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第一章 

お誘い

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リヒト様は、朝まで離してくれず、彼の腕の中で目が覚める。
気に入られているのかどうかも不明だ。嫌われていないだろうけど、私を必要としているのはお互いの体質のせいだ。
だから、彼の寵が私にあるわけではない。

眠気が薄くなると、私の頭を優しく撫でていることに気づきおそるおそる眼を開く。
隣には、上半身裸のリヒト様が片膝を立てている。身体は傷だらけだ。
魔力が溢れているから、常時魔力が安定してないのだろう。魔力が安定してないということは、魔法が効きにくいのだ。そのせいで、癒しの魔法も効きにくいのだと思う。

やっぱり苦労している。私よりも遥かに苦労人だ。

「一緒に眠ると、身体は落ち着きますか?」
「そうだな……嫌なのか?」
「緊張します」
「そのわりには、よく眠っていたが?」

ううっ……すみません。神経太くて。

「もしかして、ずっと見てましたか?」
「女と寝るのは初めてだからな。よく寝るものだと思って……」
「寝所を共にしていたのでは?」
「一晩共にした女はいない。溢れた魔力に耐えられず失神してしまうからな」

そのせいで、人を周りに付けてないらしい。確かに、失神するほどの魔力なら、一緒にはいられないだろう。

私の異常な魔法の核と違って、リヒト様のものは壊れているのだから、なんとか治せないのだろうかと考えてしまう。顎に手を当てて考え込んでいると、名前を呼ばれ、顔を上げようとすると、それよりも先にリヒト様に顎を上げられた。
唇を取られると、思わず息が止まる。後頭部をしっかりと支えられて身動きも取れない。

「……っ」

微かに息が漏れると、言葉にすらならない。

「……リーゼ。昼から、一緒に出掛けないか?」
「わ、私とですか?」

離れた口元を抑えながら聞き返した。頬も熱くて顔全体を隠したくなる。

「買い物に行きたいとリックに言っていたんだろう? 忍びで行かないか? 街にも出られなかったから、詳しくはないが……」
「街の様子が見たいのですか?」
「それもあるが、リーゼと行きたい。好きなものを買ってやるぞ?」

この体質のせいで、街にも出られなかったらしい。私と一緒なら、魔力が溢れても問題はないのだ。そう思うと、買い物のお供ぐらいは付き合いたい。

「そういうことでしたら、お供いたします」
「お供ではないが……まぁいい。午後にはリックに迎えに行かせるから、支度をしておいてくれ」
「はい。楽しみですね!」



お忍びでと言ったから、地味な町娘のような服装で支度を整えた。
買うものもメモして、準備万端で待っていると嬉しそうな様子のリックが迎えに来た。
リヒト様が街にも出られなかったから、私のおかげで出かけられることが嬉しいらしい。

後宮を出ようとすると、女官長が「貴族らしからぬ格好で……」と見送りに出ている。

「女官長。よければ、なにか買って来ましょうか?」
「けっこうです。シエラ様のものは、リヒト殿下が全てお買い物になりますから」
「そうなの?」
「リヒト殿下の特別は、シエラ様ただ一人ですわ。どうぞごゆっくりリック隊長とお出かけください」

フンッとした女官長に見送られて後宮を出ると、リックが「気にしないでくださいね」と慰めようとしてくる。

「……女官長の言っていることは本当なのね?」
「本当です。シエラ様の生活全てはリヒト様がみています」
「そう……でも、大丈夫よ」

私は、リヒト様の体質に必要なだけ。
そのまま、マントのフードを被り、リックに連れられて行くと、リヒト様が馬車の側で待っていた。

服装は地味なのに、顔が良すぎて全く地味に見えない。何というか不思議なオーラを感じる。威圧的な表情のせいかもしれない。

リックは、「お気を付けくださいませ」と言って見送る。

「リックは、一緒じゃないの?」
「俺は留守番です。こう見えても仕事はあるんですよ」

笑顔で返された。
リックが一緒ではないということは、この怖い顔と街を歩くのだろうかと緊張してきた。

「リーゼ」

リヒト様が手を差し出してくる。その手にそっと乗せると馬車へとエスコートしてくれる。
お忍びだから、家紋もなにもない馬車に乗り込み無表情のリヒト様と街へと馬車は進み始めた。











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