23 / 73
第二章
妻と夫の出発
しおりを挟む
アスラン殿下にお城近くの一等地に邸を頂き、フィルベルド様はあっという間に使用人を揃えた。
殿下の邸だけあって、邸内は豪華絢爛でありながらも、アスラン殿下の趣味が派手好きで無かった為か、落ち着いた内装になっている。
アスラン殿下の邸だったから、管理も怠っておらず邸を一斉に掃除することもなくて、おかげで私たちはすぐに住めることが出来た。
その邸から、フィルベルド様はご機嫌で仕事へと出発する。
背も高くスラリとした彼は騎士の隊服がよく似合う。誰が見てもうっとりする容姿だった。
「ディアナ。一緒に行けなくてすまない……すぐに迎えに行くから」
「そ、そうですか……」
そう言って、名残惜しそうに抱擁してくる。どうやら毎朝抱擁してから出勤したいらしい。
初日は突然のことで「ひぃっ……!」と変な声が出たけど、数日でとりあえず平静は装える様になった自分を褒めたい。
「いってらっしゃいませ」と引きつるのを抑えてお見送りすると、フィルベルド様は眩しい笑顔で出発した。
フィルベルド様が見えなくなり、さて……と後ろを振り向くと、一緒に見送りをした新しい執事と侍女のミリアがいる。
新しい執事は、アクスウィス公爵家にいた副執事を置くことになった。彼は、30歳ほどの眼鏡がよく似合う男性。先日、フィルベルド様とお父様の邸に出かけた時に連れて帰って来たのだ。いずれ執事になるから、私たちの邸の執事としてフィルベルド様が決めたのだろう。
それに、お義父様もお元気そうで良かった。お身体を悪くされていたけど、動けないほどでもなく、私とフィルベルド様を快く迎えてくださった。
数時間の滞在で、晩餐もご一緒に出来て良かったと思う。
そして、執事オスカーの一歩後ろでフィルベルド様を一緒に見送ったもう一人は、私の侍女のミリアだ。
フィルベルド様と泊まったあの宿のホテルメイドだった彼女が、綺麗に髪を結わえてくれたことでフィルベルド様がスカウトして来たのだ。
私がミリアに感謝していたのを、フィルベルド様は察してくれたのだろう。
ミリアは、まさかホテルメイドから侍女にスカウトされるとは思わなかったようで、最初は怪しんでいたが、メイドから侍女になれることは光栄なことだと言って、私の侍女へと決まった。
そのミリアと部屋に戻り、フィルベルド様からの贈り物を見た。
沢山ありすぎて困る。
でも、今日の午後にはフィルベルド様の任命式があるから、私もそれに出席しないといけない。
支度のために鏡の前に座るが、こんな地味な妻があの見目麗しいフィルベルド様の妻でいいのだろうか……と自分の顔を鏡ごしに睨む。
そんな私をよそに、ミリアは今日のための落ち着いたドレスを準備しておりテキパキと支度を始めた。
「ミリアもオスカーたちと一緒に見るんでしょう?」
「はい。ディアナ様のドレスを控え室に置いたら、使用人の皆でフィルベルド様の任命式を見学にします」
見学に来ると行っても、私はフィルベルド様の妻という特別席。ミリアたちは、一般の見学席から拝見することになる。
「今夜のドレスの支度も整っていますので、馬車に運んでおきます」
「ありがとう。ミリア」
夜会用の艶やかなドレスと違い、任命式は落ち着いたフォーマルドレスで整え、派手にならないような宝石を着ける。そして、夜には夜会への出席だ。
「ディアナ様。すごくお綺麗です」
「ドレスとミリアのおかげじゃないかしら……」
ハハッ……と作り笑いをして、ミリアの化粧の腕前を褒める。決して濃い化粧ではないが、色使いが上手なミリアの化粧のおかげで、恥ずかしくない装いになっている。
夜会には、夜会にあった化粧をしてくれるからミリアは腕が良くて感心する。
私の夜会用のドレスを詰めた衣装ケースを両手で持ったミリアと玄関に行くと、すでにオスカーが馬車で待っており、オスカーがミリアの持っていた衣装ケースを受け取ると慣れた様子で馬車に積み込み、私たち三人はお城へと出発した。
殿下の邸だけあって、邸内は豪華絢爛でありながらも、アスラン殿下の趣味が派手好きで無かった為か、落ち着いた内装になっている。
アスラン殿下の邸だったから、管理も怠っておらず邸を一斉に掃除することもなくて、おかげで私たちはすぐに住めることが出来た。
その邸から、フィルベルド様はご機嫌で仕事へと出発する。
背も高くスラリとした彼は騎士の隊服がよく似合う。誰が見てもうっとりする容姿だった。
「ディアナ。一緒に行けなくてすまない……すぐに迎えに行くから」
「そ、そうですか……」
そう言って、名残惜しそうに抱擁してくる。どうやら毎朝抱擁してから出勤したいらしい。
初日は突然のことで「ひぃっ……!」と変な声が出たけど、数日でとりあえず平静は装える様になった自分を褒めたい。
「いってらっしゃいませ」と引きつるのを抑えてお見送りすると、フィルベルド様は眩しい笑顔で出発した。
フィルベルド様が見えなくなり、さて……と後ろを振り向くと、一緒に見送りをした新しい執事と侍女のミリアがいる。
新しい執事は、アクスウィス公爵家にいた副執事を置くことになった。彼は、30歳ほどの眼鏡がよく似合う男性。先日、フィルベルド様とお父様の邸に出かけた時に連れて帰って来たのだ。いずれ執事になるから、私たちの邸の執事としてフィルベルド様が決めたのだろう。
それに、お義父様もお元気そうで良かった。お身体を悪くされていたけど、動けないほどでもなく、私とフィルベルド様を快く迎えてくださった。
数時間の滞在で、晩餐もご一緒に出来て良かったと思う。
そして、執事オスカーの一歩後ろでフィルベルド様を一緒に見送ったもう一人は、私の侍女のミリアだ。
フィルベルド様と泊まったあの宿のホテルメイドだった彼女が、綺麗に髪を結わえてくれたことでフィルベルド様がスカウトして来たのだ。
私がミリアに感謝していたのを、フィルベルド様は察してくれたのだろう。
ミリアは、まさかホテルメイドから侍女にスカウトされるとは思わなかったようで、最初は怪しんでいたが、メイドから侍女になれることは光栄なことだと言って、私の侍女へと決まった。
そのミリアと部屋に戻り、フィルベルド様からの贈り物を見た。
沢山ありすぎて困る。
でも、今日の午後にはフィルベルド様の任命式があるから、私もそれに出席しないといけない。
支度のために鏡の前に座るが、こんな地味な妻があの見目麗しいフィルベルド様の妻でいいのだろうか……と自分の顔を鏡ごしに睨む。
そんな私をよそに、ミリアは今日のための落ち着いたドレスを準備しておりテキパキと支度を始めた。
「ミリアもオスカーたちと一緒に見るんでしょう?」
「はい。ディアナ様のドレスを控え室に置いたら、使用人の皆でフィルベルド様の任命式を見学にします」
見学に来ると行っても、私はフィルベルド様の妻という特別席。ミリアたちは、一般の見学席から拝見することになる。
「今夜のドレスの支度も整っていますので、馬車に運んでおきます」
「ありがとう。ミリア」
夜会用の艶やかなドレスと違い、任命式は落ち着いたフォーマルドレスで整え、派手にならないような宝石を着ける。そして、夜には夜会への出席だ。
「ディアナ様。すごくお綺麗です」
「ドレスとミリアのおかげじゃないかしら……」
ハハッ……と作り笑いをして、ミリアの化粧の腕前を褒める。決して濃い化粧ではないが、色使いが上手なミリアの化粧のおかげで、恥ずかしくない装いになっている。
夜会には、夜会にあった化粧をしてくれるからミリアは腕が良くて感心する。
私の夜会用のドレスを詰めた衣装ケースを両手で持ったミリアと玄関に行くと、すでにオスカーが馬車で待っており、オスカーがミリアの持っていた衣装ケースを受け取ると慣れた様子で馬車に積み込み、私たち三人はお城へと出発した。
51
お気に入りに追加
6,014
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる