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第一章 ヘルハウス編
料理人は普通の人
しおりを挟む書斎に行くと、ロウさんと救出した料理人さんが座って待っていた。
ロウさんの隣に座る料理人さんはジェフさんと言うまだ20歳代中頃の若い男性だった。
短い髪のせいか、顔は殴られた痕が残っているのがわかる。
アーサー様の邸で料理にお菓子と頂いていたのに、私達は初対面でお互いに挨拶を交わした。
「あの…その痕は?」
「………」
「…アーサー様に随分痛め付けられたみたいですよ。乱暴な私兵でしたね」
言いにくそうに言葉を飲み込んでいたジェフさんの変わりに、ロウさんが話した。
身体も痛そうで、服の見えないところもきっと痣だらけのように見える。
こんな痛々しい八つ当たりに益々アーサー様に嫌悪が募る。
「私のせいで…でも逃げて来られて本当に良かったです…ロウさんも無事で良かったです」
「私兵ごときに遅れはとりません」
「片付けたのか?」
「然るべき対処をしただけですよ」
どんな対処をしたかわからないけど、無事に救出出来て本当に良かった。
「リーファ様が気にすることはありません。それと、今朝の新聞がポストにありましたがまだ見てないのでは?」
ずっと私は寝てましたからね。
新聞がそのままだから、旦那様もずっと部屋にいたのだろう。
ロウさんに渡された新聞を見て、旦那様が私に渡して来た。
「…これ…本当ですか!?」
「恐らく間違いないかと…」
新聞には、アーサー様の結婚の見出しがあった。
結婚相手は婚約者候補の一番有力だと言われていた公爵令嬢のキャシー様だ。
結婚するということは、私を諦めて下さったのだろうか。
そうだと良い。
しかも、王族の結婚だから、新聞はきっと嘘は書けないはず。
アーサー様のいきなりの結婚に一抹の不安はあるが、結婚するなら良い知らせのはず。
今は、私のせいで大変な目にあったジェフさんを休ませてあげたかった。
ジェフさんはずっと牢に入れられていたようでやっと安心したように柔らかいベッドで休み、凄く感謝をしてくれた。
ロウさんがいつ戻ってもいいように、料理人さんのベッドを準備しておいて良かったとホッとした。
翌日からは、ジェフさんと少しずつ料理をした。
まだ、本調子じゃないからゆっくり休ませてあげたかったが、やはり料理は好きなようで厨房でいつも仕事をしている。
そして、ジェフさんもお化けに驚く。
やはり、これが普通の反応だと納得する。驚かないのはきっと旦那様とロウさんだけだと思う。
私とジェフさんは仲間意識が芽生えたような感じだった。
腕の痣も少しずつ取れたようで、痛みはほとんどないとジェフさんは話してくれた。
「ロウさんが、明日からパンも捏ねていいと言いましたから、張り切って作りますよ」
「楽しみです!旦那様はクイニーアマンがお好きみたいですから、今度教えて下さい」
「では、明日一緒に作りましょう。クイニーアマンなら作れますよ」
朝早くから、ジェフさんと和やかに話しながら厨房に立ち、一緒に朝食の支度をしていると、旦那様が厨房の前の廊下を歩いていた。
まだ寝ていたはずなのに、こんな朝から何をしているのだろうかと思う。
「旦那様?どうされました?」
「墓場でお化けが暴れているらしいから、ちょっと行って来る」
ギルバード卿が墓場を散歩中に見つけたらしく、旦那様に報告に来たらしい。
それでロウさんの起こされたのだと。
でもここは階下の厨房ですよ?玄関は一階ですが…。
「旦那様、階下にご用がありますか?」
「地下に隠し通路があるんだが…丁度いい。リーファもジェフもこの邸で過ごすなら知っておきなさい」
隠し通路…何だか怖い予感がする。
旦那様に連れて行かれた地下は階下の厨房よりもう一つ下の階に降りた。
階下の奥の部屋の床を開けると下階段が現れて、旦那様の背中にしがみつき、ひんやりとした階段をおりた。
真っ暗の階段だが旦那様が手の平に人魂みたいな火を出し、それを灯り替わりに進んだ。
降りた所には棺桶が適当に何個も並んでいる。
そして壁に立てかかっている棺桶の蓋を旦那様がずらすように開けた。
この棺桶にもゾクゾクとし、やっぱりこのヘルハウスは怖い。
「ジェフさん…怖くないですか?」
「すいません…俺も怖いです…」
「ですよね…」
やっぱりこれが普通の反応です。
ジェフさんとビクビクしていると、旦那様がここが隠し通路だ。と言って来た。
「この隠し通路から墓守の家と、もう一つ街のクローリー家所有の家に通じている。何かあればここから出ればいい」
こんな真っ暗の棺桶の中に入れる自信がない。
ジェフさんもサーッと青ざめている。
「何もない事を祈ります…」
「近道になるから便利だぞ」
「旦那様かロウさんがいないと使える自信がありません」
「すいません…俺も…」
隠し通路の何が怖いんだ?と旦那様は普通だった。
「朝食には戻るから、待っててくれるか?」
「はい。一緒に頂きましょう。…旦那様、いってらっしゃいませ」
「すぐに帰る」
そう言って旦那様に頬に軽くキスをされた。
きっと私と一緒に朝食を摂る為に近道を通るのだと思う。
旦那様は手の平の灯りを掲げたまま棺桶の中に進んで行った。
そして旦那様の灯りが小さくなると、私とジェフさんは青ざめる。
旦那様が魔法で手の平に灯りを燈したから、この真っ暗の中を進めたのだと。
ヒーッ!!と、ジェフさんと寄り添うように固まる。
魔法の使えない私達は灯りを持って来てなかったのだ。
「ジェフさん!どうしましょうか!?怖いです!」
「と、とにかく壁伝いに進みましょう!」
少しずつジェフさんと進むと、白ちゃんがピューとやって来た。
真っ暗の中でも白ちゃんはお化けだからか、白くぼやけているから、すぐに分かった。
「白ちゃん!灯りを!ロウさんに灯りをお願いしてください!」
必死で白ちゃんにお願いした。
ジェフさんは白ちゃんが言葉を話さないから、大丈夫ですかね!?と心配している。
でも、旦那様を呼んでくる事も出来る白ちゃんだから、大丈夫な気がしていた。
そして、本当にロウさんを呼んできた。
おかげで何とか厨房に戻る事が出来た。
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