上 下
43 / 66

記憶の再会

しおりを挟む
納屋から聞こえた悲鳴に、全てを思い出した。
ダリアが俺のことをわからなかったのは、当然だ。
あの時のダリアは、目が見えてなかったのだから。

早く帰ってやらねばと思っていたのも、あんなことがあり、きっと泣いていると思った。
彼女の側で支えてやりたい、と思っていたのだ。
あの日からダリアのことばかり気になって、彼女と結婚したいと思うまで、そう時間はかからなかった。
ダリアに出会ってから今までにないほど、気になっていた女性だったのだ。

それなのに、俺は記憶喪失になり、ダリアを支えてやれてないとは……!

「ダリア!!」
「ダリア様!!」

悲鳴の聞こえた納屋に突入すると、そこには座り込んだダリアと、唸りながらうずくまる男がいた。

「ダリア! 大丈夫か!? ダリア!」
「ノクサス様……来て下さったのですね」
「当然だ!」

何度も何度も、ダリアの名前を呼んだ。
座り込んだダリアに、あの時の同じことになったのでは!? と心臓がえぐられそうな気持ちを抑えられずに抱き寄せた。
ダリアは、抵抗することはなかった。か弱い手でそっと腕を握りしめてくれた。
しかし、その腕からは軽度ながらも斬られたあとがある。その赤い血に怒りが沸いた。

「お前はあの時の男だな? 1度ならず2度までもダリアを傷つけるとは許せるものではないぞ!」

ダリアを傍らに抱き寄せたまま、剣を向けた。

「ノクサス様。私は大丈夫です。ミストがノクサス様を呼んで来るまでに、もう一つトラップの魔法陣を作ったのです。この人は、襲って来ましたけど、それにかかってしまって、うずくまっているのです……」
「……呼吸が少し速いぞ。腕も斬られている」
「魔力の使いすぎです。その……私は能力が低くて……腕もナイフがかすっただけですから……」
「すぐに休ませてやる。もう危険な目には合わせん」

疲れているのか、ダリアは身体を預けるようにもたれかかっていた。
うずくまっている男は、憔悴しきったように泣いていた。

「……もう駄目だ……また……うぅぅっ……」

その様子に、ダリアも困惑している。

「この霧はダリアが作ったのか? 騎士たちを連れて来たから、すぐに捕える。霧を解いてくれないか」
「これは、ミストが……ミスト、霧を解いてちょうだい」
「……止めを刺さないのですか?」
「ノクサス様が、来てくれたから……それに、何だかおかしいわ……」

目の前の男は、すでに戦意喪失している。ダリアもそれをわかっていた。

「ミスト。霧を解け。ダリアには、誰も近寄らせない」

そう言うと、一睨みしたあとに、ミストは霧を吸い込むように霧を消していった。
霧が段々と晴れていき、庭には他に4人の男たちがいた。
座り込み呆然としている男に、両手をつき嗚咽を漏らす男……異様な光景だった。

「男たちを捕縛しろ!」

この屋敷を囲んでいる騎士たちに、指示すると一斉に騎士たちは捕縛した。


騎士たちが、捕縛している間にダリアの斬られた腕の治癒のためにノインを呼び、回復魔法をかけさせた。
軽い切り傷だったために、ノインの回復魔法であっという間に治った。
ノインはそのあと、捕らえた男たちのもとへ、「失礼します」と言って、離れた。
気を遣い、俺とダリアを二人にしてくれたのだろう。

「ノクサス様。私は大丈夫です。おろしてください……」
「離したくない。このままでいてくれ」
「でも、皆さまに見られます……」
「見られてもかまわない」

ダリアを離せずに、地面に座り込んだ俺の膝の上に乗せていると、可愛らしく頬を染め、恥ずかしながらそう言ってきた。

「心配した。あの時のようになればどうなるかと……」
「あの時……? また、私を調べたのですか? それとも……」
「全て思い出した。何故、ダリアが俺のことがわからなかったのかもわかった」
「私を助けてくださったのは、やっぱりノクサス様だったのですね……」

少しだけ驚いたように、目を丸くして腕の中から見上げてきた。
しかし、思ったよりは驚いてなかった。

「気づいていたのか?」
「もしかしたら、そうじゃないかと……同じようなことを言ってましたから」
「すまない……もっと早く会いに行くべきだった。あれから、こんなことになっているとは思わなかった」
「いいのです……また、来てくださいましたから」

あの時、助けに入ったのが俺だと感づいていながらも、言えなかったのはわかる。
もし助けに入ったのが俺ではなかったら、秘密を言ってしまうことになる。
言いたくなかったのだろう。

その上、記憶もないのに結婚を申し込んでいた。
今ならわかる。ダリアは、結婚相手にその秘密が受け入れられるか不安だったのだ。
いくら記憶がないとはいえ、自分の気持ちばかり押しつけていたことに情けなくなる。

一人で秘密を抱え、男たちに見つからないようにひっそりと生活をして、しまいには妾に上がるところだった。随分苦労をさせていた。妾に上がるのも、もしかしたら、男たちから、隠れられるだろうとも、思っていたのかもしれない。
父上が亡くなり、借金に追われてどうしようもなかったのだ。

腕の中で大人しく俺の胸にもたれる様子に、魔力の使いすぎで疲れているとわかる。
早く休ませてやりたいと、思うと同時にその温もりに安堵して、いっそうダリアを抱き寄せている手に力が入った。









しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

処理中です...