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優しい朝食

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部屋でミストと湯浴みをしたあと。今日は一緒に寝られるからか、ミストは、ご機嫌でベッドに転がっていた。

「ミスト。魔喰いの魔石を取りだせると言っていたわね。どうやるの?」
「……痛いですよ。それに、取り出すなら、白魔法使いを用意した方がいいですよ」

ベッドの上で、四肢を伸ばしていたミストは、真剣な顔になって言った。

「ノクサス様の顔の呪いを治したいのよ。痛くてもかまわないわ。やり方を教えてちょうだい」
「……ダリア様は、なにもできません。僕が魔喰いの魔石を埋め込んでいるところを食いちぎるのです。セフィーロ様が、そうしろと言っていました。そのためにセフィーロ様が、僕の牙を強化する魔法をかけています」

ミストは、口を大きく開けて牙を見せた。その牙には、よく見ると魔法でなにかが書いてあった。
おそらく古代文字だろう。私には読めないし、読めたところで発音もわからない。
だから、発音の必要ない魔法陣を地道に作るのだ。

師匠は、魔法で魔法陣を作ったり、何を言っているのか分からない魔法を唱えていたから、きっと師匠は古代文字を理解していたのだろう。
しかも、師匠が埋め込んだ魔喰いの魔石だ。そう簡単に誰にでも取り出せないようにしているはずだ。
ミストの牙に魔法をかけたという事は、ミストしか取り出せないようにしているのだろう。
貴重な魔石だから、欲しがる人はいる可能性だって大きい。そうなったら、無理やり私の身体から取り出そうとするかもしれない。そう思うと、余計なトラブルに巻き込まれないようにしてくれているとわかる。

「食いちぎったところをすぐに治さないとまた、ダリア様に傷が残りますし、痛いですよ」
「……ノクサス様たちに相談するわ。きっと、ノエルさんが力を貸してくれると思うから」

ノクサス様の呪いを治すには、魔喰いの魔石を取り出す必要がある。
私に戸惑いなんてない。

そして、私はそのことを翌朝には伝えた。
テラスで朝食をいただいているノクサス様は、驚きフォークとナイフを持っている手を止めた。

「……やはり、能力のことも隠していたのだな」
「今は、これが精一杯なのです。……すみません。私は、隠し事ばかりですね……」

申し訳なくて、ノクサス様の顔を直視出来なかった。
でも、ノクサス様は一度も私を責めることはない。

「責めているわけではない。どうして隠すのかと……心配していただけだ。でも、記憶が戻った今は合点がいく」

そう言って席を立ち上がり、下を向いていた私の側に来て跪いて手を取った。

「痛みを伴うなら、無理にすることはない。ダリアに傷ついて欲しくない」
「すぐに治せば、痕は残りません。呪いをかけた魔物の核が見つからない可能性のほうが大きいのです。でも、この魔喰いの魔石を取り出せば、きっと大丈夫です」
「ダリアには、それだけの能力があるのだな?」
「わかりませんが……一度、師匠の家に行きます。そして、使い方を覚えたら、きっとノクサス様の呪いは解けます。私で無理ならば、ノエルさんに覚えてもらいます。それに、ミストがいれば、きっと大丈夫です」

ノクサス様は、悩んでいる。自分のせいで私に傷ついて欲しくないと思っていることがわかる。どこまで、私のことを想ってくれているのか……。

「……ノクサス様のお力になりたいのです」
「ダリアがどんな手を使おうとしているのかわからないが……取り出す時は、必ず側にいるぞ。勝手にはしないでくれ」
「はい。側にいて下さるなら……」

そっと頬に手を添えられた。温かった。ノクサス様の優しさが伝わってくる。

「しばらく邸からも出ないでくれ。邸から外出する時は、必ず俺が一緒に行く。それ以外は、ここにいてくれ。欲しいものがあるなら、どの店でも邸に呼べばいい。アーベルに言えば、どの店でも手配さすから……」
「はい……近いうちに、師匠の家に行く時は一緒に行きましょうね」

ノクサス様が、邸から出ないでくれという事は、なにかあるのだろう。
男たちは逮捕されたけれど、まだ、恨んでいると思う。
その関係かもしれない。これ以上迷惑はかけられない。
ロバートさんは、庭にも出してくれなかったから本当に邸の中だけだけれど、ノクサス様の言う通り大人しくいようと思う。

そう思うと、下を向いていた私の顔にノクサス様の顔が近づく。
思わず、目を閉じた。
……柔らかいせいか、優しいキスに感じた。

「……朝食が終われば、仕事に行く。見送ってくれるか?」
「はい……毎日お見送りします」

フッと笑みをこぼして、ノクサス様はフェルさんのお迎えで仕事に行ってしまった。








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