿下にフィルベルド様は冷たくそう言い放った。
迫力がありすぎてちょっと怖い。
そのまま、クレイグ殿下に挨拶をして塔をあとにするとフィルベルド様は、無言のままで私と歩いていた。
「あの……人に言えないようなことはありませんから、フィルベルド様が心配することないですよ? クレイグ殿下は、ただ寂しいだけですよ」
「クレイグ殿下がどうかは知らないが……ディアナが浮気をするとは思ってない」
「本当ですか?」
「ただ……二人でいて欲しくない。ディアナを誰かに取られそうで不安になる」
それは、まだ本当の夫婦になってないからだろう。私がフィルベルド様を受け入れてないからだ。
握られている手に、フィルベルド様の力が入っているのがわかる。
「誰かに取られても奪い返しに行くが……ディアナだけは誰にも渡したくない」
「……では、本当の夫婦になりましょう」
そう言うと、お互いの足が止まっていた。
彼は、幽閉されているのに、いつもと変わらない態度で嘆いていることもない。
「クレイグ殿下。予言を聞きました……アスラン殿下を恨んでいるんですか?」
「……別に恨んでないよ。アスランは何もしてないからね……ただ、私と違って才能があっただけだよ」
「じゃあ、もうアスラン殿下に呪いをかけないでくださいね……」
「もうかける理由がないから、しないよ……」
「王妃様も心配してました……私も心配してます」
「そう……私は、母上に似たのだろうね。母上は隣国ゼノンリード王国の出身だから……」
このヴェレス王国は騎士の国と言われるぐらい騎士団が有名な国だ。
そして、隣国ゼノンリード王国は、どちらかと言えば魔法使いが多い。クレイグ殿下が、魔法に秀でたのもその血筋のせいかもしれない。
「……私は、おそらくこの国を出されるだろうね。陛下がアスランの側に私を置くはずがないからね……ディアナは? 私と一緒に行く?」
「だから行きませんよ。私が一緒に行ってどうするんですか? それに、アスラン殿下はクレイグ殿下を見捨てませんよ」
「まぁ、どっちでもいいけどね……」
クレイグ殿下はまるで空っぽに見えた。することが無くなったからだろうと思うけど、呪いに精を出してとは言えないし、私に出来ることはない気がしてきた。
何か楽しい共通の話題でもないかと考えている私をよそに、クレイグ殿下は窓の外に釘付けになっている。
「……ディアナ、また来る?」
窓の外を見ていたクレイグ殿下が急にそう言ってきた。
「お暇みたいですし、話相手ぐらいならかまいませんよ」
「幽閉されているから、暇なのは間違いないね。……もう一つ菓子をくれないかい?」
「かまいませんけど……その笑顔はなんですか?」
「別に」
相変わらず、つかみどころがない。正直に言えば、何を考えているのかわからない。
でも、寂しいのだとは感じる。
「どうぞ」ともう一度菓子袋を差し出し近づくと、前触れもなく扉が勢いよく開いた。
扉が壊れるのかと思うほどの音にびくりとして、身体が固まる。
「何をしているんだ!?」
恐ろしい形相で入って来たのはフィルベルド様だった。
菓子袋を目の前で差し出しているクレイグ殿下をちらりと見るとニコリとしている。
この様子に、窓辺からフィルベルド様が見えていたんじゃないかと思う。
「……フィルベルド様が来ることを知ってましたね?」
「思ったよりも早かったね……それにしても息も乱れてないよ。さすがフィルベルドだねぇ」
フィルベルド様をからかう様子に、楽しいものを見つけたように笑うクレイグ殿下に「やめてください」と懇願したくなる。そう言う隙も無いほどあっという間に私を引き寄せてクレイグ殿下から庇って来ると一言思う。
あぁ、あれがやって来た……と。
「ディアナ。大丈夫か!? なにもされてないか!?」
「大丈夫です。落ち着いてください。落ち着いてくださいね」
フィルベルド様の腕の中でそう言うが、落ち着くことはない。
「何故あんなに近くにいたんだ?」
「お菓子をお渡ししていただけですからね。問題ありません」
「菓子? クレイグ殿下に菓子を作って来ていたのか? 王妃様に頼まれて来たんじゃないのか? 俺に秘密で会う気だったのか?」
「フィルベルド様の分はルトガー様にお渡ししてますよ? ルトガー様に聞いてこちらに来たんじゃないのですか?」
「聞いたのは王妃様だ。城で会ってディアナに頼み事をしたと聞いて急いで来たんだ」
どうやら、王妃様が城でフィルベルド様に、私のことでお礼を言ったらしい。
「慈悲のある奥方で感謝します」と涙ながらにフィルベルド様に伝えたが、フィルベルド様はきっともうそれどころではなかっただろう。
「フィルベルド。ディアナの菓子は美味しかったよ」
「そうですか。思ったよりも元気そうで安心しました。ディアナは連れて帰りますよ」
「別にいいよ。話なんかないしね……でも、次はもっと甘い菓子にしてくれるかい?」
「かまいませんけど……」
「また来る気か!?」
「ダメですか? でも、王妃様の許可もありますからこの塔の出入りは自由になったんですよ」
「なら、俺も来るぞ!! 絶対に二人にはさせない!!」
「フィルベルドは騒がしいから来なくていいよ」
「クレイグ殿下に拒否権はありませんよ!」
ツンとそっぽを向いたクレイグ殿下にフィルベルド様は冷たくそう言い放った。
迫力がありすぎてちょっと怖い。
そのまま、クレイグ殿下に挨拶をして塔をあとにするとフィルベルド様は、無言のままで私と歩いていた。
「あの……人に言えないようなことはありませんから、フィルベルド様が心配することないですよ? クレイグ殿下は、ただ寂しいだけですよ」
「クレイグ殿下がどうかは知らないが……ディアナが浮気をするとは思ってない」
「本当ですか?」
「ただ……二人でいて欲しくない。ディアナを誰かに取られそうで不安になる」
それは、まだ本当の夫婦になってないからだろう。私がフィルベルド様を受け入れてないからだ。
握られている手に、フィルベルド様の力が入っているのがわかる。
「誰かに取られても奪い返しに行くが……ディアナだけは誰にも渡したくない」
「……では、本当の夫婦になりましょう」
そう言うと、お互いの足が止まっていた。
46
お気に入りに追加
6,017
あなたにおすすめの小説
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
後悔だけでしたらどうぞご自由に
風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。
それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。
本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。
悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ?
帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。
※R15は保険です。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる