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記憶の再会
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納屋から聞こえた悲鳴に、全てを思い出した。
ダリアが俺のことをわからなかったのは、当然だ。
あの時のダリアは、目が見えてなかったのだから。
早く帰ってやらねばと思っていたのも、あんなことがあり、きっと泣いていると思った。
彼女の側で支えてやりたい、と思っていたのだ。
あの日からダリアのことばかり気になって、彼女と結婚したいと思うまで、そう時間はかからなかった。
ダリアに出会ってから今までにないほど、気になっていた女性だったのだ。
それなのに、俺は記憶喪失になり、ダリアを支えてやれてないとは……!
「ダリア!!」
「ダリア様!!」
悲鳴の聞こえた納屋に突入すると、そこには座り込んだダリアと、唸りながらうずくまる男がいた。
「ダリア! 大丈夫か!? ダリア!」
「ノクサス様……来て下さったのですね」
「当然だ!」
何度も何度も、ダリアの名前を呼んだ。
座り込んだダリアに、あの時の同じことになったのでは!? と心臓がえぐられそうな気持ちを抑えられずに抱き寄せた。
ダリアは、抵抗することはなかった。か弱い手でそっと腕を握りしめてくれた。
しかし、その腕からは軽度ながらも斬られたあとがある。その赤い血に怒りが沸いた。
「お前はあの時の男だな? 1度ならず2度までもダリアを傷つけるとは許せるものではないぞ!」
ダリアを傍らに抱き寄せたまま、剣を向けた。
「ノクサス様。私は大丈夫です。ミストがノクサス様を呼んで来るまでに、もう一つトラップの魔法陣を作ったのです。この人は、襲って来ましたけど、それにかかってしまって、うずくまっているのです……」
「……呼吸が少し速いぞ。腕も斬られている」
「魔力の使いすぎです。その……私は能力が低くて……腕もナイフがかすっただけですから……」
「すぐに休ませてやる。もう危険な目には合わせん」
疲れているのか、ダリアは身体を預けるようにもたれかかっていた。
うずくまっている男は、憔悴しきったように泣いていた。
「……もう駄目だ……また……うぅぅっ……」
その様子に、ダリアも困惑している。
「この霧はダリアが作ったのか? 騎士たちを連れて来たから、すぐに捕える。霧を解いてくれないか」
「これは、ミストが……ミスト、霧を解いてちょうだい」
「……止めを刺さないのですか?」
「ノクサス様が、来てくれたから……それに、何だかおかしいわ……」
目の前の男は、すでに戦意喪失している。ダリアもそれをわかっていた。
「ミスト。霧を解け。ダリアには、誰も近寄らせない」
そう言うと、一睨みしたあとに、ミストは霧を吸い込むように霧を消していった。
霧が段々と晴れていき、庭には他に4人の男たちがいた。
座り込み呆然としている男に、両手をつき嗚咽を漏らす男……異様な光景だった。
「男たちを捕縛しろ!」
この屋敷を囲んでいる騎士たちに、指示すると一斉に騎士たちは捕縛した。
騎士たちが、捕縛している間にダリアの斬られた腕の治癒のためにノインを呼び、回復魔法をかけさせた。
軽い切り傷だったために、ノインの回復魔法であっという間に治った。
ノインはそのあと、捕らえた男たちのもとへ、「失礼します」と言って、離れた。
気を遣い、俺とダリアを二人にしてくれたのだろう。
「ノクサス様。私は大丈夫です。おろしてください……」
「離したくない。このままでいてくれ」
「でも、皆さまに見られます……」
「見られてもかまわない」
ダリアを離せずに、地面に座り込んだ俺の膝の上に乗せていると、可愛らしく頬を染め、恥ずかしながらそう言ってきた。
「心配した。あの時のようになればどうなるかと……」
「あの時……? また、私を調べたのですか? それとも……」
「全て思い出した。何故、ダリアが俺のことがわからなかったのかもわかった」
「私を助けてくださったのは、やっぱりノクサス様だったのですね……」
少しだけ驚いたように、目を丸くして腕の中から見上げてきた。
しかし、思ったよりは驚いてなかった。
「気づいていたのか?」
「もしかしたら、そうじゃないかと……同じようなことを言ってましたから」
「すまない……もっと早く会いに行くべきだった。あれから、こんなことになっているとは思わなかった」
「いいのです……また、来てくださいましたから」
あの時、助けに入ったのが俺だと感づいていながらも、言えなかったのはわかる。
もし助けに入ったのが俺ではなかったら、秘密を言ってしまうことになる。
言いたくなかったのだろう。
その上、記憶もないのに結婚を申し込んでいた。
今ならわかる。ダリアは、結婚相手にその秘密が受け入れられるか不安だったのだ。
いくら記憶がないとはいえ、自分の気持ちばかり押しつけていたことに情けなくなる。
一人で秘密を抱え、男たちに見つからないようにひっそりと生活をして、しまいには妾に上がるところだった。随分苦労をさせていた。妾に上がるのも、もしかしたら、男たちから、隠れられるだろうとも、思っていたのかもしれない。
父上が亡くなり、借金に追われてどうしようもなかったのだ。
腕の中で大人しく俺の胸にもたれる様子に、魔力の使いすぎで疲れているとわかる。
早く休ませてやりたいと、思うと同時にその温もりに安堵して、いっそうダリアを抱き寄せている手に力が入った。
ダリアが俺のことをわからなかったのは、当然だ。
あの時のダリアは、目が見えてなかったのだから。
早く帰ってやらねばと思っていたのも、あんなことがあり、きっと泣いていると思った。
彼女の側で支えてやりたい、と思っていたのだ。
あの日からダリアのことばかり気になって、彼女と結婚したいと思うまで、そう時間はかからなかった。
ダリアに出会ってから今までにないほど、気になっていた女性だったのだ。
それなのに、俺は記憶喪失になり、ダリアを支えてやれてないとは……!
「ダリア!!」
「ダリア様!!」
悲鳴の聞こえた納屋に突入すると、そこには座り込んだダリアと、唸りながらうずくまる男がいた。
「ダリア! 大丈夫か!? ダリア!」
「ノクサス様……来て下さったのですね」
「当然だ!」
何度も何度も、ダリアの名前を呼んだ。
座り込んだダリアに、あの時の同じことになったのでは!? と心臓がえぐられそうな気持ちを抑えられずに抱き寄せた。
ダリアは、抵抗することはなかった。か弱い手でそっと腕を握りしめてくれた。
しかし、その腕からは軽度ながらも斬られたあとがある。その赤い血に怒りが沸いた。
「お前はあの時の男だな? 1度ならず2度までもダリアを傷つけるとは許せるものではないぞ!」
ダリアを傍らに抱き寄せたまま、剣を向けた。
「ノクサス様。私は大丈夫です。ミストがノクサス様を呼んで来るまでに、もう一つトラップの魔法陣を作ったのです。この人は、襲って来ましたけど、それにかかってしまって、うずくまっているのです……」
「……呼吸が少し速いぞ。腕も斬られている」
「魔力の使いすぎです。その……私は能力が低くて……腕もナイフがかすっただけですから……」
「すぐに休ませてやる。もう危険な目には合わせん」
疲れているのか、ダリアは身体を預けるようにもたれかかっていた。
うずくまっている男は、憔悴しきったように泣いていた。
「……もう駄目だ……また……うぅぅっ……」
その様子に、ダリアも困惑している。
「この霧はダリアが作ったのか? 騎士たちを連れて来たから、すぐに捕える。霧を解いてくれないか」
「これは、ミストが……ミスト、霧を解いてちょうだい」
「……止めを刺さないのですか?」
「ノクサス様が、来てくれたから……それに、何だかおかしいわ……」
目の前の男は、すでに戦意喪失している。ダリアもそれをわかっていた。
「ミスト。霧を解け。ダリアには、誰も近寄らせない」
そう言うと、一睨みしたあとに、ミストは霧を吸い込むように霧を消していった。
霧が段々と晴れていき、庭には他に4人の男たちがいた。
座り込み呆然としている男に、両手をつき嗚咽を漏らす男……異様な光景だった。
「男たちを捕縛しろ!」
この屋敷を囲んでいる騎士たちに、指示すると一斉に騎士たちは捕縛した。
騎士たちが、捕縛している間にダリアの斬られた腕の治癒のためにノインを呼び、回復魔法をかけさせた。
軽い切り傷だったために、ノインの回復魔法であっという間に治った。
ノインはそのあと、捕らえた男たちのもとへ、「失礼します」と言って、離れた。
気を遣い、俺とダリアを二人にしてくれたのだろう。
「ノクサス様。私は大丈夫です。おろしてください……」
「離したくない。このままでいてくれ」
「でも、皆さまに見られます……」
「見られてもかまわない」
ダリアを離せずに、地面に座り込んだ俺の膝の上に乗せていると、可愛らしく頬を染め、恥ずかしながらそう言ってきた。
「心配した。あの時のようになればどうなるかと……」
「あの時……? また、私を調べたのですか? それとも……」
「全て思い出した。何故、ダリアが俺のことがわからなかったのかもわかった」
「私を助けてくださったのは、やっぱりノクサス様だったのですね……」
少しだけ驚いたように、目を丸くして腕の中から見上げてきた。
しかし、思ったよりは驚いてなかった。
「気づいていたのか?」
「もしかしたら、そうじゃないかと……同じようなことを言ってましたから」
「すまない……もっと早く会いに行くべきだった。あれから、こんなことになっているとは思わなかった」
「いいのです……また、来てくださいましたから」
あの時、助けに入ったのが俺だと感づいていながらも、言えなかったのはわかる。
もし助けに入ったのが俺ではなかったら、秘密を言ってしまうことになる。
言いたくなかったのだろう。
その上、記憶もないのに結婚を申し込んでいた。
今ならわかる。ダリアは、結婚相手にその秘密が受け入れられるか不安だったのだ。
いくら記憶がないとはいえ、自分の気持ちばかり押しつけていたことに情けなくなる。
一人で秘密を抱え、男たちに見つからないようにひっそりと生活をして、しまいには妾に上がるところだった。随分苦労をさせていた。妾に上がるのも、もしかしたら、男たちから、隠れられるだろうとも、思っていたのかもしれない。
父上が亡くなり、借金に追われてどうしようもなかったのだ。
腕の中で大人しく俺の胸にもたれる様子に、魔力の使いすぎで疲れているとわかる。
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