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第一章 フェンリル
氷狼陛下の仕事
しおりを挟む「幻獣ではなかったようですね」
「幻獣でなければ、お前たちで十分だろう。帰るぞ」
珍しい魔物の噂を聞けば、幻獣の可能性があるために、フェンリルを連れてすぐに赴いている。幻獣は知性が高い。それと同時に、弱い幻獣は理性を無くしやすいからだった。
幼い幻獣は特にそうなる。フェレスベルグの子供もそうなる可能性を勘ぐったが、不思議とリーネに預ければ大丈夫な気がした。
そして、その予想は間違いなかった。
『フィリ―ネは純粋だ。あれは、清廉なる乙女だな。手を出すなよ』
「いずれ正式に結婚するんだぞ。いつまでも乙女でいられるか。それよりも、後は頼んだぞ」
『早く、幻獣の書を補修しろ。幻獣界の扉が閉じたままでは、幻獣狩りが行われるぞ』
「疲れるんだよ! あれの補修にどれほど魔力を消費すると思っているんだ! 魔力の使い過ぎで武器召喚もできないんだぞ!!」
『知らん。作り方は教えたのだから言い訳をするな』
数か月前に何者かの手によって、我が国で管理していた幻獣の書が破壊された。そのせいで、封じ込めていた幻獣が国に散らばっている。
幻獣の書は、幻獣界にも通じているとフェンリルは言うが、封じ込めた後のことは人には計り知れないことだった。
そして、見境なく人や街を襲わないのは幻獣は魔物と違い知性と理性があるからだ。でも、幻獣士のいない幻獣は理性を失いやすい。それは、人よりも魔物に近くなる。だから、逃げた幻獣を見つければ、すぐに捕獲もしくは討伐をしていた。
幻獣の書の補修は密かに行い、それができるのはこの国でただ一人。フェンリルの幻獣士であり、この国で一番の魔力を持っている俺だけだった。
そのうえ、幻獣の書はこの国の機密。知っているのは管理をしている王族と数人の側近だけだった。
「疲れる……」
「今日は、まだ魔力は尽きてないですね。執務が終われば、早速しますか」
執務室に帰ると、ヴァルトが容赦なく執務机に書類を乗せる。
その中に、書簡もあった。書簡を読むと皮肉った笑いが零れる。
「見ろ、ヴァルト」
「なんでしょうか? ディティーリア国からの書簡ですよね……」
「リーネの里帰りを希望しているぞ。年に一度の里帰りの取り決めだったのに、すぐに要請するなど笑える。それも、理由はディティーリア国の陛下の息子の祝いだ」
「まだ、来たばかりですのに……里帰りさせるのですか?」
「そうだな……ほっときたい気もするが、ディティーリア国の陛下が幻獣士になった噂は気になるな」
「一体なんの幻獣士でしょうか?」
「事実は確認するまで不明だが……」
どうしたものかと、座っている椅子に背を預ける。
「侍女は動きそうか?」
「あれは、多分フィリ―ネ様の報告ですね。最近になって街にでているようですから……」
「最近報告することができたということか」
「ああ、そう言うことですか。フィリ―ネ様に、なにか異変でもありますかね?」
「気になるのは魔法だな……リーネの釣書には魔法のことは書かれてなかった。リーネも魔法の才がないと言われて育ったようだし……」
ディティーリア国の思惑もよくわからない。軟禁同様にリーネは育ったという。しかし、なぜリーネだけがそんな生活を強いられたのか。
フェンヴィルム国に送って来たのは、リーネが邪魔だったのかと思えば、結婚の条件には年に一度の里帰りが条件だった。
さして問題はないと思われたが、リーネを知れば知るほど不思議な気持ちになる。
そして、あの珍しい癒しの魔法。リーネには、なにかあるとしか思えない。
「近日中にリーネとディティーリア国に赴くか……」
「幻獣の書はどうされるのですか?」
「フェンリルに見張らせる。二度と破壊はさせない」
そのまま、ヴァルトを執務室に置いて幻獣の書の修復へと向かった。
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