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告白したのは……
しおりを挟む玄関扉をアーベルさんが開けると、ノクサス様の姿が現れた。
いつもよりも、心臓が跳ねた。
「ダリア。もう、大丈夫なのか?」
「はい。休めば魔力は回復しますから……あの、おかえりなさいませ……」
「あぁ、ただいま」
片側は仮面だが、もう片側の目を見つめると、優しく目を細めてそう言ってくれた。
その様子にドキリとする。ノクサス様の顔を見たからかもしれない。
「どうした? 顔が赤いぞ。どこかまだ悪いのではないか?」
「だ、大丈夫です! ノクサス様こそお顔は大丈夫ですか? 今日はお疲れなのでは?」
「……では、先に顔をしてくれるか?」
「はい」
ノクサス様は、一緒に帰って来たフェルさんに「アーベルに伝えておいてくれ」と言って私の肩に手を回して部屋へと連れて行かれた。
そういえば、私はさっき目が覚めたから、アーベルさんにノクサス様の記憶が戻ったことを伝えてなかった。きっと、そのことをフェルさんから伝えるように言ったのだろう。
ノクサス様の部屋ですぐに洗面器にお水を入れて魔法薬を準備した。
その間もノクサス様はずっと私を見ていた。緊張する。何故か、今までよりも、見られていることに緊張したのだ。
お礼を言うタイミングを見計らいながら、黒ずんだ顔を拭くと、ノクサス様は静かな声で謝ってきた。申し訳なさそうでいっぱいだった。
「ダリア。すまなかった……俺のせいで、危険な目に合わせた。なんと詫びればいいのか……」
「なんの話でしょうか? ノクサス様は、何も悪くありませんけれど……」
「ダリアが狙われていたのは、俺のせいだ。男たちの腕を使いものにしたのは俺なのだ。あの日、俺が斬って、治さずにユージェル村から追い出したのだ。あの日の男たちの処分も、ダリアが他人から噂の的にならないように、俺があの男たちを脱走騎士として片づけたのだ。そのせいで、ダリアが恨まれてしまっていた……本当にすまない」
噂になってなかったのは知っていた。誰からも聞かれることはなかったから。
まさか、ノクサス様のおかけで私が、『襲われた令嬢』だとされてなかったことは知らなかった。
「それも、ノクサス様のおかげだったのですね。そのおかげです。だから私は、不名誉な噂を知られなかったのです。ノクサス様も、ずっと人知れず私を守ってくださったのですね。ありがとうございます。なんとお礼をすれば良いか……」
「礼などされることではない。申し訳ないのは俺だ。ダリアに苦労をかけた。……もっと早く会いに行くべきだった」
そう言いながら、ノクサス様はお顔を拭いていた私の手を握った。
「……求婚するのに、贈り物一つ持っていかないのは、失礼だと思いガラにもなくずっと指輪を選んでいたんだ。ダリアが、何が好きかわからなくて……どんなものが似合うかと悩んでいた。そのせいで、ダリアにもう一度会うのが遅くなってしまった。すまない……」
「記憶喪失になるとは、誰も予想がつきませんから……でも、この指輪は私へと選んでくれていたのですね」
そう言うと、ノクサス様は照れたように少し赤くなる顔を背ける。
もしかしたら、女性にこんな贈り物をするのは初めてだったのだろうか。
思い返せば、ランドン公爵令嬢様には、ニコリともしなかった。
騎士団の公開訓練場でも、私を発見するまでは迫力があり、こんな優しい雰囲気ではなかった。私だけなのだろうか。
それに、あの日しかお会いしてないのだから、指輪のサイズがわからないのは当然だ。
ノクサス様は、何度も指輪を選びに忙しい中通っていた。
刻印の『ダリアへ』も私で間違いない。それが、わかっただけでも、私には嬉しいことだった。
「……ノクサス様。私と結婚してください。必ず、顔の呪いも私が治します。今度は私がノクサス様のお力になります」
「本当か? 結婚してくれるのか?」
「あんなことのあった私では、その……お嫌かもしれませんが……もしそうなら、お顔を治したあとに消えますので……」
「消えられては困る。ダリアがいなくなれば、今度こそ国中探すぞ」
「……こ、今度こそ?」
ぐいっと引き寄せられて、ノクサス様の膝の上に倒れ込むように乗ってしまう。
そして、恥ずかしながらノクサス様を見上げて、そう聞いた。
「ダリアを探す時、王都から近隣の村を順番に探していた。ダリアという名の年頃の娘を順番に調べて……近くの村で良かった」
本当に、騎士団を何に使っているのでしょうかね。
フェルさんが、上手く手配している気がする。
「記憶がなかったから、俺が結婚を押しつけていたのかと……もちろん諦めるつもりはないが、ダリアに嫌われるのでは、と思っていた。もし、ユージェル村でのことを気にして結婚をしようとするなら、気にすることはないんだぞ。ダリアの気持ちが一番大事だ。俺は、いくらでも待つぞ」
あの時、助けられたから好きなのだろうか。……違う気がする。あの時のことは感謝をしているけれど、誠実なノクサス様だから、好きなのではないだろうか。
……外見に惹かれるとしても、今は呪われているから、顔の半分はよくわからないし、容姿に惑わされているわけでもない。
「……ダリア。その間はなんだ」
「……気のせいです」
ぐいっと腰に回された手に力を入れられて、そう聞かれた。
「あの……助けてくれたことは、感謝をしています。でも、私は記憶喪失でも、そうでなくてもノクサス様が好きなのです。ノクサス様は誠実でした。隠し事のある私のほうが誠実ではありませんでした。申し訳ないのは、私のほうなのです」
「あんな目にあったことを、ペラペラと話したいやつなんていない。ダリアが隠していたのは当然だ」
腰に回された手が背中から、後頭部を支えるように回された。
頬や耳に何度もノクサス様の唇が触れた。耳まで赤くなるほど、身体が熱くなる。
「ダリア。結婚してくれ。必ず一生大事にする」
「します……私は、ノクサス様と結婚したいのです」
真っ直ぐな瞳で求婚された。ノクサス様に迷いはない。
私にも、迷うような返事はなかった。
そして、そのままノクサス様のキスを受け入れた。
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