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第一章
ワケあり王太子殿下
しおりを挟む「俺と同じように壊れているということか?」
「壊れているというか、私の魔法の核は魔力をほとんど自分で回復できないのです。だから、外から魔力を吸収しないと魔法は使えません。そうしないと、身体が弱るので……」
「ということは……」
「リヒト様の溢れている魔力を私が自然と吸収していたということです」
リヒト様は、ずっと考えていたようでやっと疑問が明らかになった様子だ。
「やはり、リーゼのおかげか……それでリーゼは倒れることもなかったのだな。魔力を吸収しすぎるということはないのか?」
「そこまでやったことはないので分かりませんが……本当に私には、魔力が回復できないと言ってもいいほど自分ではほぼ回復しないのです。だから、魔法を使えば魔力の回復をしないといけなくて……」
「なら、俺の魔力を吸収してくれ。どれだけ吸収してくれてもかまわない。もちろんリーゼの無理のないようにだが……」
「それはかまいませんが……」
そう言って、またキスをしようとしてくる。真剣な眼差しで、改めてこの顔が近づいて来ると慌ててしまう。それに、どうしてキスの流れになるのか。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「魔力を吸収してくれるんじゃないのか?」
「しますけど! どうして、キスしようとするんですか!?」
「いつもキスをした後に、身体が落ち着くんだが?」
それは、ちょっと違う気がする!!
「大丈夫です! 普通に触れるだけでも吸収はできますから!!」
「そうなのか?」
「そうです!」
「では、頼む」
わかりましたと言って、彼と手を繋ぐ。緊張する。魔力を吸収するのに、未だかつてこんなに緊張したことなどない。
心を落ち着かせようと、深呼吸をして魔力を吸収すると、彼の魔力が身体に流れるのがわかった。
「リーゼは、俺の魔力浴びても何ともないのか?」
「むしろ私は、魔力が足りない状態に陥りやすいので助かりますけど……? 何かあるのですか?」
「女も男も、この魔力を浴びると倒れてしまう。だから、魔力を吐いた後にしか人には会えない」
だから、定期的に女を召す事で魔力を吐いていた。そうしないと、仕事どころか日常生活にも支障が出ているのだ。それだけでなく、外に魔物退治にも率先として言っているらしい。それも、魔力を吐きだすことにも役立っている。
それほど、強烈な魔力だ。今も吸い上げているのに、彼は弱体化する様子もない。私よりも遥かに魔力量が多い。
「……結婚をしないのは?」
「これでは、誰といても、そうもたないだろう。それに、結婚ぐらいは好きな女としたい」
それは、シエラ様と結婚するということだろうか。彼女は足が悪いようだし、リヒト様はこの魔力過多とも言える状態だから、彼女に負担をかけられずに結婚しないのだ。
そう思える。きっとそうだ。
「……随分楽になった。これだけで何日ももちそうだ」
「私も助かります」
「いつもはどうやって魔力を回復していたんだ?」
「植物とかです。でも、今は妖精の弓がありますから、それで魔力の回復をしています」
そういえば、もって寝ていたはずの妖精の弓はどこに?
「私の弓は……?」
「あぁ、あの弓か? 弓を持って寝ている女性など初めて見たが……そのためだったか」
リヒト様がずらした視線を追うと、ベッドの側には私の妖精の弓が置いてあった。その横には、大きな水晶が置いてある。魔道具や魔法の武器に使われるような水晶だ。
なんだろうと思うとリヒト様が察したように話してくれる。
「あの魔水晶でも魔力を吸収していたのだが、俺は魔法が使えないから、効率よく魔力を吸収できなくてな……溢れた魔力が部屋に充満しているものを吸収するぐらいで、あまり俺には効果がないんだ」
色々試したのだろう。苦労していたのが伺える。
こんな状態の身体で公務することこと自体大変だと思う。
だから、女性をずっと召していた。
「リーゼ。助かった。感謝する」
「は、はい」
手を離すと、リヒト様が抱き寄せて来る。
「土産も買ってきた。朝食にその茶も出すようにしている」
「はい。楽しみです」
「では、すぐに持って来させる」
「ここに!?」
「そんな姿を見せたくない。食堂に行く必要はない」
いや、でしたら、私の服を持って来させてください。
そう言う前に、リヒト様がサーヴァントベルを鳴らすと、準備はいつでもできていたのか、すぐに朝食が部屋へと運ばれた。
朝食に出されたリヒト様のお土産のお茶を飲むと美味しかった。ドライフルーツも入っており香りが凄く良かった。
彼は、感謝したまま、表情は堅いけどどこか穏やかだ。
その後には、後宮の私が住んでいる離宮へと送ってくれる。しかも、リヒト様の大きなマントをすっぽりと被せられて。ナイトドレス姿を見せてはいけないのはわかるけど……離宮に着くと、名残惜しそうにキスをされる。よくわからない人だ。
苦労しているようだし、魔力を吸収できる人間が現れたから、安堵したのだろうか。わからない。
人から魔力を吸収できる人間なんてそういない。私でさえ、妖精がこの魔法を教えてくれなかったら、そんなことは出来なかった。
でも……リヒト様が私を気にする理由がわかった。私が気に入っているのではない。
彼は、日常生活に支障が出るほどの魔力過多に困っていたからだった。
一縷の望みをかけ、私はその予想通りのことをしただけだ……。
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