10 / 36
第一章 フェンリル
フェンリルの腹枕
しおりを挟むあれから何度もフェンリルのところに来ている。
フェンリルは、普段は森や山に行って魔物が人里に下りたりしないようにと目を光らせているらしい。たまに襲い掛かってくる魔物もいるようで、それもフェンリルが討伐したりとするらしく、初めてお会いした時に怪我をしていたのは、魔物狩りのあとだったらしい。
フェンリルは寒いところが好きみたいで、温室の外に座り込み、私は彼のお腹にもたれて足を伸ばしていた。
『足は痛くないのか?』
「大丈夫です。すぐに魔法でなおしますし、雪に乗せていればひんやりとして気持ちいいですから……」
夜会が近いうちにあるらしく、私はハイヒールに慣れるために、普段から踵の高い靴をはくことになった。いつもと違い慣れないままで、足には靴ずれが出来ていた。でも、魔法で治せるから、なにも問題はない。
「お菓子をもっと食べますか? フェリクス様がフェン様にご用意をしてくださったのですよ」
『気がきくな』
「フェン様は、フェリクス様と仲良しなのですね」
気の知れない仲の二人が少しうらやましい。
私と言えば、今日もジルに「ハイヒールぐらい履きこなせなくてどうしますか」と怒られたばかりだ。
『フェリクスは特別だ。私は、フェリクス以外に従う気はなかったからな』
このフェンヴィルム国は、フェンリル様の幻獣士になった王族が陛下になる。フェンリル様が誰にも従わないという時は、王位継承権順に陛下になると王妃教育で習った。
だから、第二殿下であったフェリクス様も陛下が崩御されて次の陛下とおなりになったのだ。
『フィリ―ネも特別だ』
「私も幻獣士ですか?」
『まさか。私はこの国の守護獣だ。王族以外は私の幻獣士にはなれんよ』
フェンリルに、喉を鳴らされて一蹴されてしまった。それでも、フェンリルは私のことが気に入っているらしい。フェリクス様も、フェンリルは彼以外寄せ付けなかったと話していた。
「私は魔法の才もないと言われていましたから、図々しいことを言いましたね」
『ククッ……おかしなことを言う奴がいるもんだな』
「なにか違いますか?」
『魔法を覚えたいなら、私が教えてやろう』
「教えてくださるのですか?」
『フィリ―ネならかまわん。珍しい癒しの魔法を見せてくれたからな』
嬉しくて言葉にできずにフェンリルの白い身体に抱きつく。
もふもふ具合が気持ちよくて、(気持ちいい……)と思いながらギュッと力を入れると嬉しそうに喉を鳴らして頭を摺り寄せてくる。
『気に入ったか?』
「……また心の声が聞こえました?」
『聞こえたな。フィリ―ネはあまり心の声が聞こえにくいが……』
「……きっとなにも考えていないからです」
『そうは見えないが……おかげでフィリ―ネの好きなものがわからん。フィリ―ネは、なにが好きだ? 食べ物は? 好きなことはなんだ? 人間の女なら歌とか劇か?』
「なにも……私は歌一つも知らないのです」
『そうなのか?』
「はい……」
みんなが知っていることを、私はなにも知らない。フェリクス様もそんな妃は嫌だろう。
『フェリクスに嫌われたくないか?』
「わかりません……でも、きっといつか婚約破棄をされます。それまでは一緒にいてくださいね」
『私も歌など知らん。気にすることはない』
慈しむようにフェンリルが私を寄せる。外は雪が止んでいるとはいえ、積もったままだ。でも、フェンリルの腹枕の温かさと雪の冷たさが心地よかった。
19
お気に入りに追加
859
あなたにおすすめの小説
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~
白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。
国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。
幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。
いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。
これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる