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師匠の森の家

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朝からノクサス様と師匠の家に来ている。
フェルさんとロバートさんは、村の私の屋敷で滞在してもらっている。
ノエルさんは、「あの叡智の魔法使いセフィーロ様の家ですか!?」と、かなり行きたがっていたけれど、師匠はこの家を知られたくなかったようだし、ノエルさんには遠慮してもらった。
師匠はもういなくても、この家には沢山の大事な書物に魔道具もある。
師匠が作った魔道具は、魔喰いの魔石のように特別なものもある。いつ泥棒が来るかわからないから、あまり人には言えないのだ。
ノクサス様の信用している部下たちでも、秘密はどこでバレるかわからないからだ。

「ミストも来たがると思ったのだがな……」

ノクサス様が私を馬から抱き上げるように降ろし、そのあとに大きなバスケットを降ろしながら、不思議そうに話した。
私は、早速ミストから教えてもらった家の鍵を隠しているところを探っていた。
師匠は、ミストに私が来るまで隠すように言っていたようで、それを忠実に守っていたのだ。
玄関の側にある植木鉢の下の土に埋めていたようで、側にあった木枝を拾い掘りながら、ノクサス様と話していた。

「アーベルさんが時々チーズとかもくれるようで、最近はアーベルさんがお気に入りのようですよ。良く撫でてくれるとか言っていました」
「アーベルには懐いているんだな……」
「ノクサス様にも懐いていますけれど……。今は師匠が他界して寂しかっただけですよ。だから、私をノクサス様にとられると思っているだけですよ」
「あれが懐いているのか?」

話している間に、鍵を掘り当て土をポンポンとはたいた。

「ノクサス様、見つかりました」

ウーンと不思議そうな顔をするノクサス様に声をかけて師匠の家に入ると、少し埃っぽい感じだった。
窓を開けて換気をしていると、ノクサス様は部屋を見渡している。
師匠がどんな暮らしをしていたのか、少なからず興味があるようだった。

「もしよかったら、2階と3階も見ますか? 一階は主に食事したりしていただけですよ。奥には、魔道具を作ったりする部屋もありますけれど……そちらは、よくわからないので入らない方がいいですよ」
「2階は何があるんだ?」
「2階は、本ばかりです。ちょっとした図書室みたいな感じですよ。3階は、寝室ですね。天窓もあって夜は綺麗に見えますよ」

2階は、部屋の壁を元々作らなかったのか、全て本だ。本棚がびっしりとあり、壁なんか見えないくらいだ。

早速、2階の換気も含めてノクサス様と図書室に行くと、いきなり本が一冊ガタンッと落ちてきた。
思わず、ビクッとした。

「……急に本が落ちて来たぞ」
「怪しいですね……」

拾い上げると、落ちて来た本は魔道具の本だった。

「……探す必要がなくなったかもしれません」
「……セフィーロ様は、未来も見えていたのか? ダリアが探しに来るとわかっていたように思えるんだが……」
「師匠のすることに突っ込んだら負けですよ。なにを考えているのか、本当に分かりませんから……」

そういいながら、とりあえず窓を開けた。
ノクサス様は、狐につままれたように悩んでいる。

そのまま、3階にも上がった。

「……ベッドは少し古いな」
「師匠がずっと使っていたものですからね。ちょっと埃っぽいですし……たまにこの家にも滞在したいので、いずれ取り替えます」

ノクサス様が、借金の肩代わりをしてくれたおかげで、お金が少しは溜まっている。
ノクサス様に少しずつ返そうかとも思ったけれど、受け取ってはくれなかった。
「ダリアを買ったつもりはない」と言って、借金の話は終わってしまったのだ。

「……ベッドを2つ買いましょうか? ノクサス様も一緒に泊まりましょうね」
「1つでいいだろう。好きなベッドを買ってやる」
「ベッドは私が買います。これくらいはさせてください」

なにもかも買ってもらうのは申し訳ない。せめてこれくらいはしたいと思う。

そのまま、換気をして外に出た。
敷物を敷くと、ノクサス様は休日を満喫するように寝転がった。
その隣で、さきほど落ちて来た本を読んだ。

間違いなく魔喰いの魔石の記述があった。

「どうだ? 使えそうか?」

そう言って、寝ころんだまま腰に腕を回すように膝の上に頭を乗せて来る。

「ノクサス様。ちょっと離れてください。今は読書中ですよ」
「気にせずに読めばいいじゃないか」
「……今、いいところですよ」

膝の上も気になるが、魔喰いの魔石には驚くことが書いてあった。

私の身体に埋め込んだ魔喰いの魔石は、普通の刃では私を傷つけられないようになっていた。防御壁かなにかの応用だろうか。
気になっていることもあった。

男たちが私の屋敷で襲って来た時に、魔法弾を打った時のことだ。
思ったよりも勢いよく男が吹っ飛んだのだ。
それを思うと、私には刃は届かなくて、その力が反射して勢いを増してしまい、その結果、勢いよく吹っ飛んだのではないだろうか。

だとすると、防御壁だけでなく反射の魔法もこの魔石には組み込まれていると思う。

やはり、普通の魔喰いの魔石ではなかった。師匠がアレンジしたのか、あれは私のために作ったものだと思う。

涙が、ほろりと出た。

「ダリア……どうした?」
「師匠が……私を守ってくれていたのです。ミストの牙に魔法をかけたのも、私に刃が届かないようにしてくれていたせいです」

ミストの牙に魔法をかけていたから、ミスト以外は取り出せないようにしているのかも……とは思ったがその通りだった。

きっと、私が二度と斬られないようにしてくれていたのだ。

「セフィーロは、ダリアが大事だったのだな」
「私が唯一の弟子でした」

私が、知る限りでは弟子はいない。

私とミストには、優しい師匠だった。
困った人ではあったけれど、それさえも懐かしい。

「もう一度会いたかったです。ノクサス様のことも紹介したかったです……」

静かに涙を流し、そう言うと、ノクサス様は優しく抱きしめてくれていた。











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