上 下
45 / 69
第3章 帰還編

登城

しおりを挟む
「それにしても、変ですね」
「そうだな……」

城に戻る前に、ニール殿下が滞在しているという伯爵家に行ったが、今はニール殿下は城に入れないくらい、王妃様のどす黒いモヤモヤがあるらしい。

旦那様とロウさんがいうには、以前は陛下の部屋しか王妃様の亡霊はいなかったらしいが、今は何故か城中にモヤモヤがあるらしい。

そして、城に入るのに最初は止められたが、旦那様は公爵様でしかもニール殿下と陛下から要請を受けて来たことで、何とか入ることができた。

それでも、旦那様がヘルハウスの当主だと知っている城の警備たちは旦那様のせいだと思っているのか、不気味なものを見るように私たちを見ている。
確かにお化けを起こしたのは旦那様だけど、王妃様の亡霊には関係ない。
旦那様とロウさんは気にする様子もなく歩き、私は旦那様の腕を離さずに歩いた。

私のせいでお化けを起こしたのだから、私が堂々と出来ないと旦那様に申し訳なくなる。

「リーファ、大丈夫か?」
「はい。旦那様がいますから」
「クローリー家に正式に仕事の依頼がきてますから、ガイウス様とリーファ様を捕らえることは出来ませんよ。ですから、ご安心ください」

どす黒いモヤモヤのせいで、異様な空気の中進むと、高齢な二人が走ってやって来た。後ろには護衛までいる。
いかにも、高官らしい装いに城のお偉いさんだと思う。

「クローリー公爵! よく来てくれました!」
「どうか陛下を……!」

旦那様がお化けを起こしたことは不問にするからと、懇願するように二人は必死だった。
その間にロウさんはコソリと、この二人は宰相様と、陛下の側近の城の高官だと教えてくれた。

二人は、今陛下に崩御されては国が乱れ、争いが起こることを懸念しており、何としても助けて欲しいらしい。
今は、ニール殿下は城に入れず、滞在している伯爵家でも床に臥せりだし、アーサー様はほとんど部屋から出てこない。
たまに出て来ても、どこかボッーとしているらしい。

「きっと、あの小瓶のせいです……」

城に来る前にあのピンクの小瓶の匂いを嗅いだのだ。
小瓶の中は、凝縮された液体だったのか、開けただけで匂いはあった。
その匂いは、アーサー様から時々匂っていた甘い匂いだった。

「アーサー様はどうしていますか?」
「あなたがリーファ・ハリストンですか?」
「リーファ・クローリーです……」

私は、もうハリストンではない。
旦那様の妻だと、言うように二人の高官を見て言った。

「失礼しました……アーサー様は、ほとんど部屋から出ずに我々もどうしていいのか……キャシー様しか、入れないのです。もしかしたら、あなたなら、アーサー様も部屋に入れてくださるかもしれません」

キャシー様はきっとアーサー様に何か盛っていたのだ。
ロウさんは、匂いを嗅いだ時に魅了の薬に似ていると言っていたけど、私たちはキャシー様に魅了がかかっているとは思えなかった。

もしキャシー様に魅了がかかっているなら、私にあんなに執着するとは思えない。

「旦那様と一緒なら、アーサー様とお会いします。……旦那様、どうか一緒に行ってくださいますか?」
「当然だ。一人で行かせるつもりはない」

今もキャシー様はアーサー様といるらしく、誰も部屋に入れないらしい。
高官二人は、こんなことなら、私とアーサー様の仲を認めれば良かったというけれど、私たちは恋人だったこともない。

「アーサー様はお助けしたいとは思いますが、どうか、私をアーサー様に差し出さないでください。でなければ、お会いすることは出来ません」
「リーファを差し出すつもりなら、協力はしない。今は王家の一大事ではないのか?」
「……わかりました。約束致します」

重い顔の高官たちと、アーサー様の部屋に向かうと、どす黒いモヤモヤは益々濃くなっていた。



しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

再会した彼は予想外のポジションへ登りつめていた【完結済】

高瀬 八鳳
恋愛
お読み下さりありがとうございます。本編10話、外伝7話で完結しました。頂いた感想、本当に嬉しく拝見しました。本当に有難うございます。どうぞ宜しくお願いいたします。 死ぬ間際、サラディナーサの目の前にあらわれた可愛らしい少年。ひとりぼっちで死にたくない彼女は、少年にしばらく一緒にいてほしいと頼んだ。彼との穏やかな時間に癒されながらも、最後まで自身の理不尽な人生に怒りを捨てきれなかったサラディナーサ。 気がつくと赤児として生まれ変わっていた。彼女は、前世での悔恨を払拭しようと、勉学に励み、女性の地位向上に励む。 そして、とある会場で出会った一人の男性。彼は、前世で私の最後の時に付き添ってくれたあの天使かもしれない。そうだとすれば、私は彼にどうやって恩を返せばいいのかしら……。 彼は、予想外に変容していた。 ※ 重く悲しい描写や残酷な表現が出てくるかもしれません。辛い気持ちの描写等が苦手な方にはおすすめできませんのでご注意ください。女性にとって不快な場面もあります。 小説家になろう さん、カクヨム さん等他サイトにも重複投稿しております。 この作品にはもしかしたら一部、15歳未満の方に不適切な描写が含まれる、かもしれません。 表紙画のみAIで生成したものを使っています。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

処理中です...