氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!

屋月 トム伽

文字の大きさ
上 下
7 / 36
第一章 フェンリル

フェンリルの心の声プラス

しおりを挟む



「フィリ―ネ!? フェン! なにをやっている!?」
「……フェ、フェリクス様……あの、これは……」

一瞬眩しいと思えば、走り寄ってきているフェリクス様の大きな声がした。

白い狼に舐められ、汚れた顔を見せられずに涎の付いた顔を手で拭きながら立ち上がろうとすると、フェリクス様は怒った様相で詰め寄ってきた。それが怖くてギュッと目を閉じてしまうと頬を撫でられる感触があった。

「フィリ―ネ。大丈夫か?」
「す、すみません!」
「落ち着け。大丈夫だ。……フェン。フィリ―ネを驚かせるな。怒るぞ」
『うるさい。だから、早く行こうと言っていたのに……』
「フィリ―ネを無理やり連れて行く気だったのか! 本当に怒るぞ! 怯えているじゃないか!」
『私のせいではない。お前の顔が怖いからだ』

フェリクス様は、私の顔をマントで拭きながらツンとした白い狼をフェンと呼んで怒っている。フェリクス様が来ると、この白い狼の言葉がわかる。不思議と頭に響くように聞こえるのだ。

「あの……」
「あぁ、これは我が国の幻獣フェンリルだ」
「げ、幻獣……?」

これが幻獣……確かに見たこともないほど大きな狼だけど、よく考えれば狼自体を見るのは初めてだ。だから、大きくて驚いただけだった気がする。

幻獣のいる国は栄えると言われていると本で読んだことがある。でも、幻獣は誰にでも姿を見せないはず。幻獣を従わらせる人間は、幻獣士と呼ばれて貴重な存在だ。

さっきまでは、話しかけてもこなかったフェンと呼ばれたフェンリルは、フェリクス様と気持ちが通じ合っているのか、慣れた様子で話していた。

「初めて見ました……幻獣様は言葉をお話になるのですね。知りませんでした」
「言葉……」
「さきほど私を引っ張っていたのは、どこかに連れて行こうとしてくれていたのですか? ありがとうございます。でも、フェリクス様と今からお茶の時間なのです」
『フェリクスは、ほっといてもいい』
「でも……婚約をしたのです……」

形だけの婚約ですけど。

「フィリ―ネ……フェンの言葉がわかるのか?」
「……今フェリクス様もお話されてましたけど……その……」

言っている意味がわからなくて、言葉に詰まる。フェリクス様は、驚き細い切れ長の目を見開いている。そして、フェンリルに向かって勢いよく顔を向けた。

「フィリ―ネになにをした!?」
『心を通わせたいと願ったから、傷を治してくれた礼に言葉が通じるようにしただけだ』
「……フェンリル様の声がわかるようになったということですか?」
「傷……?」
『癒しの魔法だよ。珍しい魔法だな』

初めて聞いた情報にフェリクス様の眉間にシワがさらに寄った。そして、ジロリと私を見下ろしている。怖い。

(何の話だ? フィリ―ネには魔法の才はないと報告書にはあったはず……)

「あ、あの……すみません。知らなかったのですね。その……少しだけ魔法が使えるのです」

兄上たちも魔法を使うけど、私が魔法を使うことを嫌っていた。だから、私には魔法をあまり教えてもらえなかった。

(それでも、本を読んで独学で魔法を覚えたのよね。兄上たちは、私が魔法を使うことを嫌っていたから、秘密でやっていたけど……きっと兄上たちほど魔法の才がないから私が恥ずかしかったのね)

一人で離宮で過ごしていたから、時間はたくさんあった。ほとんどの時間を本を読んで過ごしていたから魔法を覚える時間たっぷりあったのだ。

「独学で癒しの魔法を? いやそれよりも……!」
(えっ……今、私、口に出していたかしら……?)

ギラッとフェンリル様を睨むと、白い狼の顔の毛皮を左右に掴んで詰め寄っている。

「フェン! 今のはなんだ!?」

青筋が額に立っているのか、青ざめているのかわからないほど、フェリクス様は取り乱している。

(あぁ、私の魔法が余計だったんだわ……ここでも、やっぱり私は嫌われ者だ)

兄上たちは私が表に出ることを嫌っていた。私のせいで母上が亡くなり、魔法の才もない。
そんな私が余計なことをしたのだと落ち込む。

「フィリ―ネのせいではないし、魔法が使えようがどうでもいい! 問題はこのフェンリルだ!」









しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍

バナナマヨネーズ
恋愛
貧乏男爵令嬢のリリル・クロケットは、貴族たちから忌み嫌われていた。しかし、父と兄に心から大切にされていたことで、それを苦に思うことはなかった。そんなある日、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴で事件は起こった。軍を率いて王国を勝利に導いた将軍、フェデュイ・シュタット侯爵がリリルの身を褒美として求めてきたのだ。これは、勘違いに勘違いを重ねてしまうリリルが、恋を知り愛に気が付き、幸せになるまでの物語。 全11話

殿下、私は困ります!!

IchikoMiyagi
恋愛
 公爵令嬢ルルーシア=ジュラルタは、魔法学校で第四皇子の断罪劇の声を聞き、恋愛小説好きが高じてその場へと近づいた。  すると何故だか知り合いでもない皇子から、ずっと想っていたと求婚されて? 「ふふふ、見つけたよルル」「ひゃぁっ!!」  ルルは次期当主な上に影(諜報員)見習いで想いに応えられないのに、彼に惹かれていって。  皇子は彼女への愛をだだ漏らし続ける中で、求婚するわけにはいかない秘密を知らされる。  そんな二人の攻防は、やがて皇国に忍び寄る策略までも雪だるま式に巻き込んでいき――?  だだ漏れた愛が、何かで報われ、何をか救うかもしれないストーリー。  なろうにも投稿しています。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

追放された公爵令嬢エヴァンジェリカ、冷酷王に溺愛される ~悪役に仕立てられた私ですが、国を救ったら求婚されました~

ゆる
恋愛
婚約者である王太子の前で、無実の罪を着せられ、公爵令嬢エヴァンジェリカ・セロンは国外追放を言い渡された。 「悪女」呼ばわりされ、父からも見放され、すべてを失った彼女は、寒空の下、故郷を追われる――。 しかし、その絶望の先に待っていたのは、隣国ルシタニアの"冷酷王"ルシウス・ヴォルフガングとの運命的な出会いだった。 「面白い。お前を拾ってやろう――余の役に立つのならな」 有能な者しか信用しない冷徹な王のもと、エヴァンジェリカはその才知を発揮し、王国の参謀見習いとして頭角を現していく。 そして、かつて彼女を追放した婚約者と“聖女”の国が危機に陥り、救いを求めてくるとき――彼女の華麗なる“ざまあ返し”が幕を開ける! 「お前を追放した国を、今度は見下ろす側に回るのだ」

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

婚約破棄されたい公爵令息は、子供のふりをしているけれど心の声はとても優しい人でした

三月叶姫
恋愛
北の辺境伯の娘、レイナは婚約者であるヴィンセント公爵令息と、王宮で開かれる建国記念パーティーへ出席することになっている。 その為に王都までやってきたレイナの前で、ヴィンセントはさっそく派手に転げてみせた。その姿はよく転ぶ幼い子供そのもので。 彼は二年前、不慮の事故により子供返りしてしまったのだ――というのは本人の自作自演。 なぜかヴィンセントの心の声が聞こえるレイナは、彼が子供を演じている事を知ってしまう。 そして彼が重度の女嫌いで、レイナの方から婚約破棄させようと目論んでいる事も。 必死に情けない姿を見せつけてくる彼の心の声は意外と優しく、そんな彼にレイナは少しずつ惹かれていった。 だが、王宮のパーティーは案の定、予想外の展開の連続で……? ※設定緩めです ※他投稿サイトにも掲載しております

処理中です...