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夜会当日。
煌びやかな夜会は、シャンデリアが煌々と貴族たちを美しく照らしている。
こんな世界もある。
この中で、私は異物だ。
可愛らしく、もしくは美しく着飾る令嬢たちを見れば、私はあんな風に綺麗な表情も作れない。
泣きそうになる。
「お嬢様……泣きそうですよ」
私の後ろから、軽やかな声で耳元に話しかけられた。声の主は、ベラルド男爵家の従者スノウだ。
「うるさいですわ」
「それはすみません。でも、いいんですか? 俺と一緒に来て……」
「お父様には内緒よ」
「わかってます」
お父様には、夜会に来ていることなど言えない。何をするかわからないからだ。
今は、何事もなく上手くいっているはず。予想外なのは、ライアス様が私の元に通ってくることだけ……今までのループとまったく違う。どうしてなのかわからない。
でも、今度こそ生き残るためにはやり遂げるしかない。
そのために、何度も繰り返したループで手に入れた知識を使って白いスズランの品種改良にも成功した。
何世代も待てなくて、そのための成長を促す薬も作って完成させたのだ。
「それにしても、ライアス様はお嬢様を見つけられますかね」
「無理に決まっているわ」
「そんな変装までしてくるから……嫌ならお断りすればいいのに……どうせ結婚式まであと二日なのに……」
「だって……しつこいんだもの……」
いつものローズとわからないように、髪色を変える薬を使ってピンクにしてきた。
ドレスも万が一バレないように、ライアス様の言ったオートクチュールでは用意しなかった。
「そんなに嫌なら、ライアス様を俺が結婚式まで薬で眠らせましょうか?」
「それも考えたんだけどね……」
「冗談で言ったんですけど……」
それもやったことがある。何度目かのループでライアス様を結婚式まで薬で眠らせていた。その時は、結婚式でお父様が私とライアス様をそのまま亡き者にした。
ライアス様に隙があってもダメなのだ。
殺されると結婚式の前に戻るループ。早くこのループを終わらせて逃げたい。
ライアス様との結婚は、殺される運命しかないのだ。
「お嬢様、ライアス様がお探しですよ」
スノウの一言で我に返った。視線を上げれば、ライアス様が会場を歩き回っている。
洗練されたタキシードを着こなす彼は、周りの令嬢たちの視線を集めている。それに気づいているのか、気づいてないのか……あんなに歩き回って本気で私を探しているのだろう。
でも、デートをする気はないのよね。そもそも、どうしてあんなに一生懸命なのだろうか。
今回のループでは、ライアス様とデートなどしてないし、薬屋にきても素っ気ない感じにしていた。
でも、彼はそれよりも前から、ずっと親切だった。
なんか、おかしいです。
そもそも、そんな状態で私を口説こうとしているから、ライアス様的には私などどうでもいい気がする。他に何か理由があっただろうかと考えるが、まだ何もライアス様にしてないのだから気付くはずがない。
女性に困っているようには見えないのだけど……今も、私を探しながらも令嬢に声をかけられている。そして、こちらに首が動いた。
「スノウ……」
「はい。なんでしょう?」
ライアス様に、ローズだと気づかれないようにスノウの胸に寄り掛かった。
「バルコニーに連れて行って。今夜は私のパートナーでしょ」
「向こうは、探していますけど……」
「いいの。一緒に逃げるんでしょう」
「……もちろんですよ」
スノウに肩を抱かれて、ライアス様に見つからないようにそっとバルコニーに出た。
バルコニーは冷たい風が吹き、そのせいで誰もいない。
「お嬢様。寒くないですか?」
「いいの……」
冷たい風に晒されて、このまま結婚式前に消えてしまいたくなる。
父親のせいで滅茶苦茶な人生にうんざりしている。それにあがこうとしている自分が滑稽に感じる。
「まぁ、こんなところでお風邪を引かすわけにはいきませんので、とりあえず俺の上着を……」
要らないというのに、私の肩にかけようとスノウが上着を脱ごうとした瞬間、後ろから大きな手が伸びてきた。
その手に引かれて、後ろに倒れるように誰かの胸板に支えられた。
「ローズ。見つけた」
ライアス様の男らしい声が頭の上から聞こえる。
背後ろから、滅竜騎士と呼ばれるに相応しい逞しい腕で抱かれて包まれている。
「……ライアス様」
「なんだ。驚かないのか?」
「驚いてますけど……」
「反応が薄いんだが……それよりも、その男はなんだ? 男と来るのは看過できないんだが」
「一人で来るなんて一言も言ってませんよ」
「俺が誘ったのに、男と来る必要はないだろう……しかも、髪色まで変えて……」
「見つかりたくなかったので」
淡々と話す私にライアス様は、眉間にシワを寄せた。スノウは睨まれて困っている。
「でも、賭けは俺の勝ちだな」
「仕方ないですね……でも、すぐに帰りますからね」
「……色々突っ込みたいところはあるが……とりあえず、その男は下げてくれないか?」
ライアス様がスノウを睨むと、スノウは肩をすくませて私に聞いてくる。
「どうしますか?」
「私的には、一緒にいて欲しいんだけど……」
「俺的には、まったくいらん」
ムムッとライアス様と睨みあうが、今夜は必死で私を探していた。
「仕方ありませんね……今夜は私を一生懸命に探していらしたので、お望み通りにいたしますわ。約束もしましたし……」
「そういうことだ。君は下がってくれ」
「そうですね……では、帰りましょうか」
スノウが今夜の役目が終わってホッとしたように帰ろうとすると、その瞬間にオリビアさんがライアス様に飛び込んできた。
煌びやかな夜会は、シャンデリアが煌々と貴族たちを美しく照らしている。
こんな世界もある。
この中で、私は異物だ。
可愛らしく、もしくは美しく着飾る令嬢たちを見れば、私はあんな風に綺麗な表情も作れない。
泣きそうになる。
「お嬢様……泣きそうですよ」
私の後ろから、軽やかな声で耳元に話しかけられた。声の主は、ベラルド男爵家の従者スノウだ。
「うるさいですわ」
「それはすみません。でも、いいんですか? 俺と一緒に来て……」
「お父様には内緒よ」
「わかってます」
お父様には、夜会に来ていることなど言えない。何をするかわからないからだ。
今は、何事もなく上手くいっているはず。予想外なのは、ライアス様が私の元に通ってくることだけ……今までのループとまったく違う。どうしてなのかわからない。
でも、今度こそ生き残るためにはやり遂げるしかない。
そのために、何度も繰り返したループで手に入れた知識を使って白いスズランの品種改良にも成功した。
何世代も待てなくて、そのための成長を促す薬も作って完成させたのだ。
「それにしても、ライアス様はお嬢様を見つけられますかね」
「無理に決まっているわ」
「そんな変装までしてくるから……嫌ならお断りすればいいのに……どうせ結婚式まであと二日なのに……」
「だって……しつこいんだもの……」
いつものローズとわからないように、髪色を変える薬を使ってピンクにしてきた。
ドレスも万が一バレないように、ライアス様の言ったオートクチュールでは用意しなかった。
「そんなに嫌なら、ライアス様を俺が結婚式まで薬で眠らせましょうか?」
「それも考えたんだけどね……」
「冗談で言ったんですけど……」
それもやったことがある。何度目かのループでライアス様を結婚式まで薬で眠らせていた。その時は、結婚式でお父様が私とライアス様をそのまま亡き者にした。
ライアス様に隙があってもダメなのだ。
殺されると結婚式の前に戻るループ。早くこのループを終わらせて逃げたい。
ライアス様との結婚は、殺される運命しかないのだ。
「お嬢様、ライアス様がお探しですよ」
スノウの一言で我に返った。視線を上げれば、ライアス様が会場を歩き回っている。
洗練されたタキシードを着こなす彼は、周りの令嬢たちの視線を集めている。それに気づいているのか、気づいてないのか……あんなに歩き回って本気で私を探しているのだろう。
でも、デートをする気はないのよね。そもそも、どうしてあんなに一生懸命なのだろうか。
今回のループでは、ライアス様とデートなどしてないし、薬屋にきても素っ気ない感じにしていた。
でも、彼はそれよりも前から、ずっと親切だった。
なんか、おかしいです。
そもそも、そんな状態で私を口説こうとしているから、ライアス様的には私などどうでもいい気がする。他に何か理由があっただろうかと考えるが、まだ何もライアス様にしてないのだから気付くはずがない。
女性に困っているようには見えないのだけど……今も、私を探しながらも令嬢に声をかけられている。そして、こちらに首が動いた。
「スノウ……」
「はい。なんでしょう?」
ライアス様に、ローズだと気づかれないようにスノウの胸に寄り掛かった。
「バルコニーに連れて行って。今夜は私のパートナーでしょ」
「向こうは、探していますけど……」
「いいの。一緒に逃げるんでしょう」
「……もちろんですよ」
スノウに肩を抱かれて、ライアス様に見つからないようにそっとバルコニーに出た。
バルコニーは冷たい風が吹き、そのせいで誰もいない。
「お嬢様。寒くないですか?」
「いいの……」
冷たい風に晒されて、このまま結婚式前に消えてしまいたくなる。
父親のせいで滅茶苦茶な人生にうんざりしている。それにあがこうとしている自分が滑稽に感じる。
「まぁ、こんなところでお風邪を引かすわけにはいきませんので、とりあえず俺の上着を……」
要らないというのに、私の肩にかけようとスノウが上着を脱ごうとした瞬間、後ろから大きな手が伸びてきた。
その手に引かれて、後ろに倒れるように誰かの胸板に支えられた。
「ローズ。見つけた」
ライアス様の男らしい声が頭の上から聞こえる。
背後ろから、滅竜騎士と呼ばれるに相応しい逞しい腕で抱かれて包まれている。
「……ライアス様」
「なんだ。驚かないのか?」
「驚いてますけど……」
「反応が薄いんだが……それよりも、その男はなんだ? 男と来るのは看過できないんだが」
「一人で来るなんて一言も言ってませんよ」
「俺が誘ったのに、男と来る必要はないだろう……しかも、髪色まで変えて……」
「見つかりたくなかったので」
淡々と話す私にライアス様は、眉間にシワを寄せた。スノウは睨まれて困っている。
「でも、賭けは俺の勝ちだな」
「仕方ないですね……でも、すぐに帰りますからね」
「……色々突っ込みたいところはあるが……とりあえず、その男は下げてくれないか?」
ライアス様がスノウを睨むと、スノウは肩をすくませて私に聞いてくる。
「どうしますか?」
「私的には、一緒にいて欲しいんだけど……」
「俺的には、まったくいらん」
ムムッとライアス様と睨みあうが、今夜は必死で私を探していた。
「仕方ありませんね……今夜は私を一生懸命に探していらしたので、お望み通りにいたしますわ。約束もしましたし……」
「そういうことだ。君は下がってくれ」
「そうですね……では、帰りましょうか」
スノウが今夜の役目が終わってホッとしたように帰ろうとすると、その瞬間にオリビアさんがライアス様に飛び込んできた。
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