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第二章

夫と妻の距離

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翌日。
魔法の箱を見ているが、本当に何て書いてあるかわからない。

クレイグ殿下が、お母様からのメッセージならロマンがある、と言っていたからか、少し気になってきた。

「オスカー。この文字は何て書いてあるかわかる? 多分古代文字だと思うんだけど……」

部屋のバルコニーにお茶と焼き立てのケーキを準備しているオスカーに聞いてみた。

「申し訳ありません。古代文字は修得していませんので……フィルベルド様にお聞きなられたほうがよろしいいかと」
「フィルベルド様は、お忙しいから……ご迷惑じゃないかしら?」

今朝も、朝食を食べる間もなく早くから城へと言った。
フィルベルド様なら城に部屋を準備されただろうに、妻である私がいるから毎日無理して邸に帰って来てくれているんだとわかる。

「図書館にでも行こうかしらね……」

呟きながら魔法の箱の内側に記されている文字をメモに書いていると、オスカーが「お茶をどうぞ」とお茶の準備が終わったことを告げ、メモを魔法の箱の中に入れてバルコニーに出た。

「フィルベルド様は、お仕事で忙しいのに、私がこんな吞気にアフタヌーンティーを頂いていいのかしら?」
「お茶会は、今はフィルベルド様に禁止されてますからね……しかし、奥様は邸の管理をしてくださっていますし、フィルベルド様もそのおかげで安心して仕事に励めるのかと思います」
「そうよね……それと、今夜の晩餐のメニューはこれでお願いね。フィルベルド様はお疲れだから、スープも野菜スープにしてデザートは果物にしてくれるかしら?」
「かしこまりました。ワインに合う果物にいたしましょう」

今の任務が何かはわからないけど、一度に不特定多数の人間を邸に招かないように言われているから、お茶会を開くことは出来ない。
本当なら、お茶会を女主人として開くべきなのだろうけど……。
せめて、邸のことでフィルベルド様を煩わさないように女主人としてのすべきことに励んでいた。晩餐のメニューを決めることも女主人の仕事の一つなのだ。

そう思いながらお茶を飲むと、ミリアが手紙を持って来た。

「奥様。オスカーさん。フィルベルド様からの手紙です」

渡された手紙を読むと、今夜は、仕事で帰れないそうで、『すまない』ということが書いてあった。
オスカーの手紙には、着替えなどを持ってくるようにと書いてある。

それを読み、オスカーがニコリと話してくる。

「奥様。フィルベルド様に着替えを持って行きましょう! 私とミリアがお供します」
「お使いぐらいかまわないけど……それなら、フィルベルド様にパウンドケーキもお持ちしましょうか? すごく美味しいから……」
「はい。奥様がお持ちになればフィルベルド様は、お喜びになりますよ。すぐに準備しますので行きましょう」

そう言って、オスカーは手慣れた様子でフィルベルド様の荷物をまとめて、城のフィルベルド様のいる騎士団に連れて行かれた。





城のフィルベルド様のいる屯所に行くと、すぐに案内をしてくれた。
オスカーとミリアは、「2人でどうぞごゆっくりください」と言って馬車で待ってくれている。

そして、フィルベルド様の執務室に行くと、彼は驚いたように迎えてくれた。

「差し入れを持ってきました。お忙しいのにすみません。すぐに帰りますので……」
「何を言う。ディアナなら、毎日来てくれてもかまわない。さぁ、こちらに座ってくれ」
「いいのですか?」
「もちろんだ。ディアナが来てくれるなんて夢みたいだ」

フィルベルド様に促されて執務室のソファーに座ると、ルトガーさんが「すぐにお茶をお持ちします」と言ってくれた。その間にフィルベルド様が隣に座る。

「……フィルベルド様。少し離れませんか?」
「せっかくディアナが差し入れを持って来てくれたのだから隣で食べようかと……」
「はぁ……」

だからといって、隙間がないほどくっつく必要は無いと思う。

バスケットを開きドライフルーツのパウンドケーキを出すと、フィルベルド様はジッとこちらを見ている。

「もしかして、パウンドケーキはお嫌いですか?」
「いや。ディアナに会えるなんて感激しているんだ。今日は、もう会えないかと思っていたからな」

少しほころんだ表情で頭を撫でられたかと思うと、髪を手に取り愛おしそうにキスをする。
その様子にドキリとして思わず慌てた。

「フィ、フィルベルド様!」
「どうした?」
「こ、今夜は、忙しいんですね!」
「そうだな……もう少しすれば、今夜は街を出る」
「街を……?」
「街から離れたところにある廃墟の砦を調査することになった……明日の午後には戻って来るから、一度ディアナに会いに邸には帰ろう」
「無理しなくても大丈夫ですよ。私は、邸でずっと待ってますから」

そう言うと、フィルベルド様は安心したように肩に手を回して抱き寄せて来た。

「俺が会いたくて帰るんだ。ディアナが邸にいてくれるから、暇さえあればすぐにでも帰りたい……それに、なにかあればすぐに呼んでくれ。すぐに駆けつける」

抱き寄せられたまま耳元でそう言われると、くすぐったくなる。
顔と顔が近くて赤ら顔を見られたくなくて下を向いた。
隣国ゼノンリード王国に行っているわけじゃないから、なにかあればすぐに駆けつけてくれるんだろうか……。

「じゃあ……私になにかあればすぐに助けに来て下さいね」
「必ず助けに行くよ」

フィルベルド様の腕の中でそう言うと、優しい声が降ってくる。
恥ずかしくて、瞼を瞑っているとフィルベルド様の頭が動いたのがわかり、軽く唇が重なった。

……恥ずかしながらも、目を開きフィルベルド様を見ると、彼は愛おしそうに私を見ている。

「……ルトガーさんが来ますよ」
「見られても困らない。今夜は会えないから名残惜しい」
「そうですか……明日は、早く帰って来てくださいね。仕事が終わってからでいいので……」
「そうする」

そう言って、また唇を重ねられていた。






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