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第2章 グリモワールの塔
グリモワールの塔の軟禁
しおりを挟むグリモワールの塔に軟禁状態になって数日。
クライド様は、私専属の侍女ルノアを付けた。彼女は、クライド様のお邸から毎朝グリモワールの塔に通ってくれている。
そして、副執事のリアムと一緒に朝食を準備してくれる。
食事は庭に用意されることが多く、クライド様がいつも一緒に連れて行ってくれる。
むしろ、クライド様と一緒じゃないとこの部屋から出してくれない。
そのクライド様は、日中はグリモワールの塔で仕事をしている。
主にグリモワールの管理をしているらしい。
要請があればグリモワールを選び、人に持って行くという。
「プリムローズ様。リボンは何色にしましょうか?」
笑顔で聞いて来るルノアは、いつも元気だ。
「……青色がいいわ」
「クライド様の髪の色に合わせるんですね」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
毎晩毎晩、抱いてくるクライド様が未だにわからない。
「……本当にクライド様がいらっしゃって良かったですわ。プリムローズ様とお似合いです」
「……クライド様が、婚約者で良かったってこと?」
「そ、そうですわ……すみません、変なことを言って……」
時々、ルノアはこんな風に焦ってしまう。
ルノアと初めて会った時も、私の胸元を見て涙を流していた。
あまりの沢山の痣に驚くだろうが、泣くほどなのだろうか。
それとも、痛そうに見えたのだろうか。私がクライド様に怯えてしまっていたからだろうか。
でも、今はお似合いだと応援してくれているように見える。
そもそも、ルノアが以前どこで働いていたのかもわからない。
彼女に聞いても、「メイドでしたが、スキルアップのために侍女になりました」と、ごまかされる。
侍女の募集をかけていたのだろうか。
メイドでも、上を目指したいから、その侍女の募集で合格したという事なのだろうか。
「プリム。支度はまだか?」
カチャリと開いた扉から、クライド様が入ってきた。
アフタヌーンティーの前に、少し散歩に連れて行ってくれるらしい。
「もう終わりました……」
「綺麗に髪を結ってもらったか……」
そう言ってくれるクライド様が優しい。でも、夜は真剣な顔で求めて来る。
「ルノアが綺麗にしてくれました……」
「よく働いてくれるみたいだな……気に入ったか?」
「はい……お話もよくしてくれますし……すごく助かってます」
「趣味もいいようだな。そのリボンも髪型もプリムに似合っている」
ルノアが横にふわりとまとめてくれた髪型が気に入ってくれたのか、笑みをこぼしながら抱き寄せて来る。
こういう時は照れてしまう。クライド様の仕草が甘いのだ。
「リボンはプリムローズ様がご自身で選びました。クライド様の髪色にお合わせになったかと……」
ルノア……余計なことを言わないでください。
主人のフォローをするのは、侍女の役目だろうけども……知られるのは、なんだか恥ずかしいのですよ。
後ろにいるクライド様を、首をひねりながら見上げると、目を細めてみている私と目が合う。
そんなに嬉しかったのだろうか。
「可愛いことをしてくれる」
「た、たまたまですからね!」
「プリムローズ様ったら……ツンデレですか?」
「違います!」
ルノアに微笑ましく見送りをされて、庭に出ると陽射しが眩しくて、思わず目をこすりながら下を向いた。
「大丈夫か?」
眩しいことに気づいたのか、クライド様がコートのようなマントを広げて日影を作ってくれる。
優しいとは思う。でも寄り添って歩く気にはならない。
「……クライド様。私はいつここから出してくれるのですか?」
「結婚するまでだが……出たいのか?」
クライド様と一緒じゃないと、あの部屋から出られないのは監禁だと思う。
それとも軟禁ぐらいなのだろうか。
不思議そうな顔で、聞き返してこないで欲しい。
「……なにか足りないものがあるならなんでも準備させるぞ」
「物をねだっているわけではありません……なにもすることがないですし……」
少しずつ距離を開けて歩いているのに、クライド様は少しずつ距離を詰めて来る。
「以前はどんなことをしていたんだ? 刺繡とかでもしていたか?」
「刺繡も嗜み程度にはできますけれど……いつもは掃除とか、お茶淹れをしていました」
「……それは、メイドの仕事だろう?」
足を止め、呆れた様子で聞いて来た。
貴族の勉強や嗜みも習っていたけれど、お父様が他界されてからは、継母たちに言いつけられて、メイド服で仕事をしていた。
確かに理不尽だと思うこともあったけれど、貴族の勉強をやめさせられてからは、することもないから掃除はいい時間潰しだった。
「クライド様のお仕事で何か手伝えることがあればさせてください。片付けぐらいはできますよ?」
「まぁ……目の届くところなら、かまわんが……」
「ほ、本当にいいのですが?」
正直ダメと言われるかと思った。
「無理をすることは無いんだぞ。使用人のようにする気はない」
「はい」
グリモワールの塔からは出られないけれど、やっと部屋から出してもらえると思うと少し嬉しい。
少しだけ頬が緩むと、ばさりという音と共に目の前が陰る。
「プリム……」
「……っんん……っ!」
真っ黒のマントを広げ包まれると、夜に閉じ込められるような錯覚になる。
初めて出会った時にマントの中に入れられたからだろうか。
グリモワールの塔の庭だと忘れたように唇を重ねて来て、舌を絡めて来る。
「クライド様……っ……ここは外ですよ……っ、誰かが来たら……」
「今日は来客の予定はないし、見られてもかまわないだろう……」
腰に手を当てられて、背中が反ってしまう。もう片方の手は胸をまさぐってくる。
「……プリム。部屋に行くか?」
「でも……っ、ルノアが来たら……」
「ここでしてもいいんだぞ……」
こんな外では出来ない。
そう思うと、抱き上げられて木陰に連れて行かれる。
抱き上げられた腕から降ろされると、コルセットの無いシュミーズドレスを肩からずらされ、胸が露わになった。
クライド様の長い指は、ためらう事なく胸の先端を弄り、ビクッと反応してしまう。
思わず声が出そうなのを、必死で口を両手で隠し抑えた。
つままれた先端は容易く尖り、首筋はくすぐってくる。
「……っ! ク、クライド様……ここではいやですっ……!」
「そうか? 感じているように見えるぞ?」
「やぁっ……!!」
そう言いながら、口を塞ぐように舌を絡められてスカートを上げながら、手が侵入して来た。
そして、大腿をなぞってきたところで、クライド様の手が止まる。
また、涙目になっている目でクライド様を見ると、彼の顔は眉間にシワを寄せ、迫力があった。
さっきとは別の意味でビクッとする。
「……邪魔が入った……せっかくいいところだったのに……」
「……ここでは、いやです」
「そんな蕩けるような可愛い顔をしてか?」
「し、してません……!」
そう言われると、思わずツンとして横を向いた。
「はぁーー……」と、深いため息を吐きながら、クライド様は、自分でずらした私のシュミーズドレスを肩へと戻していっていた。
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