毒はお好きですか? 浸毒の令嬢と公爵様の結婚まで

屋月 トム伽

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ノルディス公爵邸。その書斎に、執事のノーグと副執事のダリルと話していた。

「ベラルド男爵の動きはどうだ?」
「何もありません。未だに姿一つ見せません。諦めたのでしょうか?」

執事のノーグは、お茶を淹れながらそう言った。

でも、そうは思えない。ベラルド男爵は、我がノルディス公爵家の一門である男爵家の一つ。

彼は、父上にノルディス公爵位を奪われて憤っていた。

その彼を何とか鎮めるために出した条件が、ノルディス公爵家とベラルド男爵家に男女の子供が生まれれば婚姻をさせるものだった。

ベラルド男爵は母上を好いていたから、余計に父上が憎らしかっただろう。

でも、母上は幼い頃より父上を好いていた。

その父上に似た俺とベラルド男爵の娘と結婚すれば、ますます爵位が遠ざかるのに、素直に結婚させるとは思えなかった。

「ライアス様と結婚させて、実権はベラルド男爵家が持つつもりで、ノルディス公爵位は諦めたのでしょうか?」

「それで満足する男とは思えないんだけどな……それに……」

副執事のダリルが、報告書を出しながら言う。
報告者には、ベラルド男爵のことが書かれているが、彼に不審な点はない。

ノルディス公爵家は、陛下の側近を代々勤めている信頼の厚い家。過去には王族が嫁いだこともある由緒正しい家柄だった。

そのノルディス公爵位を諦めるとは思えなくて、彼の動向を見張らせているのに、ベラルド男爵には何の動きもないどころか姿さえ見せないのだ。

これでは、今までと同じになってしまう。

どうしたものかと思うが、証拠もなく今は何もできない。
毒殺されることを恐れて、どんなものにでも効く解毒剤の精製をローズの薬屋に頼んだが……体調が悪そうだったローズが思い浮かぶ。

「ノーグ、何か栄養のあるスープか何かを準備しておいてくれるか?」
「かまいませんが……また、あの森の薬屋に?」
「何か問題があるか?」
「オリビア様のお機嫌が……」
「オリビアは、ほおっておけ。彼女とは結婚する気はないと伝えている。俺はベラルド男爵と父上との約束を反故にする気はない。どんな理由があってもだ」

周りには、父上同士の確執から出来た約束を果たす必要はないと何度も言われた。
それでも、彼らの名誉の為にも約束を反故にする気はない。だが、素直に甘んじる気もない。

「解毒剤の進み具合を確認に行くから、急いでスープを準備してくれ。あと何か、食べ物も頼む」
「かしこまりました。野菜たっぷりの栄養のある田舎風のスープとパンも準備しておきます。果実のシロップ漬けも持って行きますか?」
「それは良いな。保存もできるし、体調が悪い時に柑橘系はいいかもしれない」

何か欲しいものはないかと聞いても、ローズは何もねだらない。彼女は何も欲しがらないのだ。

それでも、彼女に少しでも喜んで欲しくて栄養のある食事を準備していた。






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