白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人なったのかわかりません!

屋月 トム伽

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第二章

妻はお茶会へ行く

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翌日から、クレイグ殿下の後宮はアスラン殿下に呪いをかけるための触媒に捧げたものだったために、フィルベルド様の主導のもと全て破壊されることになった。

クレイグ殿下が、フィルベルド様に捕らえられた時に言った『それは困るね。でも、もういらないかな……『真実の瞳』をフィルベルドが手に入れたから』この言葉も確信するきっかけとなっていたらしい。
クレイグ殿下は、『真実の瞳』が発見されて、フィルベルド様に捕らえられたから、もういらないと思ったのだ。

第二騎士団が調べに入ると、あちこちに魔法の仕掛けがしてあり、呪いを強める触媒としていたことは明白だったらしい。

フィルベルド様はそのせいでまだ休みが取れないままだった。

そして朝には、いつも通り仕事へと行く。お見送りに私も玄関に出ていた。

「フィルベルド様。……クレイグ殿下にお会いに行ってもいいですか?」
「……何故だ?」
「一人で寂しいと思うんです」
「会いに行って欲しくないんだが……」

フィルベルド様はそう言うけど、クレイグ殿下には話す相手が必要だと思う。

「でも、私では勝手にお会いできないんです」

城の塔に幽閉されているクレイグ殿下には、そう簡単に面会はできない。
でも、騎士団長のフィルベルド様なら、面会はできるはず。
片手で顔を覆いうつむき加減のフィルベルド様は、私がクレイグ殿下に会いに行きたいことが嫌らしい。

すると、鋭い眼で私を見て、思わずびくりと肩がすくんでしまった。

「な、何ですか?」

そう言うと、片腕で引き寄せられて唇をとられる。
まるで焼きもちを妬いているようにムスッとしているのがわかる。

「……行ってくる」
「はい……お気を付けて……」

コツンと額がくっつき目の前でそう言われ、フィルベルド様はお仕事に行かれた。
後ろを向くと、オスカーと目が合う。

「奥様。フィルベルド様は、心配されていたのですよ……今まで見たことないほど取り乱していましたから……」

ルトガー様も、フィルベルド様が狂っていたと言っていたし、また壊れていたんだろうか。
そう思うと、クレイグ殿下に会いに行きたいなどフィルベルド様にお願いするのは無神経だった気がする。
でも、他に頼れる人はいない。イクセルは伯爵家だけど、王族と付き合いがあるわけでは無いし……私から、アスラン殿下にお願いなどできない。

でも、無神経なことを言ってしまい、少し悪い気がしてきた。

「……フィルベルド様に差し入れでも持って行こうかしら?」
「はい。お喜びになります」

そのまま、厨房に行き、焼き菓子を作る。
一人暮らしだったから、簡単な焼き菓子くらいならすぐに作ることができ、もうすぐで焼きあがる頃に、城から使者が来た。

使者が持ってきた物は王妃様からのお茶会の招待状だった。

王妃様からの招待状なんて初めてで驚き、招待状を持つ手が震える。

「大変だわ! 準備しないと……!」
「ミリア! すぐに奥様の支度を! 品のある装いで!」
「は、はい!!」

オスカーは驚きながらも公爵家の副執事だったせいか、ミリアにテキパキと指示をする。
ミリアは、慌てふためき初めての王妃様からのお茶会の装いに戸惑っていた。

「ミリア。大丈夫よ。フィルベルド様がくださったお茶会用のドレスもあるから、それにしましょう。フィルベルド様が選んだものなら間違いないはず! 品のあるドレスだし……」
「は、はい! 髪型はどうしましょう?」
「あまり派手ではない髪型でお願いね。お茶会は、夜会と違って艶やかにしないようにするのよ。まだ、時間はあるから落ち着いてしましょう」
「かしこまりました!」

緊張しながらも、支度をすませて厨房に行くと、焼き菓子はすでに出来上がっている。
キッチンメイドたちが、それをいくつかに分けて紙袋に詰めてくれていた。
厨房の使用人たちにお礼を言うと、オスカーはすでに王妃様への手土産も準備しており、馬車の支度も滞りなく出来ている。

「オスカー。フィルベルド様のところにも寄るから馬車で待っていてくれる? ミリアはまだ慣れてないから、側にいてあげてね」
「かしこまりました」

王妃様のお茶会なんて緊張しかないけど、断るという選択はない。というかできない。
馬車の中でもドキドキしっぱなしで城に着くと、案内された先には王妃様が侍女たちと待っていた。

「アクスウィス夫人。よく来てくれたわ」
「ご招待ありがとうございます」

朗らかな笑顔で迎えてくれた王妃様は侍女たちを下げて、私に座るように促した。

「私も、クレイグやアスランのようにディアナと呼んでもいいかしら?」
「はい。もちろんです」

緊張しながら、そう返事をすると、王妃様は私に一つの箱を出してきた。

そして、お茶を入れていた王宮執事が箱を開けると、中には赤色に琥珀色、碧色に黄色にと宝石が入っている。

「ディアナ。ごめんなさい。私がふがないばかりに、クレイグがあなたに酷いことを……そして、アスランを助けてくれてありがとう。これは、あなたへの謝罪とお礼です。受け取ってちょうだい」
「王妃様……」

謝罪とお礼をするために、私をお茶に招待した王妃様。母親として、自分ができなかったことを申し訳ないと思っているのが伝わる。

「宝石は、王室御用達の宝飾店に持って行けば好きな宝飾品にしてくれるわ。ディアナの好きな宝石がなければ他にも贈るから、どうぞ遠慮なく言ってちょうだい」

遠慮なくと言われても、箱には四つも五つもあるのだから、ちょっと怖いくらいだ。
宝石をじっと見ても、これだけあれば平民の屋敷ぐらいおつりが来そうなくらい買えるんじゃないだろうかと思う。

いただくのが怖いけど、王妃様からの贈り物を断ることなんてできない。

「ありがとうございます」

緊張しながらもお礼を言うと、王妃様は目を細めて和らいだ笑顔を見せてくれた。

「……ディアナ。あなたに無礼なお願いとわかっているのだけど、どうしてもあなたにお願いがあるの」
「はい。私にできることなら……」

王妃様は伏目がちにそう言いい、話を続けた。

「どうかクレイグに会いに行って欲しいの……私が母親として不甲斐ないばかりに、私ではあの子の話し相手にすらなれない。監禁されたあなたにお頼みするのは間違っているとわかっているけど、どんな理由があれ、あなたはクレイグのために陛下を止めようとしてくれた。クレイグもあなたを見ていたから、もしかしたらディアナを気に入っているのかと……」
「お会いはしたいとは思っていました……でも、私たちに恋愛感情はありません。私とクレイグ殿下は似ていたのです。ただそれだけのことで……」
「えぇ、わかってます。あなたにはフィルベルドがいるものね」

王妃様は、後宮でのフィルベルド様の様子を思い出したようにフフッと笑った。
クレイグ殿下とは、お互いに好き合ってないとはわかっているようだ。

「でも、どうかお願いします。これは、王妃としてではなくて、クレイグの母親としてお願いします」

膝に手を置き、私に頭を下げる王妃様に胸がズキンとした。
本当なら、王妃様自身がクレイグ殿下を助けたかったのだろうと……。
そして、王妃様に頭を下げられるなんて恐ろしい。私は、一体どんな立場の人間なんだ、と慌てふためく。

「王妃様、どうか顔をあげて下さい! 私個人ではクレイグ殿下にお会いできなくて困っていたのです。王妃様の許可があればお会いできます。こちらこそありがとうございます。良ければお茶会のあとにクレイグ殿下の塔に伺ってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、えぇ……もちろんよ……ありがとう。ディアナ……」

顔を上げた王妃様の眼の端には涙が浮かび、それをそっと拭っていた。












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