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序章
唯一の王女
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け、結婚……!?
思わず、目が飛び出しそうになり、ソファーに座ったまま後ずさりしてしまう。
「いやぁ、本当に良かった。リーゼは可愛いし、図らずも婚約破棄されたから何の問題もない。そう思わないか? グレン」
部屋に控えている近衛騎士をグレンと呼び、彼に同意を求めるルーセル殿下はご機嫌だった。
「ルーセル様。リーゼ様が驚いていますよ。もっと、キチンと説明をなされてください」
「あ、あの……っ」
口がパクパクと自覚なく開いている私に、グレン様は同情している。
「ル、ルーセル殿下……」
「ルーセルでいいよ。私たちは従姉妹同士だ。気を遣う必要はない」
「で、ではっ、ルーセル様! 私と結婚するために探していたんですか!? 確かにルーセル様なら、良い縁談ですけど……! 私に王太子様との結婚なんて……!?」
私が王族の血を引いている事が判明したばかりで、いきなり結婚なんて!?
声音が上昇すると、ルーセル様とグレン様が顔を見合わす。グレン様は呆れ顔だ。
「勘違いしている?」
「いきなりあんな伝え方をすれば勘違いします!」
飄々としたルーセル様に、グレン様が力いっぱい言う。
勘違い!? どこら辺が!?
「リーゼ。落ち着いて聞いて欲しい」
「は、はい!」
落ち着くのは無理ですけど!
「結婚して欲しいのは、私ではない」
「で、では、誰と……? まさか……」
まさか、グレン様と?
彼を見ると、心の声を読まれたように「違います!」と思いっきり否定された。
「結婚して欲しいのは、隣国エクルースの王太子とだ」
エクルース国の王太子と!?
あの冷酷非情と言われたエクルース国の王太子!?
何でですか!?
だから、今しがた私が王女だと判明したばかりですけど!!
「無理です!!」
「でも、王女はリーゼしかいないんだ。私は男で、しかも王太子だから、嫁ぐわけにもいかないし……」
当たり前だ!
悩む素振りさえ白々しい。
「悪い話ではないだろう? 隣国とは言え、エクルース国は我が国よりも大国だ。王太子のリヒトは、文武両道で容姿も目を引くものがある」
「それに、冷酷非情という噂もついていますけど……」
「知っていたのか? でも、リーゼは敵ではないから、問題はないよ」
冷酷非情を省いて結婚させるつもりだったのが、ありありとわかる。
ルーセル様のこの表情は、そんな顔だ。
「ルーセル様が女装していかれたらどうですか? 美人だからきっといけますよ」
「君は何を言っているんだ? 確かに私は見目麗しいとは言われているけど、私とリヒトが結婚しても跡継ぎができないだろう。それに、陛下の子は私一人だ」
迫力のある笑顔でルーセル様が話を迫ってくる。怖い。グレン様に助けを求めようとしても、視線が合うと一瞬で目を反らされてしまった。
うぅ……、薄情者。
「リーゼ。これは、決定事項だ。王女リーゼは、すぐに隣国エクルース国に行ってもらう」
「拒否権の行使はありますか?」
「ない」
やはり……。
これでもかというほどの黒い笑顔で、ハッキリと言われてしまった。
「そう落ち込むな。もし、リヒトがリーゼを気に入らなく結婚出来なくとも、後宮に居ればいい。それだけで、我が国は安泰だ」
「人質じゃないですか」
「ちょっと違う。そもそも、エクルース国に人質をとるメリットはないしね。しかし、エクルース国とは同盟を強めたい。あの国は、竜騎士がいるから移動がどの国よりも早いが、我が国は違う。だが、我が国の王女がいれば、どの国よりも同盟が強まることは明白だし、その恩恵に預かりたい」
「それは、エクルース国の属国になるということでは……?」
「我が国にも王族がある。だから、エクルース国に支配されるつもりはない。だが、あの国はどこの国も同盟を結びたがっている。竜騎士団は、大陸一と言われているし、商業も我が国よりも発展している。それに……」
政治的な思惑も、多々あるのだろうけど……王女になったばかりの私に何ができるというのか。問題しか感じない。
「リヒトが縁談に困っていてだな……我が国からの王女なら、そう邪険にもできないだろう」
「あの……その冷酷非情の王太子様は、ご友人ですか?」
親しみのある呼びなれたような「リヒト」というルーセル様に、聞きたくないけど聞いてみた。
「リヒトは、友人だよ。結婚願望のない奴だから、手を貸してやりたくてね」
「それは、ルーセル様の都合だけですよね?」
「リーゼ」
「は、はい」
笑顔なのに、青筋が浮き出ているようにさえ見えて、ビクついてしまう。
「『妖精の弓』は無事に帰って来たのは誰のおかげかな?」
「ルーセル様のおかげです……」
「婚約破棄もされているし、君にとって悪い縁談ではないだろう? あのエクルース国の王太子との縁談だ」
「結婚できなかったらどうするのですか? 自慢ではありませんが、私は地味です」
「後宮に居ればいいし、どうしてもそこにもいられないなら帰って来てもかまわない。もちろん、帰国後は私がリーゼを守ろう。君が王女なのは、変わらないのだからね」
結婚できなかったことのことまで、考えているとは……。
それでも、エクルース国に行くことが前提なのですね。でも……
「いざとなったら、側室でもいいということですか?」
「かまわないよ。私も時々会いに行こう」
「サラッと嘘をつかないでください。時々会いに来られる距離ではないですよね」
エクルース国は、海ほど大きな広大な湖に囲まれた国だ。船でないとベルハイム国からは行けない。もしくは、エクルース国とベルハイム国の間にある妖精の森と言われる森を超えるしかないのだ。でも、妖精の森は迷いの森と呼ばれていて、人では越えられない。
「では、エクルース国に出立するための結婚の準備に入ろう」
「結婚は、気に入られたら! ですよね!?」
「ドレスもすぐに準備させよう。リーゼは何色が似合うかな」
「いや……っ、ちょっと待ってください……っ」
「リーゼ。行ってくれるね?」
ルーセル様は、声音を強め、腹黒くて冷ややかな笑顔を見せる。その威厳に満ちた圧力に小さく引け腰で「はい……」と返事をした。嫌でも、それしか返事がでなかったのだ。怖い。
そして、ルーセル様はご機嫌で私の支度の手配をするといって退室していった。
「リーゼ様。諦めてください。ルーセル様は、性が妖精のようなつかみどころのない方なのです。行動力はあるんですけどね……」
「……怒らせてはいけない圧力を感じました」
恐ろしい行動力だ。私を探し出して、あっという間に結婚を決めるとは……。
いや、押し付けられた感が強いと思うのは私だけだろうか。
残された私に、グレン様が憐みの眼を向けていた。この一週間後には、私はベルハイム国を出発することになってしまった。
思わず、目が飛び出しそうになり、ソファーに座ったまま後ずさりしてしまう。
「いやぁ、本当に良かった。リーゼは可愛いし、図らずも婚約破棄されたから何の問題もない。そう思わないか? グレン」
部屋に控えている近衛騎士をグレンと呼び、彼に同意を求めるルーセル殿下はご機嫌だった。
「ルーセル様。リーゼ様が驚いていますよ。もっと、キチンと説明をなされてください」
「あ、あの……っ」
口がパクパクと自覚なく開いている私に、グレン様は同情している。
「ル、ルーセル殿下……」
「ルーセルでいいよ。私たちは従姉妹同士だ。気を遣う必要はない」
「で、ではっ、ルーセル様! 私と結婚するために探していたんですか!? 確かにルーセル様なら、良い縁談ですけど……! 私に王太子様との結婚なんて……!?」
私が王族の血を引いている事が判明したばかりで、いきなり結婚なんて!?
声音が上昇すると、ルーセル様とグレン様が顔を見合わす。グレン様は呆れ顔だ。
「勘違いしている?」
「いきなりあんな伝え方をすれば勘違いします!」
飄々としたルーセル様に、グレン様が力いっぱい言う。
勘違い!? どこら辺が!?
「リーゼ。落ち着いて聞いて欲しい」
「は、はい!」
落ち着くのは無理ですけど!
「結婚して欲しいのは、私ではない」
「で、では、誰と……? まさか……」
まさか、グレン様と?
彼を見ると、心の声を読まれたように「違います!」と思いっきり否定された。
「結婚して欲しいのは、隣国エクルースの王太子とだ」
エクルース国の王太子と!?
あの冷酷非情と言われたエクルース国の王太子!?
何でですか!?
だから、今しがた私が王女だと判明したばかりですけど!!
「無理です!!」
「でも、王女はリーゼしかいないんだ。私は男で、しかも王太子だから、嫁ぐわけにもいかないし……」
当たり前だ!
悩む素振りさえ白々しい。
「悪い話ではないだろう? 隣国とは言え、エクルース国は我が国よりも大国だ。王太子のリヒトは、文武両道で容姿も目を引くものがある」
「それに、冷酷非情という噂もついていますけど……」
「知っていたのか? でも、リーゼは敵ではないから、問題はないよ」
冷酷非情を省いて結婚させるつもりだったのが、ありありとわかる。
ルーセル様のこの表情は、そんな顔だ。
「ルーセル様が女装していかれたらどうですか? 美人だからきっといけますよ」
「君は何を言っているんだ? 確かに私は見目麗しいとは言われているけど、私とリヒトが結婚しても跡継ぎができないだろう。それに、陛下の子は私一人だ」
迫力のある笑顔でルーセル様が話を迫ってくる。怖い。グレン様に助けを求めようとしても、視線が合うと一瞬で目を反らされてしまった。
うぅ……、薄情者。
「リーゼ。これは、決定事項だ。王女リーゼは、すぐに隣国エクルース国に行ってもらう」
「拒否権の行使はありますか?」
「ない」
やはり……。
これでもかというほどの黒い笑顔で、ハッキリと言われてしまった。
「そう落ち込むな。もし、リヒトがリーゼを気に入らなく結婚出来なくとも、後宮に居ればいい。それだけで、我が国は安泰だ」
「人質じゃないですか」
「ちょっと違う。そもそも、エクルース国に人質をとるメリットはないしね。しかし、エクルース国とは同盟を強めたい。あの国は、竜騎士がいるから移動がどの国よりも早いが、我が国は違う。だが、我が国の王女がいれば、どの国よりも同盟が強まることは明白だし、その恩恵に預かりたい」
「それは、エクルース国の属国になるということでは……?」
「我が国にも王族がある。だから、エクルース国に支配されるつもりはない。だが、あの国はどこの国も同盟を結びたがっている。竜騎士団は、大陸一と言われているし、商業も我が国よりも発展している。それに……」
政治的な思惑も、多々あるのだろうけど……王女になったばかりの私に何ができるというのか。問題しか感じない。
「リヒトが縁談に困っていてだな……我が国からの王女なら、そう邪険にもできないだろう」
「あの……その冷酷非情の王太子様は、ご友人ですか?」
親しみのある呼びなれたような「リヒト」というルーセル様に、聞きたくないけど聞いてみた。
「リヒトは、友人だよ。結婚願望のない奴だから、手を貸してやりたくてね」
「それは、ルーセル様の都合だけですよね?」
「リーゼ」
「は、はい」
笑顔なのに、青筋が浮き出ているようにさえ見えて、ビクついてしまう。
「『妖精の弓』は無事に帰って来たのは誰のおかげかな?」
「ルーセル様のおかげです……」
「婚約破棄もされているし、君にとって悪い縁談ではないだろう? あのエクルース国の王太子との縁談だ」
「結婚できなかったらどうするのですか? 自慢ではありませんが、私は地味です」
「後宮に居ればいいし、どうしてもそこにもいられないなら帰って来てもかまわない。もちろん、帰国後は私がリーゼを守ろう。君が王女なのは、変わらないのだからね」
結婚できなかったことのことまで、考えているとは……。
それでも、エクルース国に行くことが前提なのですね。でも……
「いざとなったら、側室でもいいということですか?」
「かまわないよ。私も時々会いに行こう」
「サラッと嘘をつかないでください。時々会いに来られる距離ではないですよね」
エクルース国は、海ほど大きな広大な湖に囲まれた国だ。船でないとベルハイム国からは行けない。もしくは、エクルース国とベルハイム国の間にある妖精の森と言われる森を超えるしかないのだ。でも、妖精の森は迷いの森と呼ばれていて、人では越えられない。
「では、エクルース国に出立するための結婚の準備に入ろう」
「結婚は、気に入られたら! ですよね!?」
「ドレスもすぐに準備させよう。リーゼは何色が似合うかな」
「いや……っ、ちょっと待ってください……っ」
「リーゼ。行ってくれるね?」
ルーセル様は、声音を強め、腹黒くて冷ややかな笑顔を見せる。その威厳に満ちた圧力に小さく引け腰で「はい……」と返事をした。嫌でも、それしか返事がでなかったのだ。怖い。
そして、ルーセル様はご機嫌で私の支度の手配をするといって退室していった。
「リーゼ様。諦めてください。ルーセル様は、性が妖精のようなつかみどころのない方なのです。行動力はあるんですけどね……」
「……怒らせてはいけない圧力を感じました」
恐ろしい行動力だ。私を探し出して、あっという間に結婚を決めるとは……。
いや、押し付けられた感が強いと思うのは私だけだろうか。
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