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第二章 ユニコーン

帰国へと 1

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奉殿から、私とフェリクス様がユニコーンとフェンリルを従えて出てくると、多くの人間たちが、奉殿を囲むように構えていた。狂ったユニコーンが出てくることを覚悟していたのだろう。
しかしながら、大人しくなったユニコーンと、そしてフェンリルまでもが出てきたことに驚き声を失っていた。
すでに、王妃様親子が兄上である陛下親子を救ったには私たちのおかげだと証言していたのだ。
そして、私のむき出しの上腕には、ユニコーンの紋様が刻まれたように浮かんおり、誰もが私がユニコーンの幻獣士だと確信を持ってしまった。
 
それと同時に、兄上が幻獣士でないと、それが証明することになってしまった。
 
王妃様は、私たちに跪いて両手を組み感謝を述べたけど兄上は違う。私を憎んだままだった。
 
そして、フェリクス様は幻獣の扉を開き魔力の使い過ぎで倒れた。それでも、ディティーリア国の人間の前では倒れなかったのに、急いで人払いしたかと思うと部屋に帰るなりバタンと勢いよく倒れたのだ。
 
あまりの勢いの良さの倒れ方に私は悲鳴を上げたが、ヴァルト様は、「フェリクス様は人前では弱みを見せないように気力で立っていたからでしょう」と慣れた様子でベッドに寝かせてくれた。
 
フェリクス様の部屋に残ったのは私とフェンリルだけ。
 
『フィリ―ネ……フェリクスは大丈夫だぞ。寝れば魔力は回復する』
「でも、心配です……」
『幻獣の扉を開くことは、かなりの魔力を有する。幻獣士だからといって誰にでも開けるものではないし幻獣士以外も開けない。今回は、私を幻獣の扉を開きフェンヴィルム国から召喚したから使いすぎただけだ』
 
幻獣の扉を開き、幻獣界を通り道にしてこのディティーリア国にやって来たのだという。
 
「……私も、いつか開けますか?」
 
そうすれば、私はフェリクス様の役に立つかもしれない。
 
『なら、もっと食べろ。体力をつけて魔力の向上に励め。幻獣の扉は魔力の塊だ。魔力がないと作ることなどできない』
 
フェンリルが私を慈しむように側に来て、頭を摺り寄せてくる。その首に抱き着いた。
 
「頑張ります」
『ユニコーンを従えられたのだ。自信をもて』
「はい……」
 
フェンリルのもふもふを感じながら返事をすると、どこからか不遜な感情が流れ込んでくる。それに、フェンリルが喉を鳴らして笑う。
 
『あれは、嫉妬深いな……くくっ……』
「もしかして、この刺さるような感情はユニコーン様ですか?」
『そうだが……人前に出たくないから、どこからか見ているのだろうけど……ほおっておけ。いつもフィリ―ネを見守っているだけだ』
「そうします」
 
ほんの少しだけくすりと笑みがこぼれると、フェンリルはホッとしたように部屋の隅で丸くなって瞼を閉じた。
そして、私は洗面器に水を張り、フェリクス様の顔を拭いた。誰かの看病など初めてだった。何をしていいのかも知らないし、わからないけど……せめて、熱くなっている額を冷やし、彼の側で目が覚めるのを待っていた。
 
そして、フェンリルも眠りについて数時間後。まだ薄暗い中、フェリクス様の頭元に俯いたままでウトウトとしていると、そっと頭を撫でられた。
 
「……フェリクス様?」
「起きていたか?」
「はい。もう大丈夫なのですか?」
「怪我をしているわけではないからな。寝れば元通りだ」
 
眼をこすりながら頭を起こした。
いつもの端整な顔でフェリクス様は額のタオルを取り見ている。
 
「これは、リーネが?」
「はい……奉殿まで来てくださって……その、ありがとうございます」
「大事な婚約者だからな」
 
照れながらお礼を言うと、フェリクス様の言葉にさらに照れてしまう。
 
「……でも、私は前陛下の妾になる予定だったのですね」
 
そんな王女がフェリクス様に相応しいのかと落ちこんでしまう。そして、そんな心の声も感情もフェリクス様には隠せなかった。
 
「気にするな。確かに妾の話が来た時は驚いたが、前陛下である父上はもう老齢で先は長くなかったからな……だから、受け入れなかった」
「では、どうして私をフェリクス様の婚約者に……?」
 
どうして、そんな王女を妃にと望んだのだろうかと不思議だった。
教えてほしいと思いながら聞くと、フェリクス様は少し考えるもゆっくりと話してくれた。
 
「……都合がよかったからだ。リーネは王女であるから、誰よりも身分が高い。妃になりたい令嬢が多くて困っていたから、妃選びを抑えるのにリーネが最適だった」
「休みが欲しいと言っていたのは……」
「妃選びに時間を取られるわけにはいかなかった。幻獣の書を復旧するのに疲れていてだな……だが、今は違う。お前のことは好いている」
 
魔力の使い過ぎで倒れるフェリクス様は、妃選びの時間すらも負担だったのだろう。そのうえ、私が軟禁されていたことなど知らないフェリクス様たちは、私が王女だというだけで、フェンヴィルム国の令嬢たちや貴族たちを抑えたのだ。
ディティーリア国の王女を娶るなら、誰も不満を告げることはない。争っている国ではないからだ。
私を望んでいたのは身分だけ……それでよかったはずなのに、何とも言えない気持ちが淀んでしまう。でも、私を好いているとも言ってくれた。
 
「リーネ……」
 
俯いている私に、フェリクス様の低くて優しい声がした。頬に男らしい大きな手が伸びてきた。私が顔を上げる前に、フェリクス様の顔が近づき、静かに唇が重なる。
 
「リーネ……一緒にフェンヴィルム国に帰ってくれるな? さらってでも連れて帰るが……」
「帰ります……連れて帰ってください。私は、フェリクス様の側がいいのです」
「何よりも大事にする……」
 
そう言って、フェリクス様は愛おしそうに私を包み込んでくれた。






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