上 下
28 / 36
第二章 ユニコーン

奉殿の幻獣 1

しおりを挟む
部屋の前で騒いでいたのはディティーリア国の王妃様だった。

「王妃様といえど、中には入れないで! フィリ―ネ様をお守りするのよ!!」

部屋の前にいる騎士たちにアリエッタが叫ぶ。フェンヴィルム国の騎士たちは、こんな状況で誰も私に接触させないように守ってくれていた。
でも、王妃様の叫ぶ声が聞こえる。

「お願い! 開けてちょうだい! フィリ―ネ様!!」

王妃様の悲鳴のような叫びに、しがみついていたアリエッタの腕を放した。

「アリエッタ。王妃様を入れてください」
「しかし、こんな状況では誰が敵かわかりません!!」
「でも、王妃様の様子は見過ごせません」

こんな状況に、王妃様のあの様子は異常だ。アリエッタもわかっている。だからこそ、私を守ろうとしてくれているのだ。

「わかりました。でも、絶対に近づかないでくださいね」

アリエッタにそう頷く。扉が開かれると、王妃様が狂ったように飛び込んできた。

「フィリ―ネ様! どうかっ、どうか息子を助けて!!」
「息子……? 王妃様、一体何が……」

涙を流しながら懇願する王妃様に困惑する。今にも発狂しそうなほどだ。

「奉殿の幻獣が怒っているのです! 陛下が……陛下が息子を連れて行って怒らせてしまったのです!! このままでは殺されてしまいますわ!!」
「奉殿に幻獣が? でしたら、兄上が適任では……兄上が幻獣士になったと噂を聞きました」
「あんなのは嘘です!!」
「うそ……?」

兄上は幻獣士ではない? 確かにフェレスベルグの子供を見ても幻獣だとは気付かなかったけど……。
王妃様に近づこうとすると、アリエッタが「いけません」と止めるが、そのまま王妃様の身体を支えた。彼女はその場に膝から崩れ落ちた。

「王妃様、一体なにがあったのですか? この雷は幻獣の仕業ですか?」
「そうですわ……この国が密かに隠していた幻獣が怒っているのです。陛下が……あの人が怒らせたのですわ」
「一体、何の幻獣がいるのですか?」
「ご存じないの……? まさか……そこまで……」

泣きながら顔を抑える王妃様は、何も知らない私を憐れんでいた。

「……ユニコーンですわ。ずっと奉殿にはユニコーンが眠っていたのです」
「所在不明の?」
「ユニコーンは貴重な幻獣です。ディティーリア国の祖先がユニコーンの幻獣士だったのですよ。次の幻獣士がいないからユニコーンはずっと眠っていたと聞きましたわ。そして、誰もユニコーンを起こせなかったのです。あれを起こせると予言を受けたのはフィリ―ネ様だけです。お願い。ユニコーンは、眠りを妨げられて怒っているのです」
「私が?」

そんな予言があったなんて知らない。誰もそんなことを教えてくれなかった。それに、もし予言を期待して奉殿に私を連れて行ったのなら、私はユニコーンの幻獣士ではない。
だって一度もユニコーンに会うことなどもなかった。

「陛下が、幻獣士になったと噂になったのは、その時に幻獣が動いたからなんです。でも、起こせていなかったから、陛下は焦って……息子が生まれたばかりだから、もしかしたら息子がユニコーンの幻獣士なのかもと連れて行ってしまったのです……! そしたら……」

ユニコーンが怒り雷を落とした。今もずっと怒っている。
噂になったから兄上は、幻獣士という噂を本当にしようとしていた。それくらい、幻獣士は特別な存在なのだ。それが、フェンリルのように貴重な幻獣ならなおさらだ。

「お願い! もう誰も奉殿に入れないのよ! 中にはまだ息子がいるのにっ……!! どうかユニコーンを鎮めてください!!」
「でも、私は……今までユニコーンにお会いしたこともなくて……」

縋る王妃様の手を取っていると、アリエッタが思い出すように顎に手を当てて話す。

「もしかしたら、ユニコーンの幻獣士でないのに、何度も陛下がお会いに行っていたから怒ってしまったのかも……」
「どういうことですか?」
「ヴァルトから聞いた話では、幻獣は自分の幻獣士や気に入らない人間とはいないそうです」

ということは、フェンリルが私を側に置いてくれるのは、気に入られているから……

「フィリ―ネ様が、お会いに行っていたときはこんな状況にはならなかったはず。きっとあなたが予言通り、ユニコーンの幻獣士なのですわ!」

王妃様が叫ぶと、また雷が落ちた。身体が震えるほどの振動だった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者と略奪聖女をお似合いだと応援する事にした

藍生蕗
恋愛
公爵令嬢のリリーシアは王太子の婚約者の立場を危ぶまれていた。 というのも国の伝承の聖女の出現による。 伝説の生物ユニコーンを従えた彼女は王宮に召し上げられ、国宝の扱いを受けるようになる。 やがて近くなる王太子との距離を次第に周囲は応援しだした。 けれど幼い頃から未来の王妃として育てられたリリーシアは今の状況を受け入れられず、どんどん立場を悪くする。 そして、もしユニコーンに受け入れられれば、自分も聖女になれるかもしれないとリリーシアは思い立つ。けれど待っていたのは婚約者からの断罪と投獄の指示だった。 ……どうして私がこんな目に? 国の為の今迄の努力を軽く見られた挙句の一方的な断罪劇に、リリーシアはようやく婚約者を身限って── ※ 本編は4万字くらいです ※ 暴力的な表現が含まれますので、苦手な方はご注意下さい

二度目の結婚は異世界で。~誰とも出会わずひっそり一人で生きたかったのに!!~

すずなり。
恋愛
夫から暴力を振るわれていた『小坂井 紗菜』は、ある日、夫の怒りを買って殺されてしまう。 そして目を開けた時、そこには知らない世界が広がっていて赤ちゃんの姿に・・・! 赤ちゃんの紗菜を拾ってくれた老婆に聞いたこの世界は『魔法』が存在する世界だった。 「お前の瞳は金色だろ?それはとても珍しいものなんだ。誰かに会うときはその色を変えるように。」 そう言われていたのに森でばったり人に出会ってしまってーーーー!? 「一生大事にする。だから俺と・・・・」 ※お話は全て想像の世界です。現実世界と何の関係もございません。 ※小説大賞に出すために書き始めた作品になります。貯文字は全くありませんので気長に更新を待っていただけたら幸いです。(完結までの道筋はできてるので完結はすると思います。) ※メンタルが薄氷の為、コメントを受け付けることができません。ご了承くださいませ。 ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。

愛する婚約者に殺された公爵令嬢、死に戻りして光の公爵様(お父様)の溺愛に気づく 〜今度こそ、生きて幸せになります〜

あーもんど
恋愛
「愛だの恋だのくだらない」 そう吐き捨てる婚約者に、命を奪われた公爵令嬢ベアトリス。 何もかもに絶望し、死を受け入れるものの……目を覚ますと、過去に戻っていて!? しかも、謎の青年が現れ、逆行の理由は公爵にあると宣う。 よくよく話を聞いてみると、ベアトリスの父────『光の公爵様』は娘の死を受けて、狂ってしまったらしい。 その結果、世界は滅亡の危機へと追いやられ……青年は仲間と共に、慌てて逆行してきたとのこと。 ────ベアトリスを死なせないために。 「いいか?よく聞け!光の公爵様を闇堕ちさせない、たった一つの方法……それは────愛娘であるお前が生きて、幸せになることだ!」 ずっと父親に恨まれていると思っていたベアトリスは、青年の言葉をなかなか信じられなかった。 でも、長年自分を虐げてきた家庭教師が父の手によって居なくなり……少しずつ日常は変化していく。 「私……お父様にちゃんと愛されていたんだ」 不器用で……でも、とてつもなく大きな愛情を向けられていると気づき、ベアトリスはようやく生きる決意を固めた。 ────今度こそ、本当の幸せを手に入れてみせる。 もう偽りの愛情には、縋らない。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ *溺愛パパをメインとして書くのは初めてなので、暖かく見守っていただけますと幸いですm(_ _)m*

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...