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第3章 グリモワールの塔の公爵様

結婚式には破壊魔が帰ってくる

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破壊された扉の向こうから、大勢が争っている声が聞こえていた。

吹っ飛んできた扉に驚いているジャンは今にも腰を抜かしそうになっていた。

「何事ですか!? ここは、神聖な教会ですよ!!」

神父様は、聖書を閉じて叫んだ。それに答えるように修道士たちが慌ててやって来た。

「神父様――! 大変です! 教会が!  教会がシルヴァン殿下の騎士たちに囲まれてます!!」
「なっ!? 何故ですか!? 我々は国に逆らう事なんて何も……!?」

シルヴァン殿下?
クライド様じゃなかった。でも、ここから、やっと逃げ出せる。

神父様たちは困惑している。
神父様は、教会が狙われてきたと思っているけど違う。

シルヴァン殿下の騎士たちが来たのは、きっと私を救出に来てくれたんだと思う。
逃げていたリアムが呼んでくれたのかもしれない。

この騒ぎに、急いで逃げようとすると、私が部屋から出てきた時に周りを囲んでいた女性たちが止めて来た。

「プリムローズ様! いけませんよ!」
「離してよ!!」

殴ってやりたかった。今まで誰にもそんなことしたことないけど、今なら一発ぐらいしてもいい気がする。それくらい、私は逃げたいのだ。

女性たちに抑えられて、抜け出そうとしたところで、私が逃げようとした方向にジャンが何かの魔法薬を投げて来た。
ボンッと音を立てて火が上がっている。
私が入り口から逃げないように、塞いだんだ!

「プリムローズ! そっちはダメだ! 俺と逃げるんだ!」
「私に近づけないくせに! 絶対に嫌よ! ジャンは、私と自分勝手な婚約破棄して、どこかの後妻に出すつもりだったのよ!? それもお金のために!! クライド様があの時、求婚してくれなかったら私は今頃どうなっていたと思うの!? それに、眠っている時だって……!!」
「あれは間違いだった!! もうあんなことはしない!! だから……!」

三メートル以上離れたところで言い合っていると、あっという間に疾風のような風が吹いた。
青い月のような光が、風と共に私に向かってきたと思うと、一瞬でさらわれた。

「「「キャアァーーーー!!」」」

私を抑えていた女性たちがなぎ倒されて、悲鳴が上がる。ジャンも、風になぎ倒されている。
私も驚き、「キャア」と口から出ていた。

「プリム!! 大丈夫か!?」

青い月のような光と風で閉じていた瞼を開けると、私を心配そうに見ているクライド様の顔があった。

「……クライド様?」

夢かと思った。青い月のような光にさらわれたと思ったら、私はクライド様の腕の中にいるのだ。
彼の顔を見ると、安心したのか、会えて嬉しいのか不安だった気持ちを我慢していたものが壊れて、泣きながら彼に抱きついた。

「クライド様……っ……」
「一人で怖かっただろう……遅くなってすまない……」
「そんなことありません……クライド様が、ずっと私を守ってくれていたのです……!」

魔法で浮いたまま、私を抱きしめてくれる力強い腕に安心した。少しだけ息遣いも荒くて急いで来たとわかる。
そんなクライド様の胸に顔を埋めていると、彼の周りがピリッとした。

「クライド様……?」
「逃がさんぞ……!」

一言そう言いながら、怖い顔で入り口を睨み付けている。そして、クライド様のグリモワールの一節一節が周りに飛び出して来て、教会の入り口に光と共に飛んで行った。

クライド様が現れて、ジャンたちが逃げようとしているのだ。

爆音と共に、入り口の扉どころか壁まで全てが崩れ落ち粉塵の中、外が見えると騎士たちが地上だけでなく、空からも教会の前にいた。

「プリム。捕まっていろ!」
「は、はい!」

言われるままに、しっかりと後頚部まで腕を伸ばして抱きつくと、風のようにクライド様は外に向かって飛んで行った。

入り口は瓦礫の山で、ジャンたちは逃げられないどころか、腰が抜けながらも必死で起き上がっている。

外に出ると、騎士たちが教会の周りを囲んでおり、地上にはシルヴァン殿下までいた。

「レイヴンクロフト公爵の婚約者を誘拐した者たちだ! 全員ひっ捕らえろ!!」 

教会の外にいた、ギュスターヴ伯爵の手の者は魔法で応戦しているが、シルヴァン殿下の騎士たちの方が圧倒的に多く、その上、実力も上で次々に捕縛されているのが空から見えた。

「ク、クライド様……これは……?」

しがみついているクライド様を見ると、「地の精霊(ノーム)……」とか、よくわからない何かの言葉を呟いている。

クライド様の周りの浮いているグリモワールを見ると、光りながら教会の周りに勢いよく飛んで行く。そして、教会の周りの大地が盛り上がりそこから植物があっという間に伸びて教会を包んだ。
教会の上にはあのクライド様が飛び込んできた時と同じ青い月のような光が舞っていた。

「クライド様の魔法ですか?」
「グリモワールの魔法だ。あの青い月のような光は月の妖精だ。月の魔力で地の魔素や植物は活性化するからな。あれが、大地の魔法に力を与えて、植物が一気に育つんだ。俺は月の妖精と相性がいいのか随分気に入られているんだ」

すごい……と、制圧されていく教会の惨状に目を奪われていると、クライド様の腕にいっそう力が入った。

「プリム……お前が危険にあっていると知り、心臓が止まるかと思った……無事で良かった……」
「クライド様のお守りの青水晶が私をジャンやギュスターヴ伯爵から守ってくれました……」

首からぶら下げていた青水晶を見ると、クライド様も見ていた。

「これは、危険を知らせられる月の妖精の一節を入れた。……他の男が近づいては困るしな……」
「ジャンが、迫って来た時に青い月のような光が飛び出して来たんです……それはどこかに行ってしまいましたが……」
「それが、この一節にいた妖精だ。グリモワールの塔の部屋にいた形ある妖精と少し違うが……これが飛んできて、お前が危険だとわかった。これが飛び出た時に、魔法の障壁も発動されたはずだ」
「はい……だから、ジャンは私に近づけなくなったのです……」
「……そうか……」

クライド様は、ジャンが何をしようとしていたのか察したように、教会から捕縛されていく人たちを睨んでいる。その中には、何かを叫んでいるジャンもいる。

「……クライド様。リアムたちは? お会いになりませんでしたか? 2人は逃げたはずなのです」
「リアムもルノアもシルヴァン殿下の近衛隊が保護している。リアムが逃げるのに、ギュスターヴの手の者を倒してしまったから、追手を追加されて俺のところまで来られなかったんだ。城に行くまでも苦労したようだが……シルヴァン殿下の近衛隊に助けを求めたようだ。リアムは賢明だ。心配はいらない」
「良かった……」

ホッとすると、クライド様は私を大事に抱えたまま地上へとゆっくりと降りた。
降りた先には、シルヴァン殿下が捕縛者たちを確認するように、凝視していた。







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