44 / 66
白猫は知っていた
しおりを挟む
「……ノクサス様。少しいいですか?」
「どうした?」
フェルが、厳しい顔でやって来た。
捕らえた男たちの様子がおかしいらしい。
「男たちの血が止まらないのです……。最近負った傷にも見えないものもあり、服の下の包帯は血まみれなのですよ。そして、何故かダリア様に助けを求めていまして……」
捕えるのに、抵抗すらしなかった男たちだが、何故か自分たちが襲ったダリアに助けを求めていた。
「私を……? でも、私が使ったのは、魔法です。血まみれになるような怪我を負うほどの能力はないのですが……」
ダリアは、おかしいと思いながら考えている。
側に座り込んでいる元の大きさに戻っているミストに聞くと、フンッと顔を背けてしまった。
「ミストがやったのか?」
「あいつらのは自業自得だ! ダリア様を傷つけたバツだ!」
「なにをした?」
「変態男なんかには言わないぞ!」
「その変態男はやめろ!」
ミストはなにか知っているようだが、子供のようにツンとしている。
「ミスト、知っているなら教えてちょうだい。納屋で襲ってきた男の方の腕にはミストにはじかれた時に負った爪痕から、ずっと血が流れていたわ。そんなに深く爪を立てたの?」
「ダリア様になら言います」
ミストは、きっぱりとそう言った。どんな温度差だ。
ダリアの側にやって来て、擦り寄るミストにダリアは優しく撫でている。
この猫は、呆れるほどダリアのことしか気にしてない。
「……セフィーロ様が、あの男たちに魔法をかけたのです。傷が治らない呪いです。あの男たちの生命力を阻害する呪いなのです。そんな呪いがかかっているから、あの男たちの寿命はドンドン削られています」
「師匠が……? どうしてそんなことを……」
「ダリア様を傷つけたからです。自業自得です。それに、ルヴェル伯爵様は、あの男たちを殺そうとしていました。許せないと、ずっと苦しんでいたのです。ダリア様は、ずっと寝ていたから知らなかったと思うのですが……でもそれをセフィーロ様が、止めました。ルヴェル伯爵様が、もし、捕まったらダリア様が悲しむと言って……」
「うつつで、お父様の『許せない』という言葉は聞いていたけれど……でもまさか、男たちを殺そうとまで追い詰めていたなんて……」
「そのあとにセフィーロ様が、あいつらに魔法をかけたのです。『私の可愛い弟子を傷つけた罪は重いぞ』とあいつらに言っていました」
ミストは、ペラペラと流暢にダリアに話した。
殺さずに、こんな怪我が治らない魔法をかけるなんて、一生苦しめ、と言っているようなものだ。実際、男たちはダリアに助けを求めている。そして、一方で恨んでいる。
だから、ずっと狙われていたのだろう。
「私があんな目にあったから、お父様を苦しめてしまったのね……」
「ダリアのせいではない。ミストの言う通り、あれは男たちの自業自得だ。娘を傷つけられて平気な親はいない」
ダリアが自分を責める必要はない。ルヴェル伯爵は、娘を思っていただけなのだ。
それでも、叡智の魔法使いと呼ばれたセフィーロが、止めてくれたことには感謝している。
もしも、父上がこの男たちを殺してしまったら、ダリアはもっと自分を責めただろう。
セフィーロも、きっとそれがわかっていたのだ。
「ノクサス様、離してください。彼らの元に行きます」
「……一人では行かせない。ずっと側にいるから、怖がることはない」
そう言うと、ダリアは安心するように少しだけ微笑んだ。
ダリアを、マントの中に入れたまま肩を抱き寄せて男たちの元に行くと、ノインの回復魔法でも傷はふさがってなかった。
ノインは、決して能力の低い白魔法使いではない。それなのに、ミストがひっかいたあとであろう傷すらふさがらない。
そして、驚いたのは、腕の斬られた傷だ。
男2人は、その斬られたせいで腕がもう動かなくなっている。……それに、見覚えがあった。
あの日、向かってきた男に俺が斬ったあとだった。斬ったあとは、恐ろしくなったのか、そのまま逃げ出し、回復魔法もかけさせずに、村から追い出したが……いまだに治りきらずに、血が流れていたとは……。
「た、助けてくれ! 俺たちは、もう傷が治らないんだ!? 頼む……っ!」
「あの時は、悪かったよ……っ、許してくれ……っ」
「お前のせいで、俺たちは……うぅぅ……」
許しを請う者に、歯を食いしばり、涙を流す者もいた。
ダリアは、その様子を見て微かに震えて、怯えるようにしがみついてきていた。
「……ノクサス様、私、」
「ダリアは、先に休ませる。……フェル、男たちはすぐに連れていけ」
そう指示すると、フェルたちは男たちを拘束したまま引き連れてきた馬車に乗り込んだ。
泣きながら嗚咽を漏らし、「もう、おしまいだ……」と呟きながら、呆然と乗り込んで行く男たちに、この一年苦しんだのだろうと想像はついた。
だが、セフィーロはこのことをダリアに言わなかったのは、一生治す気はなかったのではないだろうか。
「ダリア。悪いがすぐに王都に帰るぞ。村も騒ぎ出している。今のうちに去ったほうがいい。マレット伯爵には、フェルに説明に行かせる。フェルなら、悪いようにはしないから心配することはない」
「……彼らは?」
「それ相応の償いはしてもらう。だが、まずは、ダリアが休んでからだ。顔色が悪すぎる」
顔色がまた、蒼白になりそうだと思った。そう思うだけで、ゾッとする。
そのまま、抱き上げてダリアを馬に乗せた。ミストも抜け目なくダリアの側の飛び乗ってきた。
後始末に何人かの騎士たちを残し、ロバートやノインたちを引き連れて、急いで王都に帰った。
ダリアは、魔力の使いすぎで疲れてしまい、腕の中で眠ってしまっていた。
「どうした?」
フェルが、厳しい顔でやって来た。
捕らえた男たちの様子がおかしいらしい。
「男たちの血が止まらないのです……。最近負った傷にも見えないものもあり、服の下の包帯は血まみれなのですよ。そして、何故かダリア様に助けを求めていまして……」
捕えるのに、抵抗すらしなかった男たちだが、何故か自分たちが襲ったダリアに助けを求めていた。
「私を……? でも、私が使ったのは、魔法です。血まみれになるような怪我を負うほどの能力はないのですが……」
ダリアは、おかしいと思いながら考えている。
側に座り込んでいる元の大きさに戻っているミストに聞くと、フンッと顔を背けてしまった。
「ミストがやったのか?」
「あいつらのは自業自得だ! ダリア様を傷つけたバツだ!」
「なにをした?」
「変態男なんかには言わないぞ!」
「その変態男はやめろ!」
ミストはなにか知っているようだが、子供のようにツンとしている。
「ミスト、知っているなら教えてちょうだい。納屋で襲ってきた男の方の腕にはミストにはじかれた時に負った爪痕から、ずっと血が流れていたわ。そんなに深く爪を立てたの?」
「ダリア様になら言います」
ミストは、きっぱりとそう言った。どんな温度差だ。
ダリアの側にやって来て、擦り寄るミストにダリアは優しく撫でている。
この猫は、呆れるほどダリアのことしか気にしてない。
「……セフィーロ様が、あの男たちに魔法をかけたのです。傷が治らない呪いです。あの男たちの生命力を阻害する呪いなのです。そんな呪いがかかっているから、あの男たちの寿命はドンドン削られています」
「師匠が……? どうしてそんなことを……」
「ダリア様を傷つけたからです。自業自得です。それに、ルヴェル伯爵様は、あの男たちを殺そうとしていました。許せないと、ずっと苦しんでいたのです。ダリア様は、ずっと寝ていたから知らなかったと思うのですが……でもそれをセフィーロ様が、止めました。ルヴェル伯爵様が、もし、捕まったらダリア様が悲しむと言って……」
「うつつで、お父様の『許せない』という言葉は聞いていたけれど……でもまさか、男たちを殺そうとまで追い詰めていたなんて……」
「そのあとにセフィーロ様が、あいつらに魔法をかけたのです。『私の可愛い弟子を傷つけた罪は重いぞ』とあいつらに言っていました」
ミストは、ペラペラと流暢にダリアに話した。
殺さずに、こんな怪我が治らない魔法をかけるなんて、一生苦しめ、と言っているようなものだ。実際、男たちはダリアに助けを求めている。そして、一方で恨んでいる。
だから、ずっと狙われていたのだろう。
「私があんな目にあったから、お父様を苦しめてしまったのね……」
「ダリアのせいではない。ミストの言う通り、あれは男たちの自業自得だ。娘を傷つけられて平気な親はいない」
ダリアが自分を責める必要はない。ルヴェル伯爵は、娘を思っていただけなのだ。
それでも、叡智の魔法使いと呼ばれたセフィーロが、止めてくれたことには感謝している。
もしも、父上がこの男たちを殺してしまったら、ダリアはもっと自分を責めただろう。
セフィーロも、きっとそれがわかっていたのだ。
「ノクサス様、離してください。彼らの元に行きます」
「……一人では行かせない。ずっと側にいるから、怖がることはない」
そう言うと、ダリアは安心するように少しだけ微笑んだ。
ダリアを、マントの中に入れたまま肩を抱き寄せて男たちの元に行くと、ノインの回復魔法でも傷はふさがってなかった。
ノインは、決して能力の低い白魔法使いではない。それなのに、ミストがひっかいたあとであろう傷すらふさがらない。
そして、驚いたのは、腕の斬られた傷だ。
男2人は、その斬られたせいで腕がもう動かなくなっている。……それに、見覚えがあった。
あの日、向かってきた男に俺が斬ったあとだった。斬ったあとは、恐ろしくなったのか、そのまま逃げ出し、回復魔法もかけさせずに、村から追い出したが……いまだに治りきらずに、血が流れていたとは……。
「た、助けてくれ! 俺たちは、もう傷が治らないんだ!? 頼む……っ!」
「あの時は、悪かったよ……っ、許してくれ……っ」
「お前のせいで、俺たちは……うぅぅ……」
許しを請う者に、歯を食いしばり、涙を流す者もいた。
ダリアは、その様子を見て微かに震えて、怯えるようにしがみついてきていた。
「……ノクサス様、私、」
「ダリアは、先に休ませる。……フェル、男たちはすぐに連れていけ」
そう指示すると、フェルたちは男たちを拘束したまま引き連れてきた馬車に乗り込んだ。
泣きながら嗚咽を漏らし、「もう、おしまいだ……」と呟きながら、呆然と乗り込んで行く男たちに、この一年苦しんだのだろうと想像はついた。
だが、セフィーロはこのことをダリアに言わなかったのは、一生治す気はなかったのではないだろうか。
「ダリア。悪いがすぐに王都に帰るぞ。村も騒ぎ出している。今のうちに去ったほうがいい。マレット伯爵には、フェルに説明に行かせる。フェルなら、悪いようにはしないから心配することはない」
「……彼らは?」
「それ相応の償いはしてもらう。だが、まずは、ダリアが休んでからだ。顔色が悪すぎる」
顔色がまた、蒼白になりそうだと思った。そう思うだけで、ゾッとする。
そのまま、抱き上げてダリアを馬に乗せた。ミストも抜け目なくダリアの側の飛び乗ってきた。
後始末に何人かの騎士たちを残し、ロバートやノインたちを引き連れて、急いで王都に帰った。
ダリアは、魔力の使いすぎで疲れてしまい、腕の中で眠ってしまっていた。
10
お気に入りに追加
1,015
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる