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第2章 グリモワールの塔
レイブンクロフト邸
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部屋に戻ろうと、絵画の飾られた廊下を歩いていた。その中に一枚の絵画に目を奪われて足を停める。
「……この絵画。このお邸かしら? 庭から描いたのね。綺麗だわ」
美しい絵画だった。湖のある庭に小さな小屋。湖の背景には、この邸が描かれている。
「庭に湖まであるなんて、クライド様のお邸は凄いわね」
「レイヴンクロフト公爵家は名門中の名門よ。知らないのかしら?」
絵画の前で呟くと、ライラさんが廊下に立っており呆れたように言ってきた。
「お名前は存じております」
レイヴンクロフト公爵家が名門と言われるくらい有名な公爵家だとは知っていたけれど、お邸には一度も来たことがないから、知らなかった。
「……ねぇ、プリムローズさん。良かったら、一緒にお茶でもしませんこと?」
そう誘われて、庭について行くと、白いテーブルにお茶が準備された。
ベンは、ライラさんの椅子を引き、丁寧な対応に見える。
「プリムローズさん。あなたは、なんの魔法を使えるのかしら?」
「魔法ですか? 私は、魔法なんて使えません。ライラさんは、魔法をお使いになるのですか?」
「当然でしょう? レイヴンクロフト公爵の求めているクライド様の妻は、魔法使いですからね。あの代々続くグリモワールの塔を管理するには、必ず魔法使いでないといけませんのよ」
やっぱり、クライド様には魔法使いの後継者が必要なんだ。
クライド様は、お母様が魔法使いじゃなかったと言っていたけど、私の子供がそうなるかはわからない。
「知りませんでした」
「クライド様は、なにもおっしゃらなかったの?」
「一度聞いたことがありますけど、気にする必要はない、と言われました」
「……よほど、あなたがお気に入りなのね」
ライラさんは、気にせずにお茶を飲んでいる。
でも、側に控えているベンは、冷たい雰囲気だった。
「本当に魔法使いではないの?」
「全く違います」
私が、魔法使いだと隠しているかのように疑われているけど、本当に違う。
ジッと凝視されても、違うものは違う。
私もお茶を頂くと、邸に一台の馬車がやって来た。
「どなたでしょうか?」
「……きっとお父様ね。クライド様が、最近はずっとグリモワールの塔にいたから、心配してきたのでしょう」
暗に私がクライド様を独り占めしていたと言いたいようだった。
「……あなたは、しばらくしてから邸に戻りなさい。私はこれで失礼しますわ」
意地悪な言い方だけど、落ち着いているせいか、クレア義姉様の意地悪とは違う。
ご令嬢らしい振る舞いに、私も見習うべきなのかもしれない。
でも、どうしてベンまで、ライラさんのお供をするのか。
私は、まだお茶を飲んでいるのに……。
一人残されても、このお茶の片づけは誰がするつもりなのだろうか、と疑問が残る。
朝から、グリモワールの塔で荷物をまとめて、なんだかあわただしかった。
そのせいか、ゆっくりとお茶を飲めることは、よく考えたら有り難いことだと思う。
でも、すぐに仕事に行かなければいけないクライド様の方が忙しいかもしれない。
今頃は、馬車の中で寝ている気がする。
目の前にあるパイを食べ終わる頃には、リアムが冷や汗をかきながら走って来た。
「プリムローズ様! 申し訳ありません! まさか、一人でお茶をしているとは……!」
「……大丈夫ですよ。おかげでゆっくりできました」
「しかし……まさか、ベンさんまで、いなくなっているとは……」
ベンをきっと邸で見たのだろう。ライラさんのお父様がいらしたから、そちらの給仕に行ったのかもしれない。
「リアム。来てくれてありがとう。一緒に部屋に行ってくれる?」
「勿論です」
リアムが来てくれると、ちょっと安心する。ルノアやヴェルナーでも同じだ。
いつも、グリモワールの塔にいてくれたからかもしれない。
「今日は、お部屋でごゆっくりなさってください。あとで、ドレスも届きますから、晩餐まではごゆっくりできますので……」
「わかりました」
夕方には、新しい晩餐用のドレスが届き、私のレイヴンクロフト邸の生活がこうして始まった。
「……この絵画。このお邸かしら? 庭から描いたのね。綺麗だわ」
美しい絵画だった。湖のある庭に小さな小屋。湖の背景には、この邸が描かれている。
「庭に湖まであるなんて、クライド様のお邸は凄いわね」
「レイヴンクロフト公爵家は名門中の名門よ。知らないのかしら?」
絵画の前で呟くと、ライラさんが廊下に立っており呆れたように言ってきた。
「お名前は存じております」
レイヴンクロフト公爵家が名門と言われるくらい有名な公爵家だとは知っていたけれど、お邸には一度も来たことがないから、知らなかった。
「……ねぇ、プリムローズさん。良かったら、一緒にお茶でもしませんこと?」
そう誘われて、庭について行くと、白いテーブルにお茶が準備された。
ベンは、ライラさんの椅子を引き、丁寧な対応に見える。
「プリムローズさん。あなたは、なんの魔法を使えるのかしら?」
「魔法ですか? 私は、魔法なんて使えません。ライラさんは、魔法をお使いになるのですか?」
「当然でしょう? レイヴンクロフト公爵の求めているクライド様の妻は、魔法使いですからね。あの代々続くグリモワールの塔を管理するには、必ず魔法使いでないといけませんのよ」
やっぱり、クライド様には魔法使いの後継者が必要なんだ。
クライド様は、お母様が魔法使いじゃなかったと言っていたけど、私の子供がそうなるかはわからない。
「知りませんでした」
「クライド様は、なにもおっしゃらなかったの?」
「一度聞いたことがありますけど、気にする必要はない、と言われました」
「……よほど、あなたがお気に入りなのね」
ライラさんは、気にせずにお茶を飲んでいる。
でも、側に控えているベンは、冷たい雰囲気だった。
「本当に魔法使いではないの?」
「全く違います」
私が、魔法使いだと隠しているかのように疑われているけど、本当に違う。
ジッと凝視されても、違うものは違う。
私もお茶を頂くと、邸に一台の馬車がやって来た。
「どなたでしょうか?」
「……きっとお父様ね。クライド様が、最近はずっとグリモワールの塔にいたから、心配してきたのでしょう」
暗に私がクライド様を独り占めしていたと言いたいようだった。
「……あなたは、しばらくしてから邸に戻りなさい。私はこれで失礼しますわ」
意地悪な言い方だけど、落ち着いているせいか、クレア義姉様の意地悪とは違う。
ご令嬢らしい振る舞いに、私も見習うべきなのかもしれない。
でも、どうしてベンまで、ライラさんのお供をするのか。
私は、まだお茶を飲んでいるのに……。
一人残されても、このお茶の片づけは誰がするつもりなのだろうか、と疑問が残る。
朝から、グリモワールの塔で荷物をまとめて、なんだかあわただしかった。
そのせいか、ゆっくりとお茶を飲めることは、よく考えたら有り難いことだと思う。
でも、すぐに仕事に行かなければいけないクライド様の方が忙しいかもしれない。
今頃は、馬車の中で寝ている気がする。
目の前にあるパイを食べ終わる頃には、リアムが冷や汗をかきながら走って来た。
「プリムローズ様! 申し訳ありません! まさか、一人でお茶をしているとは……!」
「……大丈夫ですよ。おかげでゆっくりできました」
「しかし……まさか、ベンさんまで、いなくなっているとは……」
ベンをきっと邸で見たのだろう。ライラさんのお父様がいらしたから、そちらの給仕に行ったのかもしれない。
「リアム。来てくれてありがとう。一緒に部屋に行ってくれる?」
「勿論です」
リアムが来てくれると、ちょっと安心する。ルノアやヴェルナーでも同じだ。
いつも、グリモワールの塔にいてくれたからかもしれない。
「今日は、お部屋でごゆっくりなさってください。あとで、ドレスも届きますから、晩餐まではごゆっくりできますので……」
「わかりました」
夕方には、新しい晩餐用のドレスが届き、私のレイヴンクロフト邸の生活がこうして始まった。
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